2024-7-12
MR技術を利用して医学教育や
トレーニングを支援するMR Anatomy
日本メドトロニック(株),キヤノン(株),キヤノンITソリューションズ(株),ザイオソフト(株)の4社は,MR(mixed reality:複合現実)を用いて目の前の立体空間で肺の構造を観察できる「MR Anatomy」の提供を,2024年7月下旬から開始する。提供開始に合わせて,報道関係者に向けたシステムの体験会を2024年7月3日(水)にキヤノン下丸子本社(東京都大田区)で開催した。MR Anatomyは,医用画像処理ワークステーション(3DWS)で再構成したCT検査データ(OBJファイル形式)を,専用アプリケーションをインストールしたPCに転送し,キヤノンのMRシステム「MREAL X1」で観察する。体験会では,ザイオソフトの3DWSである「Ziostation REVORAS」の「肺動静脈分離」や「肺切除解析」などのアプリケーションで処理した肺の3D画像を,MREAL X1で立体的に観察して拡大表示や空間に浮かんだ肺のボリュームデータを手で掴んで回転させるなどの操作を体感できた。MR Anatomyは,肺の気管支,血管,腫瘍などの構造のMR観察を対象とする医学教育やトレーニングのためのソリューションとして,7月下旬から提供される。
今回のプロジェクトを主導するのは,肺がん手術などで使用されるさまざまなデバイスを提供する日本メドトロニック(以下,メドトロニック)だ。メドトロニックの日本法人の1社であるコヴィディエンジャパン(株)の五十嵐礼恵氏(サージカルイノベーション)は,MR Anatomyが肺をターゲットにスタートした理由について,肺がんの罹患数の増加,解剖構造の複雑さ,さらに外部環境の変化として医師の働き方改革,区域切除など縮小手術の拡大など術式の変化を挙げ,「外科医には,限られたトレーニング時間の中で,より詳細な解剖の理解が求められている。従来の2Dのモニタでは,観察領域がモニタサイズに制限される,回転などはできても奥行きを把握しにくいという課題があった。その課題を解決するのがMR Anatomyだ」と述べた。
MR Anatomyの開発プロジェクトは,メドトロニックとキヤノンの2社で2021年にスタートしたが,当初の3Dモデルは外科医の求める水準ではなかったと言う。外科医が必要とするより精細でリアルな3D画像の実現のために参画したのがザイオソフトだ。ザイオソフトは,「ziostation2」や「Ziostation REVORAS」などの医用画像処理ワークステーションで豊富な実績があり,独自の画像解析技術で精度の高い画像処理を実現する。ザイオソフトの友重大輔氏(マーケティング部)はMR Anatomyへの期待について,「われわれが培ってきた画像認識や再構成の技術によって,よりリアルな3D画像の観察が可能になり,解剖のより深い理解をサポートできると考えている。MR Anatomyは肺の再構成でスタートしたが,Ziostation REVORASが持つ豊富なアプリケーションを生かしてさまざまな領域へ広げていきたい」と述べた。
MREAL X1を使ったソリューションは,現実の空間に3Dデータを「あたかもそこにあるかのように」融合して表示し,場所や時間,認識のギャップがもたらす課題を解決するもので,すでに製造業や建築業などさまざまな業界で活用されている。キヤノンの村木淳也氏(イメージコミュニケーション事業本部ICB本部新規事業推進部)は医療分野での展開について,「医学教育やトレーニングなどからスタートし,将来的には術前や術中のシミュレーションを可能にすることで,働き方改革やより安全な医療の提供を支援して医療の進歩に貢献していきたい」と述べた。MR Anatomyは,現在は薬機法の認証を受けていない「非医療機器」であり,用途は医療教育やトレーニングに限られている。今後の展開についてメドトロニックの平尾崇史氏(デジタルエデュケーションプログラムトレーニングエデュケーションコンサルタント)は,「教育やトレーニングでは,まずは呼吸器外科領域を足場として心臓血管外科,整形外科などへ広げていく。さらに,将来のプランとしてユーザーのニーズが高まれば,医療機器としての展開も検討していきたい」と述べた。