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第18回日本診療放射線学教育学会学術集会が開催

2024-10-7

会場の東京都立大学荒川キャンパス

会場の東京都立大学荒川キャンパス

第18回⽇本診療放射線学教育学会学術集会が,2024年8⽉24⽇(⼟)に東京都立大学荒川キャンパス(東京都荒川区)で開催された。テーマは「診療放射線技師の未来を切り拓く―Leap to the future―」。大会長は梁川範幸氏(つくば国際⼤学),実行委員長を清⽔秀雄氏(つくば国際⼤学)が務めた。⽇本診療放射線学教育学会は,診療放射線学の高度専門化と高等教育化が進む中で,教育技法や教育方法などを対象として研究・教育の情報交換を中心に活動することで診療放射線学教育へ還元することを目的に2007年に設立された。梁川大会長は開会の挨拶で,「大会長企画では未来につなぐ診療放射線技師教育として,数多くの演題を企画した。ここで得た知見やディスカッションを基に,あるべき診療放射線技師像を改めて考えて今後の活動に生かしてほしい」と述べた。ポスターセッション(一般演題)39題のほか,10社が出展した企業展示も行われた。

大会長:梁川範幸 氏(つくば国際⼤学)

大会長:梁川範幸 氏(つくば国際⼤学)

 

午前のプログラムは,大会長企画「未来につなぐ診療放射線技師教育」の「1:診療放射線技師教育におけるDX」からスタートした。座長は,清⽔氏と⽥代雅実氏(福島県⽴医科⼤学)が務めた。
最初に,松本真之介氏(東京都⽴⼤学)が「放射線防護教育ARアプリケーションの開発と利⽤」を講演した。松本氏は,最初に大学や教育機関におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の定義を概説した上で,現在,東京都の「未来の東京戦略」の「新生・東京都立大学プロジェクト」として放射線学科で取り組んでいる,「放射線防護のための教育ARアプリケーション」の開発と利用,評価について紹介した。同アプリは,ポータブルX線撮影における散乱線被ばくをモンテカルロ計算データを基にUnityで開発して,ARを用いて病室などでのポータブル撮影時の散乱線量の分布を可視化した。松本氏は,このARアプリを看護学科の授業に使用することで放射線防護の三原則への理解が深まったことなど,ARアプリの開発や活用を通じて放射線に対する正しい理解や放射線防護への教育的な効果が期待できることを報告した。
続いて講演した伊東利宗氏(帝京⼤学)は,「診療放射線技師教育における⽣成AIは神か悪魔か」と題して教育における生成AIの利用の現状と課題について発表した。伊東氏は,まず教育現場における人工知能(AI)活用の現状について概説し,特にChatGPTに代表される生成AIについては,文部科学省のガイドラインで初等中等教育において教材や報告書などのたたき台作成としての利用が挙げられていることを紹介し,高等教育においても生成AIを自身の能力強化に活用することが求められていると述べた。その上で,学生のレポートの一次チェックをヒト(教員)と生成AIで行った結果を報告し,評価にはほとんど差がなく得意不得意の傾向もほとんど変わりがなかったと述べた。伊東氏は,そのほかAI家庭教師の可能性や,LLMのプラス思考を生かした学生面談などについて言及し,AIを使いこなしAGI(汎用人工知能)時代に備えることを提案した。
3題目として,伊藤 彰氏(神⼾常盤⼤学)が「教員個⼈のICT活⽤から組織のDXへ」と題して講演した。伊藤氏は,DXについてデジタル技術(ICT)を利用して組織のあり方や提供するサービスの形態の最適化をめざすものであるとし,文部科学省やデジタル庁が進める教育分野のDXとして,ラーニングマネジメントシステムなど教育DXと校務DXが挙げられていることを紹介した。校務DXでは,情報流通のアップデートとして学内や学生など外部との連絡のデジタル化などが挙げられている。伊藤氏は,学内の情報流通のアップデートの例として,メーリングリストにかわってMicrosoft Teamsを利用する際の課題,国家試験問題の管理などの例を取り上げ,教員個人のICT活用と組織のDXを進める方法として,日々の運営業務の範囲と新規性のある全体のDXの2階建てで進めること,1階の運営業務については情報資産として共同利用できる形にすることが重要だとまとめた。
最後に,渋川周平氏(順天堂⼤学)が「診療放射線技師教育は⼈⼯知能をどこまで学ぶべきか?」を講演した。渋川氏は,画像診断の臨床にAIを活用したさまざまなツールが導入されている今,診療放射線技師教育におけるAI教育の現状を順天堂大学での例を挙げて紹介した。同大学の放射線学科では現在,2年生を対象にした授業や実習と卒業研究などでAI教育を行っている。実習では,MNISTを使った画像分類やソニー社製の「Neural Network Console」による胸部X線画像のセグメンテーションアルゴリズムの作成などを行っている。渋川氏は,これらの授業や実習を通じてAIに興味を持った学生は増えているが,卒業研究のテーマとして取り組むような学生がさらに増えるように授業の内容をさらにブラッシュアップさせていきたいとまとめた。

