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予想以上に普及が進む 3T MRI
--体幹部の撮像法の確立へ |
2005年からわが国でも、全身用3T MRIの臨床応用が始まりましたが、この2年半の間に、私が考えていた以上の速さで普及が進んでいます。そうなると、いろいろな意味の相乗効果により、これからの3年間で、加速度的に広がっていくでしょう。私自身は6年ほど前、神戸市にある財団法人 先端医療振興財団先端医療センターにおいて、実験用として導入した3T MRI装置で前立腺の画像診断の研究を行っていました。そのときに体幹部への応用に手応えを感じていましたので、全身用3T MRIの薬事承認を機に、3T MR研究会を立ち上げました。8月4日に第4回目の研究会が開催されましたが、お互いに情報交換を行いながら、このような研究会などで装置の有用性をアピールし、導入施設での研究成果を積み重ねていくことによって、撮像技術も進歩していきます。これからは、全身用3T MRIならではの臨床的有用性について、日本から世界に情報発信していけるようになると期待しています。
特に体幹部においては、海外でも研究発表が少なく、わが国の研究成果が期待されます。体幹部についてはまだ、専用のコイルも不十分で、T1値、T2値も1.5T装置と違うため、シーケンスなどの撮像技術を工夫している段階です。SARやRF磁場の不均一、各種アーチファクトなど、3T MRI特有の問題点への対応も求められます。3T MRIとしての撮像技術を確立していくことが大事です。
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骨盤内臓器における高い有用性
--前立腺のMRSによる機能診断も可能に |
私が専門とする骨盤内臓器の場合、3T MRIは1.5T装置の2倍となる高いS/Nを生かし、前立腺や子宮などで非常に高精細な画像が得られます。いままで
は256や512マトリックスだったものが、1024にしてもシャープな画像を得ることができるようになりました。MRIは3T装置の登場によって、全身の広い範囲を高分解能で撮像できるようになり、よりミクロな画像に近づいたと言えるでしょう。
3T MRIでは、前立腺に関しては直腸内コイル(Endorectal Coil)を使用しなくても、鮮明な画像やMR Spectroscopy(MRS)を得ることができるようになりました。欧米ではEndorectal Coilが主流ですが、前立腺に対して周囲の画像が極端に悪くなるという問題点があります。また、検査を受ける患者さんにとっても、決して気分が良いものではありません。3T MRIの登場によって、今後、前立腺に関しては、形態だけでなくMRSで代謝情報も加えた診断がかなり進歩することは間違いありません。その点からも、3T MRIの画像診断への寄与は大変大きいと言えます。
一方、婦人科領域については、子宮頸がん、子宮体がんの浸潤などを見る際には役に立ちますが、前立腺ほどの有用性はまだ認められていません。ただし、これから撮像技術やコイルなどを工夫して、コントラストの良い解剖学的な情報が得られるようになれば当然、重要視されてくるはずです。また、最近ヨーロッパでは、リンパ節特異性MRI造影剤であるUSPIO(Ultrasmall SuperParamagnetic Iron Oxide)の前立腺への使用が進んでいますが、磁化率効果の強い3T MRIを用いることで、リンパ節転移の診断能が向上すると言われています。
このように3T MRIならではの有用性が次々に見つかってきているというのが現状です。
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MRIは分子イメージングへの応用など
多くの可能性を秘めたモダリティ |
MRIは形態だけでなく、機能や代謝情報も得られるモダリティとして、今後その有用性はますます高まってくると思います。MRIとよく比較されるCTの場合、X線の吸収値(HU値)だけを使って画像化しています。その点、MRIは、プロトンの緩和時間や密度など、多くの情報から画像を作成できます。さらに、最近盛んに行われている拡散強調画像(DWI)や灌流画像(パフュージョンイメージング)のような新しい情報が得られる撮像法もあります。造影の方法によっては、網内系、細網内皮系のデータもとることが可能です。また、USPIOを幹細胞(ステムセル)の中に組み込んで、分子イメージングに応用することも考えられます。このようにMRIは、潜在的なポテンシャルが非常に高いモダリティなのです。
ファンクショナルMRIがトピックになるとたくさんの研究者がその研究に取り組み、同じようにDWIやトラクトグラフィが登場すればその研究が進むなど、常に新しいトピックスが登場し注目されています。MRSも長年取り組まれているテーマですが、in vivoで非侵襲的に代謝情報が得られるというすばらしいものです。3T MRIは、1.5Tよりも微細な信号を受信できるので、MRSの可能性がこれからますます広がっていくと思います。MRSを応用していくことで、薬効評価もでき、代謝疾患の本質に迫ることも可能です。現在、MRSの核種はプロトン(1H)が中心ですが、13CのMRSではグルコース代謝の情報がわかり、糖尿病の治療にも役立てることができます。このほか、31Pや23Naなどの核腫でも、たくさんの情報を得ることができます。
分子イメージングについても、欧米では光イメージング、PETと並んでMRIが有望視されています。MRIのプローブの開発が進めば、今後わが国でも研究が広がってくることが予想されます。
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大会テーマは形態から機能、代謝へ
--臨床と基礎の融合でMRIの可能性を引き出す |
私が大会長を拝命している、9月27日から神戸ポートピアホテルで開催される第35回日本磁気共鳴医学会大会では、“From Morphology to Function and Metabolism(形態から機能、代謝へ)”をメインテーマに掲げました。分子イメージングやMRSなどのセッションも多く設け、MRIの将来を感じてもらえるような構成にしました。また、今回から電子ポスターを採り入れ、大会1週間前から閲覧できるようにして、会期中にじっくりとディスカッションできるようにしています。その中から、新しいアイデアが生まれてくることを願っています。
日本磁気共鳴医学会は、「臨床と基礎の融合」というコンセプトのもと、臨床医学に限らず、物理学など多岐にわたる領域から専門家が集まっています。年々、会員数は増えているのですが、基礎系の会員が少なくなっていることは大きな問題です。これはMRIに限らず、わが国の医療システムの改善すべき課題と言えます。
MRIはまだまだ未知の可能性を秘めた夢のあるモダリティですから、若い会員に夢を持ってもらえるよう、サポートしていきたいと思っています。
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杉村和朗先生
神戸大学大学院医学系研究科内科系講座放射線医学分野教授
1977年神戸大学医学部卒業。同附属病院放射線科医員となり、82年から助手。87年島根医科大学医学部附属病院助教授、94年同教授を経て、98年から現職。2004年からは神戸大学医学部附属病院副院長を兼任。2004〜2005年度の日本磁気共鳴医学会会長。今年開催される第35回日本磁気共鳴医学会大会の大会長を務める。
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