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Ventri導入 |
当核医学検査室では、年間約1000件のPET/CTを除く約2000件を2台のガンマカメラで撮像しており、このうちの約2/3が心臓核医学検査です。1995年に導入したGE社製「Optima」(図1a)は、非常にコンパクトで、操作がきわめて簡潔かつ手軽で、心筋血流シンチグラフィを撮像するには最適でした。しかし近年、Optimaの画像が劣化してきたのではないかと感じていました。ガンマカメラで放射線検出に使用しているNaIクリスタルは、経時的に劣化するため、長年の使用によって画質の劣化が現れてくることは否めないということかもしれません。この間、CTやMRIなどを中心に画像診断装置の目覚しい機能向上があり、心臓核医学検査は不要になるのではないかと心配もしていました。しかし、心筋血流画像による冠動脈疾患の機能的評価は近年、多くのエビデンスによってむしろ臨床的重要性が増したと思われ、少なくともしばらくは需要が減ることはないと考えるようになりました。そこで、Optimaの入れ替えを計画していたところ、後継機である「Ventri」がタイミング良く発売されました。
このとき当院では、2007年のPET/CT導入に伴い、わずか約51m2の検査室に2台のガンマカメラを設置していたので(図1c)、2検出器型の大きなガンマカメラへの入れ替えは不可能でした。したがって事実上、Optimaとほぼ同じ面積で設置できるVentriだけが候補機と考えられました。また、導入費用がOptimaに比しきわめてリーズナブルであり、これまでのGE社製ガンマカメラの使用経験や蓄積されたデータが使えることなど、本機導入に際し障害となる事柄はほとんどないことも導入の決め手となりました。 |
図1 |
a: |
固定2検出器型ガンマカメラのGE社製Optima。小視野ではあるが、心臓および脳SPECTの専用カメラとして使用した。 |
b: |
Optimaで撮像、FBPで再構成して診断に使用した画像(左冠動脈回旋枝の閉塞による急性心筋梗塞の症例)。 |
c: |
51m2の体外計測室に2台のガンマカメラを設置している。汎用のMillenniumVGと同じサイズのガンマカメラを2台設置することは困難である。運動負荷装置などの設置も考えると、Ventriはほぼ唯一の選択肢となる。 |
d: |
Ventriの最小設置面積は、307cm×358cmときわめて小さい。 |
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導入直後の印象 |
既存装置の撤去は2009年1月31日(土)から開始しました。Ventriの設置完了後、2月5日(木)にテスト撮影、9日(月)には臨床使用が可能となり、検査休止期間は5日間でした。旧装置とほとんど同様の構造なので、操作も同様である場合が多く、技師の方たちも比較的スムーズに仕事に入れたのではないかと思います。
外観は旧装置とほとんど同じですが、この装置には細かな改良点がいくつもありました(図2)。まず、ベッドがより低い位置まで下がるようになり、患者さんの昇降が楽になりました。検査中に患者さんが上げた腕を支えるアームサポートや、脚を支えるレッグサポートもあり、これまでよりは楽に検査を受けていただくことができます。検出器を支えるリング状駆動装置の開口径も大きくなり、圧迫感が軽減しています。下壁領域のアーチファクトを軽減できる腹臥位での撮像(うつ伏せ検査)も可能です。付属する新しいデータ処理装置Xeleris(エクセラリス)は、解析ソフトは最新ですが、旧装置と同様のインターフェイスであり、すぐに慣れることができます。これまでのデータを保存しているサーバとの連結も、問題なく行えました。
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図2 新しく設置されたVentri
非常にコンパクトでありながら、旧機種であるOptimaに比し、検出器を支えるリングの開口径が大きく、被検者の通過が容易となった(b)。ベッドもかなり低い位置まで下ろせるようになった(c)。2台のガンマカメラは近接しているが、検出器横に鉛パネルを設置して干渉を低減させている(d)。うつ伏せ検査もサポートしている(e、f)。
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問題は画像です。今回のVentriに付属するコリメータはLEHRのみです。当院の心筋血流SPECTは、ほとんどがテクネシウム99mTc製剤を用いています。ASNC(American Society of Nuclear Cardiology)のガイドラインでもLEHRコリメータが推奨されていますが、収集カウントが十分であることが前提です。旧装置では、分解能より感度を重視し、LEGPコリメータを使用してきました。そこで注目したのが、Ventriで新しく採用された応答関数補正ソフトウェア“Evolution”(図3 Evo)です。Evolutionとは、ガンマカメラが検出する放射線の距離による広がり(ボケ)を補正して、画質を向上させるソフトウェアです。このアルゴリズムは、逐次近似画像再構成アルゴリズムの中に物理的モデルを組み込むことによってSPECT画像を改善するもので、University of North Carolina Chapel Hill(UNC)とJohns Hopkins University(JHU)で開発されました。臨床的有用性は、画像改善と収集時間の短縮とされています。
