2024-1-26
会場では,多くの関係者が熱心に聞き入った
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)量子医科学研究所は,2024年1月20日(土),次世代PET研究会2024をベルサール八重洲(東京都中央区)で開催した。2000年に設立された次世代PET研究会は,近年,山谷泰賀氏(QST先進核医学基盤研究部次長)らを中心にめざましい成果を上げ,2022年には(株)アトックスと共同開発した世界初のヘルメット型PET装置「VRAIN」が製品化されたほか,2023年には山谷氏が米国核医学会(SNNMI)のHal Anger Lectureship Awardを受賞するなど,世界的にも高い評価を受けている。他方で,新たなアルツハイマー型認知症治療薬の登場に伴い,PET検査の重要性が高まっている半面,国産装置の開発や普及はいまだ十分とは言えず,研究開発や実装化の推進が急務である。当日の発表では,研究会の研究成果が報告されたほか,研究成果の実装化に向けた医工連携の在り方などについて講演が行われた。
最初に,茅野政道氏(QST理事)が開会挨拶を行った。茅野氏は,2023年12月に保険適用となったアルツハイマー型認知症治療薬「レカネマブ」の投与可否の判断においてバイオマーカー検査や脳アミロイドPET検査が条件とされたことに加え,「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」(通称:認知症基本法)が2024年1月1日に施行されたことにも触れ,PET領域は非常に期待される分野であり,QSTとしても山谷氏らを十分にサポートしていきたいと述べた。続いて,来賓の畦元将吾氏(衆議院議員)と大月光康氏(文部科学省研究振興局研究振興戦略官)が挨拶した。畦元氏は,自らが事務局長を務める「ラジエーション知識を普及させ安全利活用を推進する議員連盟(略称:ラジエーション議連)」で2023年12月に日本の認知症対策推進のための提言を行ったことを報告。また,山谷氏らが開発した世界初のヘルメット型PET装置について,小型化に加え座位での検査による検査効率の向上などの特長を挙げ,装置の普及に取り組んでいきたいとの姿勢を示した。大月氏は「現在,政府内で次期医療分野研究開発推進計画が策定中だが,研究力の強化が急務だと感じている。文部科学省としては,研究者のニーズを発掘し経済産業省や厚生労働省の事業につなげていきたい」と語った。
次に,山谷氏がQSTイメージング物理研究グループの研究報告を行った。イメージング物理研究グループの2023年の成果として,ヘルメット型PET装置のさらなる高分解能化やWhole Gamma Imaging(WGI)の開発,Open PETの臨床研究などに取り組み,新規装置を5台完成させたことなどを報告した。また,PET装置の現状について,国内のPET装置は587台(2021年時点)でCTのわずか1/25と少なく,国内保有装置の9割が輸入製品であることを指摘。国産装置の開発・普及に向け,アライアンス事業「次世代PET機器開発イノベーションハブ」を立ち上げ,医療機器メーカーや電子部品・素材メーカーなどに参加を呼びかけて産学オールジャパンで連携体制を構築,がんや認知症の早期診断を実現する装置の開発に取り組みたいと述べた。
続いて,高橋美和子氏(QST分子イメージング診断治療研究部グループリーダー)と山谷氏を座長とし,特別講演が行われた。まず,特別講演1として絹谷清剛氏(金沢大学医薬保健研究域医学系教授/金沢大学医薬保健学総合研究科長)が「核医学に花が咲く」と題して講演を行った。絹谷氏は,2022年に製品化されたヘルメット型PET装置について,検出器の配置を従来の円筒から半球状にしたことで同じ検出器数で1.5倍の髙感度を実現したことを挙げ,絹谷氏が専門とする腫瘍領域でも脳腫瘍患者の予後改善に直結すると期待を示した。
次に,特別講演2として,高山修一氏〔公益財団法人医療機器センター医療機器産業研究所(MDSI)事業化支援室上級研究員)が「医療機器開発の事業化」について講演した。オリンパスで長年研究開発に取り組んできた高山氏は,MDSIのほかに国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)医療機器等における先進的研究開発・開発体制強靱化事業等スーパーバイザーも務めている。本講演では,オリンパスと大学の医師らによる胃カメラ開発事業などを例に,医工連携による医療機器開発について解説し,オリンパスの事業は「医師のニーズを基にし,医師に支えられた事業であった」と述べ,開発製品のシェア獲得の戦略として,医師との緊密な連携によるニーズの拾い上げや革新的技術の特許取得などを挙げた。講演後には,リソースが限られる中での特許取得のための負担の在り方や,現場の医療者と研究・開発側のギャップなどについて参加者から質問や意見が寄せられた。
3演題目として,掛川 誠氏(QST先進核医学基盤研究部客員研究員)が「PETの進化を考える カンブリア爆発?!」と題して講演を行った。掛川氏は,日本の核医学装置市場は法規制や採算の制約上,自社開発生産が低調となり特にPET装置は輸入超過の状態が続いていたものの,放射性医薬品のめざましい進歩に加え,日本企業は事業再編を終え,グローバル成長路線に入ったことなどから,QSTを中心に蓄積された基盤技術を生かすチャンスにあるとした。また,そのためには基盤技術の企業への移転やさらなる開発と移転のサイクルが必須であり,かつ医療経済的な側面からアウトカムとコストのバランスを要素技術の最適化により実現することが求められると述べた。
最後に,2023年4月にQSTの2代目理事長に着任した小安重夫氏(QST理事長)が登壇した。平野俊夫初代理事長のあとを引き継いだ小安氏は,着任して改めてQSTの先進性に気づいたとした上で,「実際に臨床現場での活用に至ってこその研究であり,現場のニーズをとらえ,企業と連携することで技術を社会に還元していきたい」と展望を語り,会を締めくくった。
会場の後方には,2023年のイメージング物理研究グループの研究成果をまとめたポスターや試作機などが展示され,休憩時間には多くの参加者がそれらを前に意見を交わした。なお,今回の研究会は後日録画配信を予定している。
●問い合わせ先
事務局:QSTイメージング物理研究グループ/核医学診断・治療研究グループ
jpet@qst.go.jp