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CT検査における実効線量 |
種々の放射線診断実効線量の代表的な値を表1に、当院での各部位のCT検査実効線量を表2にそれぞれ示す1)、2)。放射線診断による被ばく線量は、おおむね10mSv程度までである。これらの線量の大きさを評価するために、自然放射線(地殻や空気などに含まれる天然放射線核種からの放射線および宇宙線)の量がしばしば引き合いに出される。自然放射線量は世界の平均で2.4mSv、日本の平均で1.4mSvである。したがって、通常のCT検査での実効線量は、自然放射線量の数年分程度であると言える。
CTの実効線量は、検査部位によりその線量が異なっている。表2に示したのは一例であるが、CT検査による実効線量は装置、設定(撮影範囲の長さや撮影回数を含む)、患者の体格などにより異なっており、他施設のデータがそのまま当てはまるわけではない。そのため、各施設で検査ごとに実効線量を評価する必要がある。
表1
種々の放射線診断における実効線量の代表的な値1),2)
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表2
当院のCT 検査(フィリップス社製16列マルチスライスCT)における実効線量 |
実効線量を正確に評価するためには、モンテカルロ法を用いてシミュレーションを行う方法や、人型ファントムに線量計を埋め込んで各臓器の線量を測定する方法などがあるが、煩雑なため臨床で使用するのは容易ではない。一方、CT装置のモニタ上に表示されるDose-Length Product(DLP)に部位ごとの変換係数を掛けることで、実効線量を概算することは可能である3)。この方法はきわめて簡便であるが、換算係数は身長、性別、年齢、使用装置などにより異なる。特に、小児の場合には、身長が低く散乱線の影響が強く生じるため、換算係数が2〜3倍となっている点に注意が必要である(表3)4)。さらに、実効線量あたりの発がんリスクも、放射線感受性の高い小児では2〜3倍となりうる。新生児に成人と同一条件でCT撮影を行ってしまった場合、計算上は成人の10倍程度の発がんリスクが見込まれる。したがって、小児に対してCT検査を行う場合には、被ばくに関して十分な配慮が必要である。
表3 各部位のCT 検査における実効線量を概算するためのDLP-実効線量換算係数(小児・成人)4)
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マルチスライスCTを用いた検査による被ばくに関する問題点 |
一般的に、検査機器が進歩すると被ばく線量は減る傾向にあるが、CT検査では、1検査あたりの被ばく線量は必ずしも減少していない。
大きな要因のひとつには、スキャン時間が短縮され、管球容量も増加したため繰り返し撮影が増え、撮影範囲も広がったことが挙げられる。ヘリカルCT装置が使用される前には、上腹部の撮影であれば、造影後は一相のみを撮影することが一般的であったが、最近の装置では、造影後も数相の撮影を行うこともまれではない。また、当時は胸腹2部位の撮影は容易ではなかったが、現在は単純・造影ともに、胸腹部全体を撮影することも困難ではない。
別の要因として、薄いスライス厚の使用が挙げられる。最近のマルチスライスCTでは、Z軸方向の分解能を向上させるため、薄いスライス厚での画像再構成がしばしば行われる。単純計算上は、スライス厚を半分にした際には画像ノイズは√2倍となる。この増加したノイズを減少させる際には、照射線量を増加させて対応することが一般的であり、ノイズを同程度に保つためには2倍の照射線量が必要となる。したがって、ノイズを同程度に保ちながら再構成画像のスライス厚を10mmから5mm厚に変更すると、被ばく線量は倍になってしまう。
特に、心臓CTにおいては撮影範囲が12cm長程度と狭い割に、実効線量が高い値となっている。64列マルチスライスCTで、特別な被ばく低減策を用いずに心臓CTを撮影した場合の実効線量は、15〜20mSv程度とされている。心臓CTでの被ばく線量が多い原因としては、(1) 再構成にデータを使用しない心位相でもX線を照射していること、(2) ヘリカルピッチが小さいため、同一部位が重複して照射されること、(3) 薄いスライス厚、小さな表示FOVを使用するため、ノイズが増加すること(ノイズを相殺するため上述の理由で線量が増える)、(4) 後述の被ばく低減技術の一部が心臓CT撮影時には使用できないこと、などが挙げられる。 |
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最近のCT装置における被ばく低減のための工夫 |
CT検査における被ばくに対して、各メーカーは被ばく低減のための工夫を行っている。CT装置では、X線管球の陽極が熱膨張することで焦点が移動してしまう。以前のCTでは、この焦点の移動分も見込んで、実際の撮影範囲よりも広めにX線を照射していたが、Active Focal Tracking機能が付いた装置では、焦点移動に対応してコリメーションを変化させるため、被ばく低減が可能となっている。また、ヘリカルスキャンを行う場合には、撮影開始位置と終了位置では撮影範囲外にもX線が余分に照射されてしまうが、Adaptive Dose Shieldが組み込まれた装置では、このヘリカルスキャンの裾野の部分の余分な照射をカットし、被ばく低減が可能となっている。さらに、Volume Helical Shuttleでは、この裾野の部分のデータも画像化できるため、被ばく低減と同時に撮影の高速化も可能である。
上述のとおり、最近のCT装置では、薄いスライス厚を使用するため増えるノイズに対して、照射線量を増加させる傾向にあるが、一般的な画像ノイズ低減フィルタを使用することで、照射線量を抑えることができる。しかし、あくまで画像フィルタのため正確なノイズの除去はできず、CT値の信頼性にも若干の問題がある。一方、最近発表された逐次近似法を利用した新しい画像再構成法(ASIR:GE社)は、生データ上でCT値の確からしさを向上させてノイズを減少させるため、被ばく低減や画質向上に役立つものと期待される。また、被ばく線量の多い心臓CTにおいても、prospective ECG-gated axial scan(GE社:Snap Shot Pulse、フィリップス社、シーメンス社:Step and Shoot)を使用することで、被ばく線量は従来の数分の1程度に軽減することができる。
