これで解るDiscovery CT 750HDの可能性 慶應義塾大学病院中央放射線技術室 山崎彰久

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 当院では2008年12月より、GE社製64列高分解能MDCT「Discovery CT 750HD」(以下、HDCT)が稼働を開始し、頭部から体幹部および心臓など、あらゆるCT検査を実施している。HDCTには、従来のCTとは異なる2つの大きな特長がある。1つは、ガーネットを用いた新しいシンチレータ(Gemstone)を検出器に使用していることである。このシンチレータは、X線から光への変換速度、いわゆる“Primary Speed”が0.03μsecと高速であり、従来のシンチレータGOSと比較すると、約100倍の変換速度である。また、残光特性(アフターグロー)もGOSの1/4にまで時間短縮している。この特性を用いることで、High Resolutionモードでは、従来ビュー数の約2.5倍である2496ビューを0.35秒間で収集可能になり、より高空間分解能な画像が得られる。もう1つの特長は、新しい画像再構成法“ASiR”(Adaptive Statistical Iterative Reconstruction)である。ASiRは、フォトン信号内に存在するフォトンノイズのみを算出し、削除する新しい画像再構成法である。この再構成法により、高分解能化および低線量撮影などで増加するノイズの低減が可能になった。
 これら2つの大きな特長による利点を、ファントム実験および実臨床データなどを示して紹介する。

慶應義塾大学病院中央放射線技術室
山崎 彰久


s 空間分解能の向上

 空間分解能に関するファントム実験として、Catphanファントムのスリット分解能による結果から、ガントリセンターにおいて、LightSpeed VCT(以下、VCT)の0.625mmからHDCTでは0.556mmと向上していることが解った。15cmオフセンターでは、VCTの1.0mmからHDCTでは0.71mmと向上している(図1)。また、同様の条件におけるワイヤーファントムを用いた10% MTFは、ガントリセンターではVCTの0.733mmからHDCTでは0.629mmと、14.2%向上している。15cmオフセンターでは、VCTの0.958mmからHDCTでは0.746mmと、22.1%向上している(表1)。オフセンターにおける空間分解能の向上は、2.5倍になったスキャンビュー数が大きな要因である。なお、使用関数は、VCTはStandard関数、HDCTはHDCT用に特化したHD Standard関数である。

Catphanファントムを用いたスリット分解能
図1 Catphanファントムを用いたスリット分解能

図1と同条件におけるワイヤーファントムを用いた10% MTF
表1 図1と同条件におけるワイヤーファントムを用いた10% MTF

 臨床画像においても、画質の違いは顕著に現れている。図23は、それぞれ984ビュー(VCT)と2496ビュー(HDCT)で撮影した同一患者の側頭骨ターゲット画像である。HDCT画像は、高分解能かつヘリカルアーチファクトが少ないため、内耳構造および側頭骨が明瞭に描出されている。図4 は、655ビュー(VCT)と1662ビュー(HDCT)で撮影した同一患者のコロナリーステントのフォローアップ画像である。HDCT画像は、高分解能化によりブルーミングアーチファクトが低減され、ステント内腔評価がより行いやすくなっている。
  このような明瞭かつアーチファクトの少ない高空間分解能画像は、診断能を向上させると考えられる。

VCTとHDCTで撮影した同一患者の側頭骨ターゲット画像
図2 VCTとHDCTで撮影した同一患者の側頭骨ターゲット画像
VCTとHDCTで撮影した同一患者の側頭骨ターゲットコロナル画像
図3 VCTとHDCTで撮影した同一患者の側頭骨ターゲットコロナル画像
VCTとHDCTで撮影した同一患者のコロナリーステント画像
図4 VCTとHDCTで撮影した同一患者のコロナリーステント画像
 

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s ASiRによるノイズ低減効果

 一般的なCT の画像再構成法はFBP(Filtered Back Projection)法であり、簡潔な計算プロセスにより再構成が速いことが利点である一方、再構成された画像ピクセル値が真値ではないために、ノイズやアーチファクトが発生することが欠点である。
  HDCT で採用された新しい画像再構成法“ASiR”は、PET/CTやSPECTで以前から用いられている逐次近似法を応用した画像再構成法であり、Row-Data中の信号は、すべて使用しながら、ノイズ成分だけを削除する画像再構成法である(図5)。

ASiRの概念図
図5 ASiRの概念図

 当院の心臓CT検査におけるASiR使用例を図6に示す。図6 aは従来の心臓CT検査画像で、SD=27.6 である。図6 bはHD関数を用いた高分解能画像であるが、SD=46.8と劣化している。図6 cは、図6 bの高分解能画像+ASiR 50%の画像で、SD=30.8と図6 bよりノイズが34%低減されている。ASiRを用いることにより、被ばく線量を増加させることなく、いままでと同じSDの画像が得られる。

ASiRの概念図
図6 ASiRの概念図

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s デュアルエナジースキャン(Gemstone Spectral Imaging)

 HDCTは、新しいシンチレータ(Gemstone)検出器の搭載により、1 管球で低圧(80kVp)、高圧(140kVp)を高速に切り替えながら、1回転で2つの異なるエネルギーデータを収集するデュアルエナジースキャン(Gemstone Spectral Imaging:GSI)が可能である(図7)。

デュアルエナジースキャンおよびデュアルイメージ
図7 デュアルエナジースキャンおよびデュアルイメージ

 図8は、胸郭ファントム内に異なる造影剤濃度のシリンジ、および異なるカルシウム濃度のファントムを留置し、デュアルエナジースキャンを行った例である。図8a、bは、それぞれカルシウム画像とヨード画像であり、
良好な物質弁別が行われていることが確認できる。図8cは仮想単色X線画像(Monochromatic)であり、各ROI内の物質密度散布を図8dのグラフに示している。HDCTでは、Row-dataベースによるデュアルエナジーサブトラクションを行っているため、このような仮想単色X線画像も得ることが可能である。

GSIによるカルシウム画像(a)、ヨード画像(b)、仮想単色X線画像(c)、各ROI内の物質密度散布のグラフ(d)
図8 GSIによるカルシウム画像(a)、ヨード画像(b)、
仮想単色X線画像(c)、各ROI内の物質密度散布のグラフ(d)

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s 結語

 以上述べてきたように、HDCTは被ばく線量を増加させることなく、頭部から体幹部および心臓など、あるゆる検査部位において、高空間分解能かつアーチファクトの少ない画像が得られる。また、デュアルエナジー撮影による物質弁別画像や物質密度解析などの新たな情報が得られるが、今後さまざまな臨床検査を重ねることで、診断能の向上も期待される。


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GE社のMDCTについてはこちらをご参照ください。

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GEヘルスケア・ジャパン株式会社
(2009年8月1日より社名が変更になりました)
〒191-8503 東京都日野市旭が丘4-7-127 TEL 0120-202-021(カスタマー・コールセンター)
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