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分子イメージングとは?
--あらゆる画像診断装置がツールとなりうる
 分子イメージングの定義にはさまざまな解釈がありますが、私は基本的に、“細胞・分子のレベルの分子生物学的な現象を可視化する技術”であると考えています。例えば、分子イメージング研究の中心となっているPETや光イメージングのほかに、MRIやCT、超音波といった画像診断装置がありますが、診療で行われている撮像は、現状では分子イメージングとは言えません。しかし、将来的に分子生物学的な事象を可視化できるような造影剤が開発されれば、どのようなモダリティであれ、分子イメージングの範疇に含まれると、幅広く解釈しています。また、ヒトへの臨床応用という観点から考えると、最も臨床に近いところにあるのは、核医学のモダリティだろうと思います。なぜなら、放射性核種は安全性が高く、非常に感度が高いため、少ない投与量でも画像化できるという特性を持っているからです。なかでもPET-CTは、いま一番臨床に近いモダリティと言えるのではないでしょうか。
 MRIも非常に注目されている領域です。今年6月にワシントンD.C.で開催された米国核医学会大会(SNM)では、Opening Plenary Sessionの中で、“Without Radionuclide”と題して、放射性核種を使わない分子イメージングについての講演があり話題になりました。これは、今後の大きな方向性のひとつになるかもしれません。
 

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分子イメージング研究の国内外の現状
--日本もようやく本格的な研究開始
 米国では、巨費を投じた分子イメージング研究の国家的プロジェクトが数年前から行われていますが、そろそろ私たちの目に見える形で成果が出てきてもいい頃だと思います。しかし、光イメージングにしても、数年前には非常に魅力的な手法のように思えましたが、当初期待していたほどの、臨床に根を下ろすまでの成果は得られていないようです。おそらくそれは、ヒトに投与する色素量の最適化が難しいことや、安全面でのハードル、体の深部の情報を非侵襲的にとらえることの物理的な難しさ、などによるものだと思います。ヒトへの応用を考えるのであれば、内視鏡と組み合わせる、あるいは手術のときに特殊なメガネをかけて可視化するといった手法を取り入れた方が現実的なのかもしれません。
 一方、日本では2006年、文部科学省による、放射線医学総合研究所と理化学研究所を拠点とした分子イメージングの研究プロジェクトがスタートしました。つい先日、2拠点に対する研究公募が締め切られ、創薬や診断の高度化を目指す技術開発が、いままさに活発に開始されたところです。人材育成も含めて、日本の分子イメージング研究をリードしていくものと期待しています。
 欧米諸国に比べると、日本の分子イメージング研究は遅れをとったという印象がありますが、日本の研究者は非常に優れた資質を持っていますので、挽回は十分可能です。また、核医学や放射線医学という枠を超えて、分子イメージングが1つの研究ツールとして活用されるようになれば、新たな可能性も見えてくるのではないでしょうか。現に、横浜市立大学でも、われわれがまったく想定していなかったような使い道が他領域の研究者によってもたらされたという経験をしています。さまざまな研究分野が融合することで、分子イメージングは大きく発展する可能性があるということです。
 