最近の装置では、各メーカーとも、撮影部位の被写体のX線吸収量を考慮して、Z軸方向で管電流を自動的に調節できる。この管電流の自動調節機能はX -Y平面での管電流調節機能と併せて使用されることが一般的である(GE社:3D mA Modulationシーメンス社:CareDOSE4D、フィリップス社:Z-DOM、東芝社:Volume EC)。この管電流自動調節機能を用いて胸腹部CTを撮影する場合、胸部は空気が多く含まれているため、腹部に比べて管電流を下げ、結果として、どの部位でもノイズが同程度となる。一部の装置では、撮影パラメータとして管電流を入力する代わりに、目標とするノイズ量をCT値の標準偏差として入力する。この方法では、同一の患者さんの胸部・腹部ともに同程度のノイズになるよう管電流が調整されるだけでなく、体格の異なる患者さんを撮影した場合にも同程度のノイズとなるよう管電流が調節されるため便利である。ただし、この目標ノイズ量の設定には、十分な注意を払う必要がある。経験的には、メーカーが設置時に入力するプロトコールでは、目標ノイズ量が小さめ(線量が多め)に設定されていることが多い。薄いスライスの画像を頻回に使用する施設と、7.5mm厚以上のaxial像でのみ読影を行う施設では、必要とされる電流量は異なるであろう。また同一の施設でも、CT angiographyなど3D処理を行い細部の評価を目的とする場合と、axial像のみでの通常の読影を目的とする場合では、必要な線量は異なるはずである。マルチスライスCTでは、この目標ノイズ量の設定に限らず、コリメーション、ヘリカルピッチ、再構成スライス厚など、複数のパラメータの設定が線量・画質に影響する。したがって、各自の施設の状況を考えた上で、これらのパラメータを設定し、線量の最適化を図る必要がある。 |
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水晶体被ばく |
「白内障(軽度の混濁)の閾値は急性被ばくで5Gy(2Gy)、慢性被ばくで8Gy(5Gy)であり、閾値以下の被ばくであれば白内障は生じない」と、従来は考えられていた5)。しかし、放射線による白内障の閾値がより低いことを示唆する論文が最近いくつか発表されており、閾値が存在しない可能性も示唆されている6)〜 9)。また、白内障のリスクは線量に比例しており、1000mGyの被ばくで40%リスクが上昇するというデータもある7)、8)。これに対し、ICRPは2007年のPublication103で、「水晶体の放射線障害に関する最近のデータを検討し、線量限度を今後変更する可能性がある。水晶体障害のリスクに対する評価が確立していないため、水晶体被ばくに関しては行為の最適化が重要である」 としている5)。
筆者が、ファントムに対して数種類のCT装置にて全脳ルーチン撮影を行った際の水晶体被ばく線量を調査した結果、眼窩を照射野に含めて撮影した場合の水晶体の線量は50〜100mGy であった。最近のデータと合わせると、1回の全脳CTで白内障のリスクが数%増加する可能性があるのかもしれない。したがって、頭部CTにおいては水晶体の被ばくに対して注意が必要であり、全脳CTでは眼窩を照射野から外すなどの工夫が必要なのかもしれない。また、逐次近似法を用いた画像再構成法などの新しい技術を使用した、さらなる被ばく低減が望まれる。 |
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結語 |
マルチスライスCTを用いたCT検査での被ばく線量は、撮影パラメータの設定により大きく左右される。そのため、各施設で個別に線量を評価し、施設の状況にあった線量の最適化を行うことが重要である。 |
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●参考文献 |
1) |
McCollough, C.H., Schueler, B.A. : Calculation of effective dose. Med. Phys. , 27, 828 .837, 2000. |
2) |
Radiation dose to patients from radiopharmaceuticals. ICRP Publication 80, Ann. ICRP, 1999. |
3) |
European guidelines on quality criteria for computed tomography.
http://www.drs.dk/guidelines/ct/quality/htmlindex.htm |
4) |
Managing Patient Dose in Multi-Detector Computed Tomography(MDCT). ICRP Publication 102, Ann. ICRP, 2007. |
5) |
The 2007 Recommendations of the International Commission on Radiological Protection. ICRP Publication 103. Ann. ICRP, 2007. |
6) |
Nakashima, E., Neriishi, K., Minamoto, A., et al. : A reanalysis of atomic-bomb cataract data, 2000-2002 ; A threshold analysis. Health Phys. , 90, 154 .160, 2006. |
7) |
Minamoto, A., Taniguchi, H., Yoshitani, N., et al. : Cataract in atomic bomb survivors. Int. J. Radiat. Biol ., 80, 339 .345, 2004. |
8) |
Neriishi, K., Nakashima, E., Minamoto, A., et al. : Postoperative cataract cases among atomic bomb survivors ; Radiation dose response and threshold. Radiat. Res. , 168, 404 .408, 2007. |
9) |
Worgul, B.V., Kundiyev, Y.I., Sergiyenko, N.M., et al. : Cataracts among Chernobyl clean-up workers ; Implications regarding permissible eye exposures. Radiat. Res. , 167, 233 .243, 2007. |
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