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図3 Ventriにおける左心室を模した
壺状ファントムでの検討
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画質の検討 |
画像の検討は、まずはファントムを用いて行いました。(図3)。左心室を模した壺状ファントムに、適量のテクネシウムを入れて撮像しました。このファントムは、前壁に小さな欠損を設けています。従来使用していたfiltered back projection法(FBP)で再構成した画像と比較してみますと、Evolutionでは壁の辺縁がスムーズで、全体に均一な集積を示す傾向が見られます。また、欠損像もクリアで、FBPより大きくなっています。この場合、実際に近いのはEvolutionの方です。
図4は、左冠動脈回旋枝の急性梗塞患者さんの安静時SPECTです。通常の1step
40秒収集の撮像に加えて1step 10秒で撮像し、比較しました。いずれも心電図同期です。現在の撮像条件を図5に示します。1step 10秒の短時間撮像を行ってFBPで再構成しても、比較的画質は維持されています。1step 40秒ではさらに画質が向上しています。LEGPコリメータを用いて撮像していた図1 bと比較すると(同一症例ではありません)、壁厚の薄さや肺野集積の違いがわかります。Evolutionを用いるとノイズが減り、壁の辺縁がよりスムーズになります。集積も均一で、ややMRIに近い画像になっており、ノイズの少ないきれいな画像です。ただEvolutionでは、下壁領域の集積がやや少ないように感じます。特に、1step 10秒の画像では、その差が目立つようです。今後さらに症例を重ねる必要はありますが、撮像時間の"極端な"短縮はしない方がいいかもしれません。
本装置ではうつ伏せ検査が可能です。うつ伏せ検査は、下壁のアーチファクト鑑別に有用であると報告されています。通常の検査(仰向け)後にうつ伏せ検査を追加するため検査時間が延長しますが、Evolutionとの組み合わせによりトータル検査時間が延長しないために、検査数を減らすことなく実施できれば、さらなる診断能向上に結びつく可能性があります。QGS解析の結果では、左室駆出率には大きな差を認めませんでしたが、容積では“けっこうな差”が認められました。QGSで評価する場合は、再構成法を統一しておいた方がいいようです。
その他、肥大型心筋症や拡張型心筋症の診断で感じてきた心筋集積の特徴や、肺うっ血像など、画像から感覚的に判断してきたことが、そのまま当てはまらなくなる可能性があります。また、当院ではいまのところ、タリウム(201Tl)やヨード(131I)製剤の画像は検討していません。海外のデータによると、Evolutionの臨床的有用性は示唆されているようですが、まだまだ症例を積み重ねて慎重に検討する必要があると思っています。 |
図4 左冠動脈回旋枝の急性梗塞症例の
安静時SPECT
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図5 当院で実施している負荷99mTc-MIBI
またはTetrofosmin心筋シンチの
プロトコール
(1日法)
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●参考文献 |
1) |
Hansen, C.H., Goldstein, R.A., Akinboboye, O.O., et al. : ASNC imaging guidelines for nuclear cardiology procedures ; Myocardial perfusion and function ; Single photon emission computed tomography. J. Nucl. Cardiol., 14・6, 39〜60, 2007. |
2) |
Belhocine, T., et al. : Half-time resolution recovery package for SPECT-CT MPI ; A pilot study. J. Nucl. Med., 48, 234, 2007. |
3) |
Malkerneker, D., Brenner, R., Martin, W.H., et al. : CT-based attenuation correction versus prone imaging to decrease equivocal interpretations of rest/stress Tc-99m tetrofosmin SPECT MPI. J. Nucl. Cardiol., 14・3, 314〜323, 2007. |
4) |
Tsui, B.M.W., et al. : Implementation of simultaneous attenuation and detector response correction in SPECT. IEEE transaction on nuclear science, 35・1, 778〜783, 1988. |
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