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分子イメージングを
大学教育における戦略的な柱に
 放射線医学教室の運営という観点から、分子イメージングは戦略的な柱と考えています。例えばFDG-PETを、すでに臨床応用されている分子イメージングのツールであると考えると、基礎から臨床まで幅広く関係していると言えます。そこで、放射線医学教室では、臨床においてはPET-CTを十分に習得した放射線治療医や画像診断医の育成を行い、その対極にある基礎については、産学連携講座を通じて、医師だけでなく薬学部や工学部出身の研究者とともにPET製剤の研究開発を行っています。また、“Bench to Bedside”として、基礎と臨床との間をつなぐ臨床試験については、Fのマイナスイオンや[F-18]5-FU、[C-11]コリンなど、FDG以外のPET製剤による研究を行っています。そして同時に、それぞれの領域に適合する人材を育てていくことが、研究機関であり人材育成の場でもある大学の大きな役割だと考えています。
 また、分子イメージング研究の目的には、疾患の早期発見、疾患のメカニズムの解明、創薬研究の大きく3つがありますが、私はこの中で、特に創薬研究に非常に大きな期待を持っています。しかし、創薬研究は、ばく大な費用や研究期間の長期化といった、さまざまな問題があります。そのため欧米では、“マイクロドーズ試験”が積極的に導入されるようになりました。それは、副作用が出ないと思われる100μg以下のごく微量の薬物をヒトに投与して、薬物動態を観察する手法です。
 PETを利用した治療薬の創薬研究では、例えば抗がん剤の5-FUに[F-18]を標識して投与すると、体内でどのように分布するかをPETで見ることができます。それによって、副作用や治療の有効性の予測が可能になり、臨床試験までのプロセスを効率化することができるのです。
 日本でも、今年1月には国立医薬品食品衛生研究所の大野泰雄副所長を班長とする「我が国における探索的臨床試験等のあり方に関する研究」が発足し、マイクロドーズ試験の導入へ向けた取り組みがスタートしました。われわれも、PETを活用したマイクロドーズ試験を取り入れ、治療薬の創薬研究を行っていく予定です。

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“探索的臨床試験”の創薬研究を支援
--横浜市大発のベンチャー企業(BBI)を設立
 創薬を中心とした分子イメージング研究を行うには、さまざまな研究ツールが必要ですが、大学が独立行政法人化したことで状況は厳しくなりました。そこで2006年4月、私が取締役会長(現顧問)、当教室の岡 卓志を代表取締役社長とする横浜市立大学発のベンチャー企業、(株)ベイ・バイオ・イメージング(BBI)を設立しました。前臨床試験およびヒトを対象とするマイクロドーズ試験を受注し、創薬研究を支援する事業です。前臨床試験のツールとしては、小動物用のPET、CT、光イメージング装置などを導入しました。また、ヒトの薬物動態を測定するためには加速器質量分析器(AMS)やPETが必要ですが、BBIが(株)加速器分析研究所(IAA社)と連携してAMSによる薬物動態測定を行い、さらに大学と連携してサイクロトロンやPET製剤の合成装置、PET-CTを活用できる体制が整っています。
 すでに、この1年で前臨床試験や臨床試験に関するさまざまなお話をいただきましたが、意外にも、われわれの想定外の内容が多数含まれていました。放射線関係の事業は、機器や人材をそろえる必要があり非常にコストがかかります。ですからBBIのように、インフラや人的資源を提供する事業は、非常にニーズが高かったわけです。

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企業と大学との連携によって
臨床につながる成果を
 BBIのスタッフには横浜市立大学の研究者のほか、外部の研究者や企業の技術者などもいます。産学連携講座との連携により、キャリアを築きつつビジネスにも取り組めるような体制を整えています。また、企業と大学が連携することは、独立行政法人化によって経済的自立を求められている大学にとっても、コスト低減や研究開発の効率化をねらう企業にとっても、メリットの大きい取り組みと言えます。
 分子イメージングは医療において、今後ますます大きな役割を担うことになるでしょう。将来的には、われわれの研究の中から、臨床に貢献するような成果が出てきてほしいと願っています。

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井上登美夫先生
横浜市立大学大学院医学研究科放射線医学教授/株式会社ベイ・バイオ・イメージング顧問
1977年群馬大学医学部卒業。同年医学部放射線医学講座入局。81年関東逓信病院放射線科。85年群馬大学医学部核医学講座。2001年横浜市立大学医学部放射線医学講座教授および同附属病院放射線部教授を経て、2003年から現職。

 

●お問い合わせ先
横浜市立大学 〒236-0004 横浜市金沢区福浦3-9 TEL 045-787-2511(代)
http://www-user.yokohama-cu.ac.jp/~igaku/(医学部)
http://www.fukuhp.yokohama-cu.ac.jp/(附属病院)
株式会社ベイ・バイオ・イメージング 〒236-0004 横浜市金沢区福浦3-9 横浜市立大学医学部内
TEL 045-789-2100(代)FAX 045-789-2277
 http://www.baybioimaging.com/