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2002年頃の小児CTをめぐる背景 |
当センターが開院する約1年前の2001年1月22日、米国の大衆紙“USA Today”の一面に、AJR 誌に掲載されたBrennerの論文1) を紹介した小児CT被ばくに関する記事が掲載された。この新聞記事が世間に与えたインパクトは大きく、全米のみならず世界中のマスコミが、小児に対するCT被ばく過多を取り上げて報道した。Brennerの論文の要旨は、米国で年間60万件行われる15歳以下の頭部・腹部CT検査により、将来、約500人がCT被ばくに起因する“がん”で死亡する計算になるという内容であった。
同論文が掲載されたAJR 誌には、小児CTが成人同様の設定で行われている実態調査の論文2) 、および小児の体重に見合った理想的な管電流設定を推奨する3つの論文3)がセットで掲載された。その後、約2年間で小児のCT被ばく低減に関するさまざまな動きがあり、米国小児放射線学会のExecutive summary〔Conference of ALARA(as low as reasonably achievable)concept〕や、米国食品医薬局(FDA)のCT被ばく低減に関する警告などが次々と発表された。
このように、小児CT被ばくについて解決すべき問題が表面化した翌年、当センターがオープンし、その時代の空気とともに、小児に最適な条件でのCT検査法を模索し始めた。 |
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手入力の体重法からAuto mAへ、そして Color Code Protocolへ |
開院当時、世間ではまだシングルヘリカルCTについての論文が主流で、体重に見合ったシングルヘリカルCTの管電流設定が指標とされていた。われわれもAJR 誌に掲載されていたDonnellyらの腹部シングルヘリカルCTの推奨条件3) と、これに近い数値を体重から計算できる東大・赤羽正章先生の方法を用いた4) 。しかしこの方法は、8列MDCTでは新生児・乳幼児CTで高画質(被ばく過多)、ヤングアダルトから成人のCTでは逆に低画質(線量不足)であることがわかった。そこで、シングルヘリカルCTの設定で得られた小児の体重とmAs値と画質(SD)の3つの関係のデータ解析を行い、どんな体格(体重)の子供が訪れても再現性のある画質(5mm厚表示で肝実質のCT値のSDを8に設定)になるように、体重からmAsを換算する式
y=0.04x2+0.8x+24
(y=理想とするmAs, x=患児の体重) を考案した5) 。
この頃は、患児がCT室に入室する前に体重計に乗ってもらい、上記の数式を用いて最適なmAs値を計算し、CT担当技師がmAsをコンソールで手入力する煩雑な体重法の時代だった。その後、バージョンアップによりAEC(automatic exposure control)であるAuto mAが加わり、自分たちで計算した必要十分と思われるmAs値が最大線量となるように、リミッターとしてMax mA値を設定した。 さらに途中から、LightSpeedシリーズには、“Color Code Protocol”と呼ばれる小児用フォーマットが導入された(図1)6) 。これは、米国麻酔科学会で決められている体重ごとに色分けされた識別方法をCTのコンソールに取り入れたアイデアで、患児は9つの体重区分に分類される。
本来このシステムは、小児用の気管内挿管チューブなどのサイズの規格を誤らないように工夫された色分けである。残念ながら出荷時には、このColor CodeにはAutomAとの組み合わせによるプロトコルはプリセットされていなかった。そのためわれわれは、これに前述の計算式で求めた管電流の条件を上限値として設定し、体重ごとにプリセットした撮影条件で自動的に線量調節できるようセットした7) 。その後、Color Code Protocolはさらに進化し、CTと電子カルテシステムが直結した。現在は患児の腕のバーコード認証により、カルテの体重情報がCTコンソールに自動入力されるようになり、ヒューマンエラーは極力抑えられている。
color codeによる9段階の体重設定と、Auto mAによる自動線量調節の組み合わせで、日常のCTの現場において理想的な被ばく低減がストレスなく実現できるようになった。現在の当センターのcolor code設定を図2に示す。
このような試行錯誤を経て、開院からほぼ2年程度でCTプロトコルを確立した。この頃までは、世間一般では被ばくに関するディスカッションはmAsで行われていたが、AECの普及によりmAsでの表現には限界を感じ、CTDIvol , DLPで語られる時代に移行しつつあった。 |
図1
LightSpeedのコンソール上の
Color Code Protocol 設定画面
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図2
国立成育医療センター放射線診療部の
腹部用プロトコル。
Auto mAの Noise Index=8に合わせた設定
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コンソール表示のCTDIvolはアダルト仕様? |
CT被ばくの多寡がCTDIvolやDLPで表現されるようになり、その重要性を意識し始めた頃、Scan FOVをSmallからLarge
に切り替えると不自然に線量が変化する現象に注目した。当センターでは、小児の腹部CTの場合、体重約10kgを境にScan
FOVを切り替えているが、同じ撮影条件にもかかわらず、Scan FOVをLargeにすると極端にCTDIvolが低下する現象が起き
る。その理由は、CTDIvol計算のベースになっているアクリルファントムが成人の頭部を模した直径16cmファントム(Small FOV用)と、成人の腹部を模した直径32cmのファントム(Large FOV用)を用いて計算されているためである(図3)。
また、ある換算を行ってみると、32cmサイズのファントムは成人約100kgの体重の腹部に相当し、16cmファントムは体重20kgの小児の腹部に相当することがわかった(図3)。小児は体重の減少とともに断面のサイズも小さくなっているはずなのに、自動表示されるCTDIvolは体重100kgの成人の断面に固定したままで計算されていることになる。その結果、Large FOVでは、その被ばく線量を低く見積もっていることがわかった(図3)。