松本真之介 氏(東京都⽴⼤学)

松本真之介 氏(東京都⽴⼤学)

 

伊東利宗 氏(帝京⼤学)

伊東利宗 氏(帝京⼤学)

 

伊藤 彰 氏(神⼾常盤⼤学)

伊藤 彰 氏(神⼾常盤⼤学)

 

渋川周平 氏(順天堂⼤学)

渋川周平 氏(順天堂⼤学)

 

続いて,大会長講演「放射線技術学における画像診断⽀援―CT技術学教育を通じて―」が行われた。座長は⼭品博⼦氏(福島県⽴医科⼤学)が務めた。梁川氏は,自身のこれまでの経歴を振り返り,日本独自の学問領域である放射線技術学の中でX線CT撮影における標準化(GALACTIC)やミャンマーやラオスなどへの国際的な放射線技術教育支援などに取り組んできたことを紹介した。診療放射線技師に求められる画像診断支援とは医師に異常所見を伝えることであり,そのためにしっかりとしたエビデンスに基づいた画像所見を学ぶことが重要であると述べた。その上で,診療放射線技師は,病院の中で「放射線」「画像」のプロフェッショナルであることが必要であり,そのために技師は科学者(サイエンティスト)であることを自覚するべきだと述べた。さらに,急性期脳梗塞のCT Perfusionや放射線被ばく(DRLs),高精細CTや立位CTといったCTの最新技術にも触れながら,新しい技術を取り入れる際にもエビデンスに基づいた判断が重要だと述べ,エビデンスの積み重ねが日本の医療の進歩に寄与するとして,放射線領域のプロフェッショナルとしての科学者(診療放射線技師)になってほしいとエールを贈った。

ランチョンセミナーは,キヤノンメディカルシステムズ(株),シーメンスヘルスケア(株)が協賛し,⽊村英理氏(神⼾常盤⼤学)と清⽔氏が座長を務めた。キヤノンメディカルシステムズは,「ヘルスケア領域におけるAI技術の取り組み」として,Abierto Reading Support Solutionなどの技術やアプリケーションについて同社の網代啓志氏が概説した。シーメンスヘルスケアはクラウドベースのトレーニングシミュレータである「SmartSimulator」について同社から概要の説明と,教育現場での活用について中舎幸司氏(鈴⿅医療科学⼤学)が講演した。

午後のプログラムは,学生プレゼンテーションからスタートした。「未来への架け橋:学⽣が語る,それぞれの学び舎の魅⼒」と題して,つくば国際⼤学,群⾺県⽴県⺠健康科学⼤学,順天堂⼤学,中央医療技術専⾨学校,東京都⽴⼤学の5つの施設の学生が,自施設の教育環境や学生生活,研究や国家試験への取り組みなどをプレゼンテーションした。座⻑は,磯辺智範氏(筑波⼤学)と東 幸浩氏(⿅児島医療技術専⾨学校)が務めた。発表は,内容や質疑応答,話し方などを含めて来場者による投票が行われ,全プログラム終了後に結果の発表と表彰が行われた。

