2022-11-21
北海道での開催は16年ぶり
医療DXの実現に向け基盤をつくるのが日本医療情報学会の役割
第42回医療情報学連合大会(第23回日本医療情報学会学術大会)が2022年11月17日(木)〜20日(日)の4日間,札幌コンベンションセンター(北海道札幌市)を会場に,オンラインとのハイブリッド形式で開催された。日本では,2022年6月7日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022 新しい資本主義へ~課題解決を成長のエンジンに変え,持続可能な経済を実現~(骨太方針2022)」において,医療のデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が重要な施策として盛り込まれた。今後,本格的に各種の施策が打ち出される中で,日本医療情報学会としてはプレゼンスを高めていくことが重要である。今回は,同学会の代表理事(理事長)である小笠原克彦氏(北海道大学大学院保健科学研究院)が大会長を務め,テーマには,「社会基盤としての医療情報の役割」が掲げられた。
2日目11月18日9時からA会場で行われた開会式・表彰式(第5回学術論文賞表彰式)で挨拶に立った小笠原大会長は,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行の第8波が到来した中でも来場した参加者に感謝の意を表した。また,3日目11月19日11時10分からの学会長・大会長講演「社会基盤としての医療情報の役割」で登壇した小笠原大会長は,超高齢社会,生産年齢人口減少により効率性が求められている日本の医療が抱える課題を挙げて,普及が遅れている電子カルテシステムなどのIT化を進め,医療DXを実現するという政府の方針を説明。医療DXについて,リアルワールドデータの活用などの臨床基盤,サイバーセキュリティ対策を担うような医療情報技師の育成といった人的基盤の観点から見解を述べた。さらに,学会のあり方について言及して,医療・社会の基盤をつくる学会をめざすと強調した。小笠原大会長が講演の中で取り上げた医療情報技師に関しては,3日目11月19日16時からB会場で,大会企画4と5として医療情報技師育成事業20周年記念ワークショップ「『医療情報技師育成事業のあり方を考える』─これまでの10年を振り返ってこれからの10年を展望する─」が設けられた。また,学会の今後のあり方に関しては,3日目11月19日16時からA会場で,学会企画2「日本医療情報学会医療情報総合戦略研究部会活動報告─医療情報の政策提言・学術構想を中心とした意見交換─」が開かれた。この中では,日本学術会議の策定する「未来の学術振興構想」に向けて公募が行われている「学術の中長期研究戦略」に提出する内容に関して,副代表理事の今井 健氏(東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター)が経過報告した。
AIの社会実装には産学の連携や人材育成が重要
今大会では,人工知能(AI)に関連するセッションが複数設けられた。2日目11月18日の開会式後の9時30分からは,大会企画1「画像・動画解析におけるAI開発と社会実装:企業の視点から」が行われた。座長を工藤與亮氏(北海道大学病院)と中谷 純氏(北海道大学大学院医学研究院)が務め,AIの開発に携わる大手,ベンチャー,スタートアップという事業規模や歴史の異なる企業3社の代表者が講演を行った。最初に登壇した尾藤良孝氏〔(富士フイルムヘルスケア(株)〕は,「画像診断装置と画像情報システムにおけるAIの利活用」をテーマに,AIによるワークフロー向上,画質向上,読影支援技術について報告した。また,徳本直紀氏 〔(株)Splink〕は,ベンチャーの立場から,「中枢神経領域における画像診断AIの挑戦─画像診断AI 3.0の世界を目指して」をテーマに,自動検出・計測が可能な「AI1.0」から,画像だけでなく病理と組み合わせて早期発見・予測を可能にする「AI3.0」までを説明。医療機関や企業と連携したヘルスケアエコシステムを構築して,社会実装をめざすと述べた。3番目に発表した近澤 徹氏〔(株)Medi Face〕は,「AI表情解析よる精神疾患診断について」と題して,表情,音声,会話を解析して精神疾患のAI診断を行う技術とサービス内容を紹介した。
3日目11月19日13時40分からは,A会場で大会企画3「ビッグデータ・AIが拓く未来の医学・医療」が行われた。この中で,平田健司氏(北海道大学大学院医学研究院画像診断学教室)は,「ビッグデータ・AIが拓く未来の医学・医療」をテーマに,同大学が取り組む「医療AI開発者養成プログラム」について取り上げた。本プログラムは,東北大学,岡山大学との立ち上げたコンソーシアムに基づき開講され,4年間の博士課程と1年間のインテンシブコースを用意している。平田氏はその概要やプログラムの内容を紹介した。