小児の体重とともに可変する断面をシミュレートし、小児本来の体格に合わせたCTDIvolを計算して、パネル表示とどれほどの違いがあるのかを検討した。この体格に適応させたCTDIvolはパネル表示のCTDIに対して常に高く、上記の体重10kgで切り替えた直後では、パネル表示の2.2倍の値であった(図4)。この体格に合わせたCTDIを“adaptive CTDI”と名付けて報告したので、興味のある方はぜひ参照されたい8) 。
被写体が小児の場合、日常の検査中にパネルに表示されるDose Reportよりも、最大で2倍近く被ばくしていることがあることをわれわれは知っておくべきであろう(図5)。 |
図3
CTDI値は成人の頭部、腹部を模した2つのファントムから計算されている。16cmファントムは成人頭部を模しており、小児の腹部であった場合は20kgの子供に相当する。 36cmファントムは、約100kgの成人の断面に相当する。
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図4
赤の縦の破線は当センターでのSmall とLargeのScan FOVを切り替えるポイントを示している。コンソールパネル上のCTDIはここで大きく変動するが、われわれが検討したadaptive CTDIvolは連続する直線をなし、常にパネル表示より高かった。最大で2倍の開きがある点に注目したい。
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図5
左は体重80kg、69歳、男性の上腹部単純X線撮影CTである。パネル上のCTDIIvolは17.21mGyを示していたとする。これに対し体重が約半分の30kg、11歳、女児の腹部CTで、仮に線量を半分に設定すると、パネル上はCTDIIvolは8.22mGyで、見かけ上は数値は半分になる。しかし、体格を加味した断面で計算するadaptive CTDIでは18.1mGyである。
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小児CTの線量管理 |
われわれが2004年に行ったアンケート調査9) によれば、小児CTの撮影条件変更は9割近い施設で実施されており、スキャン方法は常勤放射線科医(約40%)か撮影技師(約30%)が決定し、撮影技師の経験(約50%)、またはAEC(約30%)を基準に管電流の変更を行っている。
今後は、わが国におけるCT撮影の指標である診断参考レベル(Diagnostic Reference Level; DRL)の設定が必要になると思われる。 |
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まとめ |
当センターの開設から今日まで、小児CT検査、特に撮影プロトコルの設定と被ばく低減の6年間の歩みを紹介した。CT機器の寿命は使い方にもよるが、当センターの8列MDCT「LightSpeed Ultra」も近い将来現役を退く日が来ることだろう。この優れた装置によって数多くの子どもたちの病気が診断され、数多くの幼い命が救われたことに感謝の意を表したい。 |
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●参考文献 |
1) |
Brenner, D.J., Elliston, C.D., Hall, E.J., et al.: Estimated risks of radiation induced fatal cancer
from pediatric CT. AJR , 176, 289 〜 296, 2001. |
2) |
Paterson, A., Frush, D.P., Donnelly, L.F.: Helical CT of the body ; Are settings adjust for pediatric
patients? AJR , 176, 297 〜 301, 2001. |
3) |
Donnelly, L.F., Emery, K.H., Brody, A.S., et al.: Minimizing radiation dose for pediatric body
applications for single-detector helical CT; Strategies at a large children’s hospital. AJR , 176, 303 〜 306, 2001. |
4) |
赤羽正章, 大友 邦:CT の被曝と撮影条件最適化; マルチスライスCT も含めて. 臨床画像, 22, 318 〜 327, 2002. |
5) |
宮崎 治:3・小児CT 被ばくの現状と推奨条件. 日本小児放射線学会雑誌, 21, 14 〜 20, 2005. |
6) |
Frush, D.P., Soden, B., Frush, K.S. et al.: Improved pediatric multidetector body CT using a size-based color-coded format. AJR , 178, 721 〜 726, 2002. |
7) |
宮崎 治:小児画像診断の最前線;患者管理−被ばく対策. 日獨医報, 49, 17 〜 28, 2004. |
8) |
Miyazaki, O., Horiuchi, T., Masaki, H., et al: Estimation of adaptive computed tomography dose index based on body weight in pediatric patients. Radiat. Med., 26, 98 〜 103, 2008. |
9) |
宮崎 治, 北村正幸, 正木英一, et al.:アンケートによる小児MDCT 検査の実態調査. 日本医学放射線学会雑誌, 65, 215 〜 223, 2005. |
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〈謝辞〉
稿を終えるに当たり、開院以来われわれのCT装置や小児の被ばくにつき、的確なアドバイスをいただいている堀内哲也氏に感謝の意を表します。また、国立成育医療センター放射線診療部歴代のCT担当技師である谷島義信、斎田淳子、岡崎史恵、加藤英一、島田彩乃、その他大勢の技師諸氏の献身的な努力にこの場を借りて厚く御礼を申し上げます。 |
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