2023-10-3
最新のスポーツ医学のノウハウを紹介した
「Global Sports Medicine Forum 2023」
キヤノンメディカルシステムズは「Global Sports Medicine Forum 2023」を,2023年9月10日(日)にKABUTO ONE(東京都中央区)で開催した。キヤノンメディカルシステムズは,2012年からイングランドプレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッドをはじめ,スペインのFCバルセロナ,レアル・マドリードCFなどと提携して,各クラブに320列CTや3T MRI,超音波診断装置などの最新医療機器の提供し,ケガの予防や診断など世界の最高峰のレベルでのスポーツ医学に関する取り組みを進めてきた。Global Sports Medicine Forumは,世界のトップクラブの現場でのノウハウを共有し,スポーツ医学のさらなる発展をめざすイベントとして2019年から継続的に開催されている。冒頭に挨拶した瀧口登志夫氏は,「キヤノンメディカルシステムズは,海外のトップチームと連携しスポーツ医学への取り組みを進めてきた。また,近年は国内のプロスポーツチームのクリニックの運営にも関わり,キヤノンのラグビーチームである横浜キヤノンイーグルスの健康管理にも画像診断機器が活用されている。こういったトップアスリートの診療で得られた知見は,これからの健康寿命の延伸の課題の中で広く一般の患者さんにも適用できると考えられ,将来的な医療の発展に貢献する事業だと確信している」と述べた。フォーラムは2部構成で,第1部はさまざまな専門家によるスポーツ医学への取り組みの講演,第2部ではこの日に初戦を迎えたラグビーワールドカップ2023の日本対チリ戦のライブビューイングが行われた。
第1部のSession1は「チームクリニックによるスポーツ医療への貢献」と題して3名の演者が登壇した。飯島 均氏(埼玉パナソニックワイルドナイツゼネラルマネージャー)は,埼玉県熊谷市に2022年に開院した「ワイルドナイツクリニック」の設立の経緯,プロスポーツチームと連携した医療機関の果たす役割について講演した。ワイルドナイツクリニックは,チームのホームグラウンドやクラブハウスなどがある「さくらオーバルフォート」に隣接し,キヤノンメディカルシステムズのMRIやCT,超音波診断装置などが導入されている(導入事例はhttps://www.innervision.co.jp/ad/suite/canonmedical/clinicalreport/2309wkc を参照)。飯島氏はクリニック開設について,1つは「選手の安全と健康」のためであり,もう1つは医療を通じてワイルドナイツが地域になくてはならない存在になることだと述べた。ワイルドナイツはチームの理念を,「私たちはラグビーを通じて世界のひとびとになくてはならない存在でありたい」としており,飯島氏はクリニックをハブとして地域との豊かな関連性を醸成していくことで,医療のみならず教育や福祉など共に成長していく組織になっていきたいと述べた。
増田裕也氏(ライオンズ整形外科クリニック 院長)は,2024年春に開院予定の「ライオンズ整形外科クリニック」の概要と開設のねらいについて講演した。ライオンズ整形外科クリニックは,埼玉県所沢市の埼玉西武ライオンズの本拠地・ベルーナドームに隣接して建設中の医療施設で,ライオンズの選手の治療やサポートだけでなく,トップアスリートの診療のノウハウを生かした高度な医療を一般の患者にも提供する予定だ。同クリニックには,キヤノンメディカルシステムズのMRIや超音波診断装置などが導入される予定となっている。増田氏は,ライオンズ整形外科クリニックの使命として,1)選手に対して充実した医療サポートを行うこと。それによってケガからの早期復帰や予防を行い,選手のパフォーマンスを向上する。2)近隣のアスリートに対して最新の知見や経験を生かしたトップレベルの医療の提供,サポートを行う(ことであわよくば将来ライオンズの戦力になってもらう)。3)近隣の住民に最新の機器を用いた医療を提供し,その健康増進に貢献する(ことでより一層ライオンズファンになってもらう)ことを挙げ,スポーツと医療の相乗効果による地域活性化をめざすと述べた。そして,「このクリニックがライオンズの常勝軍団復活のための後押しとなるように取り組んでいきたい」と意気込みを語った。
最後に,スポーツ医療専門医で,「FCバルセロナ」の医療・知識・イノベーション部門のGil Rodas氏がオンラインで講演した。Rodas氏は,トップアスリートのケガの程度と競技復帰までの時間(return to play:RTP)の判断を的確に行うための方法について,バルセロナでの取り組みを含めて概説した。サッカー選手のケガの多くが筋肉や腱の損傷で,その診断にはMRIや超音波診断装置などの画像診断機器は重要な役割を担う。最近の研究では,これにオミクス,ゲノミクス,メタボロミクスなどのデータを合わせることで,ケガのリスクの予測精度が向上することがわかってきた。解析にはビッグデータが必要となるが,現在はクラブの垣根を越えて選手のデータを集めることは難しい。しかし,選手のケガは年々増加しており,選手の欠場によるクラブの損失は年間数百万ドルに上る。将来的にはクラブの壁を越えてデータを共有し,ケガのリスクに備える体制が必要だとRodas氏は述べた。さらに,その先には選手のさまざまなデータを集積してデジタル・ツインを構成することで,これをケガやプレー復帰に最適なタイミングの予測に使えるようになるだろうと展望した。
Session2では「アスリートを救う最新治療」と題して熊井 司氏(早稲田大学)が座長を務め,面谷 透氏(東京先進整形外科),羽田晋之介氏(順天堂大学),笹原 潤氏(帝京大学)の3名が登壇した。面谷氏は「TENEXを用いたPercutaneous Ultrasonic Tenotomy」を講演し,難治性の腱障害(tendinopathy)に対するエコーガイド下で小切開手術による超音波吸引装置「TENEX」を用いた治療について概説した。羽田氏は「PRP治療のフル活用」と題して講演し,PRP(多⾎⼩板⾎漿)治療の現状と可能性について概説した。PRP治療の際に超音波診断装置と組み合わせることで,仮骨形成など修復の状況を的確に把握でき早期の競技復帰をサポートできることを紹介した。笹原氏は「体外衝撃波治療」について講演。体外衝撃波を用いた治療は尿路結石の砕石治療法(ESWL)としてスタートし応用が広がったが,その後骨折治癒や創傷治癒の促進など整形外科領域での適応が進み,2012年から難治性足底腱膜炎の保険診療が可能となっている。笹原氏は体外衝撃波治療のエビデンスやアスリートに対する実際の治療の方法や効果などについて概説した。講演後には3名の演者が登壇し,紹介された3つの治療法について,メリットとデメリットを含め選択や適応についてディスカッションした。
Session3では,特別講演として福岡ソフトバンクホークス前監督の工藤公康氏が登壇した。工藤氏は自身の選手や監督としての経験や筑波大学外科系スポーツ医学で学ぶ中で得た知見を含めて,「選手には1年でも長く現役を続けてほしい」という考え方を実現するための方法論や医療サイドに望むことなどを述べた。また,野球肘検診など子どもやアマチュア選手の障害予防のための現状や課題などにも言及した。
会場では,超音波診断装置「Aplio i800」などの実機が展示されたほか,CT,MRI,X線TV,DRなどの整形外科領域での活用をパネルやディスプレイを使って紹介した。第2部では横浜キヤノン イーグルスの選手も来場し,会場でラグビーワールドカップ2023フランス大会の日本対チリ戦のライブビューイングが行われた。
●問い合わせ先
キヤノンメディカルシステムズ 広報室
TEL 0287-26-5100