頭頸部領域、脊椎・脊髄領域のイメージングにおいて、脂肪抑制は正確な診断をするために重要である。しかし、組織と空気の境界で磁化率の違いが大きい鼻腔・副鼻腔近傍、磁場不均一が発生しやすい頭頸部・頸椎部領域、金属による磁場不均一のある部位では、従来の周波数選択型脂肪抑制法のCHESS法では、しばしば脂肪抑制が不良となる。不完全な脂肪抑制は病変を識別する上で非常に妨げとなる。ここでは、IDEALと従来から用いられているCHESS法の脂肪抑制効果の比較を中心にいくつかの画像を紹介する。画像は1.5Tまたは3T MR 装置によるものである。
図2は、副鼻腔の空気による磁化率アーチファクトの例である。造影前後のCHESS法による脂肪抑制T1強調画像、およびIDEALによるT1強調画像である。IDEALでは造影前後ともに、CHESS法で見られるアーチファクト(鼻甲介や副鼻腔近傍の信号欠損)のない良好な脂肪抑制画像が得られている。 |
図2 副鼻腔の空気による磁化率アーチファクトの軽減
CHESS法に比し、IDEALによるT1強調画像では造影前後で鼻甲介、副鼻腔が良好に描出されている。3T装置使用。
|
|
図3は、木村氏病の症例である。CHESS法、IDEALを用いたFSEのT2強調画像を比較してみると、IDEALでは頸部での脂肪抑制によるムラが低減され、リンパ節を明瞭に観察できる。FSEのT1強調画像においても同様の効果が見られ、IDEALでは頸部付近での信号低下がなく、リンパ節も明瞭に観察される。肩の部分の信号も良好に抑制されている。
また、生体内における金属の存在は、上記同様に周囲組織との間に大きな磁化率の違いを生じ、CHESS法での脂肪抑制が困難であることは日常的に経験する。 |
図3 木村氏病
耳下腺背側部の腫瘤(←)と腫大した頸部リンパ節(←、○)が認められる。CHESS法では脂肪抑制が不均一であり、肩の脂肪が消え残っている(▼)。また、辺縁での信号が低下している(○)。IDEALによるT2強調や造影T1強調の水画像では均一な脂肪抑制が得られ、リンパ節が評価しやすい(←、○)。3T装置使用。
|
|
図4は、頸部脊柱管狭窄症術後の症例である。手術に用いた金属、義歯のアーチファクト、頸部特有の静磁場不均一の影響で、CHESS法によるFSEのT2強調画像では周囲の信号欠損や脂肪の消え残りによる椎体の信号ムラが顕著に見られるが、IDEALではこれらのアーチファクトのない、均一な脂肪抑制画像が得られている。金属も明瞭に観察できる。また、IDEALでは1回の撮像で水画像(脂肪抑制画像として利用する)、脂肪画像、In Phase画像、Out of Phase画像の4種類の結果が得られる。In Phase画像は脂肪抑制をしていない通常のMRI撮像であり、脂肪抑制画像と同時に得られることも付け加えておく。 |
図4 頸部脊柱管狭窄症術後
CHESS法では脂肪抑制が不完全で、信号にムラがあり、画像の評価が難しい。IDEALでは均一で良好な脂肪抑制画像が得られている。1.5T装置使用。
|
|
図5は、胸椎圧迫骨折の症例である。比較的広範囲な撮像視野における脂肪抑制効果が認められる。図5 aはCHESS法による脂肪抑制T2強調画像であるが、胸椎下部の信号が強く、脂肪抑制の消え残りを示唆している。一方、図5 bのIDEALではT2強調画像にて、上部から下部まで均一な信号を呈しているのがわかる。 |
図5 胸椎圧迫骨折
CHESS法では下部胸椎の脂肪抑制が不十分である。IDEALでは脂肪抑制が良好で均一な信号強度である。IDEALによるT2強調の水画像では脊髄・髄液も良好に観察できる。→は圧迫骨折。1.5T装置使用。
|