電子処方箋など政府の医療DX推進施策の課題を共有
政府が本格的に推進する医療DXの柱である「全国医療情報プラットフォームの創設」「電子カルテ情報の標準化」「診療報酬改定DX」に関連する施策や技術に関するセッションも用意された。2日目11月18日13時10分からA会場では,一般社団法人保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS)との共同企画2「運用直前 電子処方箋をめぐる諸課題を考える」が行われた。この中で,土屋文人氏(医薬品安全使用調査研究機構設立準備室)は,院内処方箋の電子化や,本稼働に向けて行われているモデル事業の中で浮き彫りになった課題に言及。電子処方箋は長期的な視点では患者にも医療機関にもメリットがあり,そのことを医療従事者がよく理解し,患者に説明することが重要だと指摘。医療現場が知恵を出し合い,課題解決を図ることが求められると述べた。なお,電子処方箋については,4日目11月20日14時からA会場で,産官学連携企画「電子処方箋から始まる医療DX」も行われた。
また,電子カルテ情報の標準化に関しては,2日目11月18日16時10分からC会場で公募ワークショップ4「多施設臨床研究を加速する診療録共通基盤の進展─FHIR Questionnaireによる診療テンプレートの定義とJASPEHR─」,11月20日14時からD会場で公募ワークショップ9「本格化するHL7 FHIRの活用と,普及に向けた課題と展望」が設けられた。本セッションの中で,土井俊祐氏(東京大学医学部附属病院企画情報運営部)からは,HL7 FHIRの日本仕様であるJP Coreのバージョン1.1が11月2日に公開されたとアナウンスされた。
関心が高まるサイバーセキュリティ対策
医療機関がサイバー攻撃を受けるケースが増加しており,診療業務の停止・縮小など大きな被害が発生している。こうした状況を踏まえて,サイバーセキュリティ対策のセッションも多く設けられた。2日目11月18日15時30分からB会場では,公募シンポジウム5「サイバー攻撃から診療記録を守るために何をするべきか?」が開かれた。近藤博史氏(医療法人協和会協立温泉病院)が,日本遠隔医療学会が2020年度の厚生労働行政推進調査事業「オンライン診療・遠隔医療や『非接触」を念頭に置いたICT化の中で医療機関が具備すべきサイバーセキュリティ対策や技術を踏まえたサイバーセキュリティ指針の策定の開発に関する研究」の結果などを報告した。また,田中彰子氏(厚生労働省医政局特定医薬品開発支援・医療情報担当参事官室)は,「医療分野におけるサイバーセキュリティ対策の取組みについて」と題して,厚生労働省のセキュリティ研修や,情報処理推進機構のサイバーセキュリティお助け隊などの施策が紹介された。
4日目11月20日9時からD会場で行われた医用画像情報専門技師共同認定育成機構・日本放射線技術学会との共同企画13「放射線診療における安全管理を情報システムから再考する」では,坂野隆明氏(みやぎ県南中核病院)が「放射線部門におけるサイバーセキュリティ対策の現状」について発表した。坂野氏は,サイバーセキュリティ対策について,組織的・人的・物理的・技術的な対策が求められるとし,放射線部門では情報システムだけでなく画像診断装置やそのリモートメンテナンス回線,接続機器への対策も重要だと述べた。
北海道における医療・介護連携の成功事例を紹介
今大会の開催地である北海道は,医療圏が広く,医療資源が不足している地域も多く,積雪など自然環境も厳しい。このような中での医療・介護の連携には,ITの活用が効果的である。3日目11月19日9時から行われた大会企画2「北海道における医療・介護情報共有のシステムの在り方」では,その成功事例が紹介された。守屋 潔氏(名寄市立病院情報管理センター兼名寄市健康福祉部)は,「北海道における情報共有システムの実践例(1)~名寄市・自治体職員/情報管理者の視点から~」をテーマに,自治体が旗振り役となり外部人材の有効活用などを行いながら成果を生んでいる,名寄市医療介護連携ICT「ポラリスネットワーク」の運用を報告した。
次回は神戸市で開催
次回,第43回医療情報学連合大会(第24回日本医療情報学会学術大会)は,2023年11月22日(水)〜25日(土)の4日間,神戸ファッションマート(兵庫県神戸市)で開催される。大会長を松村泰志氏(国立病院機構大阪医療センター)が務め,テーマには「医療情報の安全な流通と活用」が掲げられた。
●問い合わせ先
第42回医療情報学連合大会
https://jcmi42.org/
大会事務局
E-mail office@jcmi42.org
運営事務局
E-mail kobayashi@keimed.co.jp