Vol. 12 乳がん診断のIT化 IT化成功のポイントとは。

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第16回日本乳癌学会学術総会が9月26日、27日の2日間、「標準化から個別化へ」をテーマに大阪国際会議場(グランキューブ大阪)で開催された。27日(土)に行われたGEYMS共催のモーニングセミナーでは、特別医療法人博愛会診療統括部長/相良病院院長補佐の相良吉昭氏が、「乳がん診断のIT化」と題して、IT化が診断・日常業務にもたらすメリットや、スムーズにIT化するためのポイントなどについて、自身の経験を基に詳述した。

特別医療法人博愛会 診療統括部長 相良病院院長補佐 相良 吉昭 氏
特別医療法人博愛会
診療統括部長
相良病院院長補佐
相良 吉昭 氏
座長:聖マリアンナ医科大学 外科学乳腺・内分泌外科教授
座長:
聖マリアンナ医科大学
外科学乳腺・内分泌外科教授
福田 護 氏
  会場風景
会場風景




アナログからデジタルの時代へ

 医療のIT化においては、高額な導入コストや、院内にITの専門職がいないなど、さまざまな課題がある。一方、マンモグラフィのデジタル化とソフトコピー診断への移行は確実に進んでおり、2008年度の診療報酬改定では、デジタル映像化処理加算が廃止される方向で減点されたのに対し、電子画像管理加算が新設された(1)。

 こうした状況の中、特別医療法人博愛会 相良病院では、2003年から段階的にIT化を進めてきた。当院は、乳腺専用病床60床を有する乳がん専門病院であり、1日約300人が受診する。院内のIT化においては、まず、2003年にデジタルマンモグラフィ(FFDM)とCADを搭載した検診バスを導入。2005年には専属のSEを採用し、電子カルテを導入した。また、2006年に施設検診マンモグラフィがフィルムレス、ソフトコピー診断へと移行したほか、2007年からは遠隔読影システムの運用を開始している。2008年には乳腺科外来もソフトコピー診断となり、さらにはマンモトーム生検が可能なGE社製Senographe DS LaVeriteを導入。外来を含む日常診療のすべてがソフトコピー診断を中心とした体制へと移行した。

図1
図1
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s 乳がん診断のIT化における検討

 当院では、乳がん診断のIT化、ソフトコピー診断への移行にあたり、さまざまな検討を行った。その主なポイントを紹介する。


●FFDMの診断精度
 まず重要なのはFFDMの診断精度だが、日本医学放射線学会および日本放射線科専門医会・医会による2007年度版の乳房の画像診断ガイドラインでは、「推奨グレードA」となっている。この根拠となったのは、約2万5千人を対象に行われた“Oslo U study”と、約5万人を対象とした多施設共同研究“DMIST”であり、 FFDMの診断精度は乳がん検診において、アナログシステムとほぼ同等との結果が報告されている。さらに、DMISTにおいては、50歳以下、高濃度および不均一高濃度乳房、閉経前後については、FFDMの方が優れているとの結果も示されている。当院における検討でも、FFDMの乳がん検出率や陽性的中率は決してフィルムに引けを取らないという結果が得られた(図2)。

図2
図2
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●FFDM+CADのメリット
 ソフトコピー診断の大きな特徴として、画像調整の自由度が高いという点が挙げられる。反面、画面の最適化や機器を使いこなすための訓練が必要となる。同時に、フィルムにおける最適な画像がどのようなものかという知識が要求されるため、ソフトコピー診断を行うにあたっては、アナログマンモグラフィにおける経験はもちろん、適切なトレーニングを積むことが重要である。
  ちなみに、GE社の読影用ワークステーションには、“プレミアムビュー”というコントラスト最適化ソフトウェアが搭載されている(図3)。1クリックするだけで、わずか1秒で画像が最適化されるため、遠隔読影や検診で多くの読影を行わなければならない場合には特に有用である。また、CAD(iCAD:オプション)を搭載すれば、こちらも1クリックで石灰化が検出できる (図3 右)。石灰化部分を拡大表示することも可能であり、当院においても実際に、CADによって初期の乳がんが検出された(図4)。

図3
図3
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図4
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●遠隔診断支援システム
 ソフトコピー診断は検診にきわめて有用である反面、高額なコストが大きな壁となる。そこで当院では、遠隔診断支援システムの導入が問題解決の手段になりうると考え、厚生労働省の補助金を受けてシステムを導入し、2007年11月より遠隔読影を開始した。セキュリティやデータ転送などを含めたシステムそのものはすでに完全に確立されており、当院でもスムーズに導入することができた。現在、1日100例以上の読影依頼を受けているが、得られた利益を運営費にあてることで、事業として十分に成り立つと実感している。


●マンモトーム生検導入のポイント
  近年、画像診断の進歩により小さな病変の検出が増えていることで、確定診断も進歩する必要があるとの判断から、当院でもマンモトーム生検の導入に踏み切った。その結果、切開生検では施術に約40分かかるのに対し、マンモトーム生検では局所麻酔から組織の採取までが約15分であり、傷も非常に小さくてすむようになった(図5)。適応は、マンモトーム生検依頼の紹介患者および超音波所見のないC3以上の石灰化であり、2008年6〜9月中旬までに59例に対して施行している。その結果、悪性率は19%(院内のみ24%)、境界病変は5%という成績であった。

 マンモトーム生検には、Pron position(腹臥位)タイプとUp-right(座位)タイプがあるが、当院では通常の検査も可能なUp-rightとLateral(側臥位)のハイブリッドなFFDMを導入し、コストパフォーマンスの向上を図った(図6)。

図5
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図6
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システム構築の実際

 フィルムレス化にあたっては、撮影機器、読影機器(モニタ、ソフトウェア)、サーバ、ネットワークへの投資が必要になるが、このうち、読影機器とサーバへの投資が最も負担が大きい。そこで、当院のシステム構築の実際だが、例えばモニタについては、検診用は5M、乳腺外来用は3M、再発・術後外来用は汎用PCモニタというように、高額なものから安価なものまで使い分けている。また、画像参照・画像管理用のソフトウェアにはフリーのDICOMビューワソフトウェア“OsiriX”を使用。サーバについては検診用のみ専用サーバを購入し、外来用については汎用PCサーバで対応した。このように、診療スタイルに合わせたシステム構築を行うことで、初期費用の抑制にもつながった。

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s まとめ

 乳がん診療のIT化には、診断精度の向上、業務プロセスの飛躍的な改善、スループットの向上、画像管理の簡素化、過去画像比較の利便性向上、CAD・遠隔読影への対応が可能になるなど、投資額を上回る多くのメリットがある。システム構築や初期投資の問題は十分に解決可能であり、バランススコア的な発想で早期にIT化に取り組むことが、まさに成功のポイントである。

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*第16回日本乳癌学会学術総会モーニングセミナー1(2008年9月27日)より抜粋

●お問い合わせ先
GE横河メディカルシステム株式会社
〒191-8503 東京都日野市旭が丘4-7-127 TEL 0120-202-021(カスタマー・コールセンター)
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