その後,ポスターセッション(一般演題)のコアタイムが設けられたあと,⼤会⻑企画「2:これからの診療放射線技師に求める⼈材」として3つの大学病院の放射線技師長が登壇した。座長は梁川大会長と富⽥哲也氏(筑波⼤学附属病院)が務めた。
最初に,「未来の医療を⽀える⼼と技術:診療放射線技師に求められる資質」と題して,千葉⼤学医学部附属病院の飯森隆志氏が講演した。飯森氏は,診療放射線技師に必要な資質や大学病院の高度な診療や教育,研究を進める上で求められるテクニカルスキルを挙げ,同院での技師教育の取り組みなどを紹介した。絶えず進化する放射線技術学の中で診療放射線技師に求められる資質として,「技術の探求と向上心」「高度な専門知識」「コミュニケーション能力」「高い専門性や倫理観」「柔軟性と適応力」を挙げた。また,必要とされるテクニカルスキルには,高度な画像診断技術の習得,データ解析や画像処理,放射線防護と安全管理の知識があり,それらのスキルを向上するには,自分に必要なスキルを明確にして,1on1やグループワークなどで客観的な意見を聞いて常にフィードバックすることが重要だと述べた。さらに,チーム医療が求められる中では多職種との協働やコミュニケーション能力が欠かせないとして,コミュニケーション理論やリーダーシップ研修で用いられるメソッドを基に概説した。
続いて,新潟⼤学医⻭学総合病院の金沢 勉氏が,「⼤学病院でのキャリア形成:診療放射線技師があゆむ道」を講演。金沢氏は,新潟大学医歯学総合病院の技師長(医療技術部部長)と,自身が会長を務める全国国立大学放射線技師会(ARTNU)の立場も含めて,国立大学病院における診療放射線技師の役割について説明した。大学病院は地方において地域唯一の特定機能病院であることが多く,その機能を維持し強化することで地域の医療を守る役割があるとし,その中で診療放射線技師には診療だけでなく教育と研究が重要だと述べた。特に研究については,大学病院は最新技術を取り入れて評価する場でもあり,研究に取り組み発表することが新技術の評価になると同時に,自己研鑽や問題解決能力の開発,コミュニケーション能力の拡大にもつながり,それが個人のスキルアップになるだろうと述べた。その上で,金沢氏は,診療放射線技師に求める人材として,「向上心を持ち続けること」「指示を取りに行けること」「多様な考え方を受け入れられること」を挙げた。
最後に「多様性時代に求められる⼈材:診療放射線技師がめざすべき⽅向性」について⼭梨⼤学医学部附属病院の相川良⼈氏が講演した。相川氏は,最近の若手技師の傾向として目立つことを避けて自発的に行動しない傾向があると述べ,その要因として心理的安全性の欠如による対人リスクを挙げ,成果を出す組織になるためには,自らの考えや意見を自由に言い合える環境が重要だとした。現在の医療は,患者も含めた多職種のチーム医療が求められており,その中では自らの能力を発揮して自律的に動くことが必要となる。そういったチームを成立させるには,個性や個々の能力だけではなく,業務や課題への積極的に参加すると同時に周囲へのサポートもできる創造的なチーム作りが不可欠で,そのためにはスタッフの多様性が重要だとした。相川氏は,多様性の時代に診療放射線技師がめざす方向性として,目的をしっかりと見定めること,形式でなく本質を見極めること,お互いの個性を受け入れて自主的に行動できることを挙げ,チームとして持続的に結果を出せるような人材になってほしいとまとめた。

飯森隆志 氏(千葉⼤学医学部附属病院)

飯森隆志 氏(千葉⼤学医学部附属病院)

 

金沢 勉 氏(新潟⼤学医⻭学総合病院)

金沢 勉 氏(新潟⼤学医⻭学総合病院)

 

相川良⼈氏(⼭梨⼤学医学部附属病院)

相川良⼈氏(⼭梨⼤学医学部附属病院)

 

学生プレゼンテーションとポスターセッションの表彰式に続いて,最後に次回の学術集会の大会長を務める神⼾常盤⼤学の木村氏が挨拶した。第19回の学術集会は「多様性と共に進む診療放射線技師教育のイノベーション」をテーマに,2025年8月30日(土)に神戸常盤大学(神戸市長田区)を会場として開催の予定。関東圏を離れて関西での開催は初めてとなる。

次期大会長:⽊村英理 氏(神⼾常盤⼤学)

次期大会長:⽊村英理 氏(神⼾常盤⼤学)

 

学生プレゼンテーションとポスターセッションの最優秀賞受賞者は以下の通り。

学生プレゼンテーション・最優秀プレゼンテーション賞:本橋 純さん(東京都⽴⼤学)「東京都立大学における放射線教育」

学生プレゼンテーション・最優秀プレゼンテーション賞:
本橋 純さん(東京都⽴⼤学)「東京都立大学における放射線教育」

 

ポスターセッション:最優秀研究発表賞は飯島七緒さん(つくば国際⼤学)の 「MRI 検査における実使⽤量のヘアパウダーによる画像への影響と検知能⼒の評価」が受賞。写真は優秀研究発表賞の佐藤そらさん(つくば国際⼤学)

ポスターセッション:最優秀研究発表賞は飯島七緒さん(つくば国際⼤学)の 「MRI 検査における実使⽤量のヘアパウダーによる画像への影響と検知能⼒の評価」が受賞。写真は優秀研究発表賞の佐藤そらさん(つくば国際⼤学)

 

ポスターセッション会場

ポスターセッション会場

 

10社が出展した企業展示

10社が出展した企業展示

 

●問い合わせ先
学会事務局
筑波大学附属病院 陽子線医学利用研究センター内
https://plaza.umin.ac.jp/~jsert/