Vol.6 MRI:体幹部領域におけるVolumeアプリケーションの臨床応用

WEB REPORTインナービジョン誌掲載記事TOPに戻る  


第67回日本医学放射線学会総会(JRC2008)が4月4〜6日の3日間にわたって開催された。4月5日(土)にはGEYMS共催のランチョンセミナーが開催され,社会福祉法人聖隷福祉事業団 総合病院 聖隷浜松病院の増井孝之氏が,「MRI:体幹部領域におけるVolumeアプリケーションの臨床応用」と題して講演を行った。
増井孝之 氏
社会福祉法人聖隷福祉事業団
総合病院 聖隷浜松病院
放射線科
増井 孝之 氏
杉村和朗 氏
座長:神戸大学大学院医学系研究科
生体情報医学講座
放射線医学分野教授
杉村 和朗 氏
  会場風景
会場風景
ITEM2008に出展されたSigna HDx
ITEM2008に出展されたSigna HDx



MRIは近年,パラレルイメージングの“ASSET”,“GEM”,“ARC”,高速撮像シーケンスの“FIESTA”,“MEDAL”,最適化したフェイズドアレイコイル(8〜12ch),さまざまな画像コントラストなどによって,広く,速く,高精細な撮像が可能になっている。当院では現在,GE社製1.5T MR装置SignaHDe,SignaHDx,SignaHD(Twinspeed)が稼働しており,これらを用いた(1)体幹部非造影MRA,(2)メタボリック評価,(3)骨盤領域のFASTアプローチの3点についてお話する。なお,今回のパルスシーケンスの多くは,GE社との共同研究によるものであることをお断りしておく。

 

体幹部非造影MRA

 非造影MRAのメリットには,造影剤の副作用がないこと,繰り返し撮像可能であること(描出が不十分でもパラメータを変えて再撮像できる),腎動脈など部位によっては造影よりも描出能が高いことなどがある。一方,デメリットとしては,撮像時間が長い,SNRが低い領域がある(最適なコイルの使い分けが必要),環流の評価が万能ではないということが挙げられ,特に環流の評価については動静脈分離に対する工夫が求められる。

 非造影MRAのシーケンスは,(1)Flow Prep法,(2)IFIR(InFlow Inversion Recovery)法,(3)IR-IFIS(In-Flow-Iterative Spatial sat)法の3つが基本となる。Flow Prep法は,目的とする血管の最高血流速度に合わせてRFパルスを印加して目印をつけ,拡張期に撮像することで,動脈を選択的に描出する方法である。図1では,左の造影MRAの腎動脈では静脈が重なり合って評価しづらいが,右の非造影MRAでは末梢まで明瞭に描出されている。

 IFIR法は,バックグラウンドと静脈の信号を落とすインバージョンパルスを印加し,その後にインフロー効果で動脈の血流を描出する方法である。選択性に優れ,撮像領域を限れば動脈,静脈を問わず描出できるほか,比較的高いSNRを得られることが特長である。血流が遅いと描出範囲がやや狭くなるという課題はあるが,図2ではFlow Prep法に比べて血管が末梢まで描出されている。また,右腎動脈起始部の狭窄も認められる。

 IR-IFIS法は,IFIR法よりも描出範囲を広げる工夫がされている。間欠的にSpatial sat pulseを印加し,動脈血が飽和した状態でインバージョンパルスを与えると,バックグラウンドの組織や静脈は180°反転して信号が抑えられるが,動脈はその影響を受けずに信号が回復し始め,全体としては動脈の描出範囲が広がる。全体にやや信号が落ちるが,図3では,大動脈弓から鎖骨下動脈の形態は造影MRAと遜色なく,右腕頭動脈が若干拡張していることも確認できる。また,鎖骨下動脈から上腕動脈に移行する部分も造影,非造影ともに同様に描出されているなど,十分に臨床応用の可能性のある撮像法と言える。

 非造影MRAは,さまざまな工夫をすることによって,ほぼ全身が評価できると考えられる(図4)。

図1
図1 腎腫瘍
【画像をクリックすると拡大表示します 】


図2
図2 右腎動脈狭窄
【画像をクリックすると拡大表示します 】


図3
図3 鎖骨下動脈大腿動脈グラフト術前
【画像をクリックすると拡大表示します 】


図4
図4 非造影 MRA
【画像をクリックすると拡大表示します 】


▲ページトップへ

メタボリックシンドロームの評価

 今年4月にスタートした通称メタボ健診は,診断基準の1つとして腹部CTによる内臓脂肪面積の計測値を採用している。しかし,放射線被ばくのないMRを用いて,より安全で確実な評価法が確立できれば,健診における指標の有用性は高くなる。さらに,高コレステロール血症で見られる蓄積した肝脂肪が簡単に測定できればMRの方が優位であると考え,ファントムとボランティアを対象にCTと比較し,再現性の検証を行った。

 まず,MEDAL法によってin-phaseとout-of-phaseを撮像し,得られたデータから脂肪画像と水画像を算出した。MEDALはVolume撮像であり,われわれは現在,肝臓から骨盤までを2〜3回の呼吸停止下で撮像している。ただし,In- phase画像ではコイルの不均一性により,脂肪を均一な高信号域として描出できない。そこで,水画像を使用し,低信号な部分を計測すると,CT像とかなり良い相関が得られるようになり,しかも,20秒程度の短い息止め時間でデータが収集できた。図5は,MEDALからの計算画像での肝脂肪量の測定であり,MR spectroscopyを加えることで,さらに定量性に優れた評価が可能になる。

図5
図5 MEDAL:Fat fraction 計算画像:
SI(Fat image)/SI(In-phase)
【画像をクリックすると拡大表示します 】


▲ページトップへ

骨盤領域のFASTアプローチ

 女性骨盤領域へのFASTアプローチにおける最終目標は,3D T1強調像と3D T2強調像を各1回撮像するだけで検査を終えることである。造影剤を使用しない場合は拡散強調像を追加しても数分の延長ですむため,特に良性疾患については10〜15分で終えることをめざしており,その可能性についての検討を行った。

 T1強調像は,2D SE(FSE)法と2D FSPGR法では,コントラスト分解能に優れたほぼ同等の画質が得られる。課題としては,グラディエントエコー法とスピンエコー法の違いによるコントラストの違いがあるため,それを理解している必要がある。

 3D T1強調像は,Volumeで信号を収集するため,当院での撮像条件に合わせた場合には,2D FSPGR法5mmスライス厚での信号強度は3D法の3mm厚に相当する。特に,MEDALでは,CHESS法による脂肪抑制が不要なため,すべての情報を一度で得られるなど臨床的なメリットは大きい。

 CUBEを含む3D T2強調像では,子宮三層構造など2D FSE法と遜色のないコントラストが得られ,Volumeデータの再構成により,2D法の多軸画像と同等の情報が得られる。

 以上のことから,骨盤領域の撮像では,3Dシーケンスを活用すれば最短でそれぞれ,T1,T2強調像が1回ですむようになる可能性があることがわかった(図6)。

図6
図6 3D 子宮腺筋症 子宮内膜症
【画像をクリックすると拡大表示します 】

▲ページトップへ

*第67回日本医学放射線学会GE横河メディカルシステムランチョンセミナー(2008年4月5日)より抜粋

●お問い合わせ先
GE横河メディカルシステム株式会社
〒191-8503 東京都日野市旭が丘4-7-127 TEL 0120-202-021(カスタマー・コールセンター)
http://www.gehealthcare.co.jp