2020-9-14
インナービジョンでは2020年8月28日(金),Webセミナー「第1回 医療革新セミナー」を開催した。月刊インナービジョン2020年7月号医療AI特集とのコラボ企画として,企画協力の藤田広志先生に基調講演をいただくとともに,医療AI開発ベンダーやインフラベンダーから最新情報のプレゼンテーションが行われた。なお,セミナーは9月1日(火)〜6日(日)までアーカイブ配信された。ここでは,セミナーの内容を抜粋して紹介する。
Ⅰ 基調講演
Medical AI×CAD:ディープラーニングの基礎から社会実装まで
藤田広志先生(岐阜大学特任教授/7月号特集企画協力)
CADの歴史概観
1960年代に始まったコンピュータ支援検出/診断(computer-aided detection/diagnosis:CAD)に関する研究は,コンピュータの進化,人工知能(AI)のブームとともに発展してきた。1966年にLodwick氏がCADを提案する論文を発表し,しばらくは自動診断をめざす研究が行われていたが,1980年代に入り診断支援をめざす方向へと大きく転換した。シカゴ大学の土井邦雄氏のチームが診断支援の研究を進め,1990年にマンモグラフィCADの併用により微小石灰化クラスタの検出が有意に向上することを報告し,世界で初めてCADの有用性が示された。この研究を基に,R2 Technology(現・Hologic)が開発した世界初の商用化CAD「ImageChecker System」がFDA承認を取得した1998年は,“CAD元年”と呼ばれる。
以後長らく,セカンドリーダー型CADの開発が行われたが,2000年代に入り,肺結節や大腸ポリープを対象にしたセカンドリーダー型かつ検出型のCADがFDA承認された。これら従来型CADはすべて検出型(CADe)であり,診断型(CADx)はFDAで承認を得られなかった。診療報酬請求が可能になり広く普及したマンモグラフィCADという唯一の成功例が米国ではあったが,開発コストや性能,実臨床での有効性,使い勝手の悪さなどにより,CAD研究は一時,下火になった。しかし,2010年代後半のディープラーニングの登場により,AI-CADが大きく盛り上がりを見せることになる。
ディープラーニング
ディープラーニングは,AI-CAD新時代の原動力となった。従来型CADでは人間が定義する必要があった特徴抽出を,畳み込みニューラルネットワークを用いることでディープラーニングによる処理が可能になり,製品化までの期間が大幅に短縮した。また,PC環境やツールが整い,誰でもディープラーニングを使える時代になっている。最近では,ディープラーニングで重要なラベルやアノテーションの処理作業を,AIによって省力化したり,多様なディープラーニングで学習ずみのモデルを使用できたりするようになっている。
現在では,医師と同等,あるいは上回るような鑑別・検出が可能なAIも報告されており,あと5年もすればディープラーニング型のAI-CADは放射線科医の最高レベルまで達すると言われている。さらには,眼底写真から年齢や性別,喫煙歴,血圧の高低まで高精度に予測する,人間には不可能なこともAIで可能になりつつある。
CADの進化・多様化
CADはディープラーニングにより劇的に進化・多様化し,いよいよ自動診断へと近づいている。初期のセカンドリーダー型からインタラクティブ型,同時リーダー型,ファーストリーダー型,導入後学習機能付きへと進化すると同時に,その目的も検出型,診断型,トリアージ型(CADt),そして画像取得/最適化(CADa/o)と多様化している。
現在はFDA承認を受けると,アルゴリズムをロックし事後学習できなくなるが,今後は現場で学習して賢くなるCADが期待される。しかし,2020年7月に米国放射線学会(ACR)と北米放射線学会(RSNA)が,安全性に問題があるとして連邦政府に対して自律型AIにブレーキをかけるように要請する動きもあり,その実装はまだ先になりそうだ。
AI-CADの商用化
RSNA 2019では,144社が出展したAI Showcaseが設けられ,日本からはエルピクセルが日本で最初に薬機法承認を取得したディープラーニング型CADを展示した。FDA承認を受けたAI製品はまだ少ないが,ACRのWebサイトではFDA承認の最新状況を確認することができる。
次世代医療機器の製品開発については,2019年5月に厚生労働省が評価指標を公表している。その中ではAI-CADに関する評価指標や,市販後に学習するAIの問題点もまとめられている。今後,製品化されたAI-CADが臨床で役立つことが実証されてくると,診療報酬でも評価されていくだろう。
AI-CAD新時代
今後は,本当の意味でパーソナルアシスタントになりうる,シームレスで,より洗練された出力を提供するAI-CADも出現してくると期待される。また,アプリストアのような形式で提供されるAI-CADも増えてくるだろう。AI-CADには多くの課題もあるが,それらへのチャレンジは始まったところだ。また,ブラックボックス化の問題については,AIの根拠を示すような研究も進められている。
AIを活用する上で重要なのは,“最終診断を医師が行う”ということだ。人間とAIの組み合わせで精度が上がることが大切であり,人間の能力を機械で“拡張”させることを志向した,人間とAIの共生研究の重要性が増してくるだろう。
Ⅱ 情報提供プレゼンテーション
社会実装に向けたAI医療機器の開発動向と戦略
アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社 遠山仁啓 氏
「可能性を切り開くクラウドAI」
アマゾングループでは,20年間にわたりAIへの投資を継続し,顧客の課題解決に取り組んできた。AIアシスタント「Alexa」は,イギリス政府とNHSが国民向けに配布している音声による医療情報提供アプリケーションに活用されるなど,グローバルで医療機関での活用事例がある。
多くのパートナー企業がAWSのAI技術を活用し,医療分野ソリューションを開発している。Babylon healthは,オンライン診療を含めた次世代型電子カルテ「NHS AI Portal」や,スマートフォンアプリとして世界各地で普及する「AIドクター」などを提供している。Arterysの心臓MRIのクラウドAI解析は,心室セグメンテーションで,クラウドAIソリューションとして世界で初めてFDA承認を取得した。また,GE Healthcareも多くのソリューションでAWSの技術を活用している。「Edison Platform」には,機械学習モデルの開発・学習・展開という一連のプロセスをサポートする,AWSクラウドの機械学習マネージドサービス「SageMaker」が用いられている。GEは,パートナーやスタートアップにも公開してアプリケーションを開発してもらう取り組みに注力している。
最後に,AWSが提供するAIサービスを紹介する。「Amazon Comprehend Medical」は,機械学習を使用して,構造化されていないテキストから関連する医療情報を容易に抽出できる自然言語処理サービスで,院内にあるドキュメントデータを臨床や研究に活用することができる。また,「Amazon Transcribe Medical」は,臨床医と患者の音声をテキスト変換する音声認識機能で,電子カルテベンダーのCernerは,これにVoice Scribe機能をアドオンすることで,カルテに記載すべきコメントをサマライズする機能を提供している。
エヌビディア合同会社 小野 誠 氏
「医療AIを加速するエヌビディアの取組み」
エヌビディアは,AIの学習から推論に最適なGPUのハードウエアとソフトウエアを,エンドツーエンドで提供している。ヘルスケア業界へも注力しており,代表的な取り組みを3つ紹介する。
1つ目が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応で,CT画像からCOVID-19の検出やセグメンテーションが可能な学習ずみモデルをいち早く公開している。
2つ目の「NVIDIA Clara Imaging」は,医用画像処理におけるAI機能を迅速に開発・導入できるアプリケーションフレームワークである。20以上の学習ずみモデルを提供するほか,AI支援によるアノテーション,高速なトレーニングフレームワーク,AIの実装ツールなどで構成される。また,AIを学習させる際に複数の医療機関のデータを集める方法はセキュリティが課題となるが,Claraでは,各医療機関がローカルでデータをトレーニングし,モデルの差分のみを共有して学習する連合学習(federated learning)が可能である。エヌビディアの検証では,1か所にデータを集めてトレーニングした場合と差がないことを確認している。
3つ目が,監視カメラや自然言語処理などをマルチモーダルで提供し,スマートホスピタルを加速させる「NVIDIA Clara Guardian」である。体温スクリーニングや患者モニタリング,非接触の制御など,COVID-19対策にも活用できる機能の開発が進められている。
このようなソフトウエアを活用するためにプラットフォーム開発にも力を入れており,2020年5月に発表した最新AIシステム「NVIDIA DGX A100」は劇的なパフォーマンス向上を実現した。今後もAIリーディングカンパニーとして,次世代の医療AIを支えるために,ハードウエアとソフトウエアを進化させていく。
エルピクセル株式会社 島原佑基 氏
「人工知能を活用した医療画像診断支援技術EIRL(エイル)」
エルピクセルは,「医師に,寄り添うAI。」をコンセプトに,画像診断を支援する医療AIブランド「EIRL」を展開している。
2019年に国内初の医療機器承認を得た「EIRL Brain Aneurysm」は,脳MRA画像から2mm以上の動脈瘤候補点を検出し,画像上にハイライトするソフトウエアで,見落とし防止に貢献する。読影試験では,医師単独では感度68.2%,AI併用で感度77.2%と診断精度の向上が認められた。システム構成は導入しやすさを重視しており,PACSにEIRLゲートウェイを接続するだけ(クラウドPACSではAPIを実行するだけ)で解析が可能で,“気づいたらAI結果も参照できる”ような,ワークフローを乱さないシステムとなっている。
「EIRL Brain Metry」は,白質高信号領域およびEvans indexとCallosal angleを自動計測するアルゴリズムで,効率的な診断に寄与することができる。
そして8月28日より,「EIRL Chest Nodule」の販売を開始した。胸部X線画像から5〜30mmの肺結節の候補点を検出し,読影をサポートする。PMDAに提出した読影試験では,専門医・非専門医を問わずAI使用により感度が10%以上向上し,専門医と非専門医の差を縮める結果となった。また,日本放射線技術学会のオープンデータを用いた検証では,読影難易度の高いデータセットを用いた評価で,AI単体で感度94%,特異度84%という非常に良好な結果を得ている。
医療AIは市場形成のフェーズへと移っており,われわれはオンラインビューワのデモなどを活用して,“AIがあると安心”という体験の普及に努めていく。そして,精度向上と対象疾患の増加に挑みつつ,2022年の公的保険収載が可能になるようにエビデンスの構築に取り組んでいく。