2020-3-5
多くの介護施設や在宅医療の関係者が訪れた
2020年2月12日(水)〜14日(金)に,東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催された東京ケアウィーク2020では,介護用品・設備などを扱う約600社が出展,最新の製品やソリューションが展示された。「働き方改革」や人手不足が叫ばれる中,見守りセンサーや人工知能(AI)を搭載した介護ロボットの活用は,スタッフの負担を軽減し,より質の高い介護を提供するための重要なソリューションとなり得る。新型コロナウイルス流行に対する警戒態勢の下ではあったが,各ブースではさまざまな展示が行われ,多くの関係者が足を運んだ。
単純作業をAI搭載型ロボットが代替しスタッフの生産性を向上
介護ロボットが物品の運搬などの単純作業を行うことでスタッフの負担を軽減,空いた時間を本来のケア業務に回し,ケアの質や生産性向上に貢献する——今回の東京ケアウィークでは,そのようなコンセプトに基づいたソリューションが数多く展示され,注目を集めた。
ケアウィーク初展示となる「Aeolus Robotics(アイオロス・ロボット)」は,米国のAeolus Robotics Co., Ltd.(アイオロス・ロボティクス)が開発したAI搭載型介護支援ロボットで,セントケア・ホールディング(株)などがグループ施設への導入を進めている〔販売代理店は丸文(株)〕。Aeolus Roboticsは,物品を入れたカゴを持ってエレベータで移動,目的地まで運搬する。エレベータのボタンを自ら押すことができ,エレベータに無線機器の設置が不要な上,AIによる学習で移動や運搬などの作業精度を向上させていく。また,センサーで利用者の転倒を検知し,スマートフォンのアプリケーションに通知する機能を搭載。スピーカーを内蔵し,スマートフォン越しに会話も可能なため,ナースステーションで状況を確認し,必要な場合に見回りを行うなど,夜間スタッフの負担軽減に貢献する。さらに,AIによる画像認識で服薬介助時の薬の取り違えを防いだり,認知症患者の徘徊防止などに活用することも想定している。現在はシングルタスクのみ可能だが,2020年末にはマルチタスク化の実現をめざす。
米国のtemi USA inc. が開発した「temi」は,AIアシスタント機能を搭載した自律走行型パーソナルロボット。16のセンサーを使用した最新のナビゲーションテクノロジーでスムーズな自律走行を実現,あらかじめ設定した場所まで障害物を避けながら移動したり,軽量の物品を運搬することができ,見回りへの活用が期待できる。なお,SMFLレンタル(株)がレンタル提供を行っている。
見守りセンサーの活用で「働き方改革」を後押し
見守りセンサーも多くの企業が出展,「働き方改革」をキーワードに,スタッフの業務負担軽減というニーズに応える製品が多く展示された。
パラマウントベッド(株)の「眠りスキャン」は,マットレスの下に設置したセンサーで寝返りや呼吸,心拍などを測定する。ナースステーションのモニタや各自のモバイル端末でリアルタイムに閲覧,確認することが可能で,夜間の見回りの負担が軽減する。また,導入時のハードルを低減するため,「パートナーレンタル」制度を開始。1年ごとに契約を更新し,5年間レンタルを継続するとPCやモバイル端末を含むレンタル物件の無償譲渡が可能になる。また,眠りスキャンやベッド内蔵型離床センサー「離床CATCH」をベッドサイドのタッチパネル「ベッドナビ」で操作可能な超低床電動ベッド「エスパシア」シリーズも展開,顧客の幅広いニーズに応えるラインアップを揃える(眠りスキャンはオプション)。
なお,眠りスキャンは,トリプル・ダブリュー・ジャパン(株)の排泄予測サービス「DFree」などとともに,社会福祉法人善光会が提供するスマート介護プラットフォーム「Smart Care Operating Platform(SCOP)」と連携しており,介護施設向けに専用アプリケーションが提供されている。
また,善光会は2019年に介護ロボット運用の専門資格「スマート介護士」を創設,介護ロボットやセンサーを活用しながら,介護の質の向上と業務効率化を図れる人材の育成に取り組んでいる。すでに3回の認定試験を実施しており,介護施設の管理者や介護従事者などに加え,介護施設でのニーズ把握や課題分析を目的とした,介護ロボット・ICT機器の関係者の受験が増加している。
(株)バイオシルバーの「aams(アアムス)」もマットレスの下にセンサーを敷く非接触型で,心拍や呼吸,離床などを感知し,モニタに表示する。近年,ターミナル期の見守りに活用されることもあり,aamsの測定データで利用者の状態を察知することで,看取りの前に家族を呼んだり,スタッフの心構えができるという。
既存の機器の活用で導入のハードルを下げる
エフ・アイ・ティー・パシフィック(株)の「モノミルケア」は,バイタルセンサーや離床センサーなどの情報を,PCやタブレット,スマートフォンで一元管理する介護業務効率化システム。メーカーを問わず,既設のセンサーや市販のカメラと連携可能で,システム導入時のハードルが低い「スモールスタート」がポイントの一つ。また,管理画面の設定自由度が高く,施設のニーズに合わせた仕様にできることも特長である。
販売管理システムの提供などを展開する(株)サンクレエは,北海道大学と連携し,さまざまな分野でAI技術の研究・開発を進めている。今回展示した「smartNexus care」は,画像データをAIで解析してベッド上の利用者の姿勢を判定,「注意」「危険」と判断するとリアルタイムで通知する。17点のキーポイント座標を記録することでプライバシーに配慮するほか,市販のカメラで運用が可能なため,初期導入コストの抑制が可能である。
自治体が見守り・コミュニケーションロボットによる支援サービスを開始
NECプラットフォームズ(株)のコミュニケーションロボット「PaPeRo i」は,パートナー企業が開発したさまざまな専用アプリをサービスとして提供する。介護・ヘルスケア領域では,一人暮らしの高齢者を見守り・サポートを行う「みまもりパペロ」〔日本電気(株)〕や,声かけや通知,録画機能で介護施設などでの徘徊・離設を防止する「いまイルモ-PaPeRo i」〔(株)ソルクシーズ〕などがある。
このうち「みまもりパペロ」は,一人暮らしの高齢者の写真を1日3回撮影し,離れて暮らす家族に送信する見守り機能を搭載。また,ロボットに自由に話しかけて会話ができるおしゃべり機能や,高齢者と家族がメッセージのやりとりができるコミュニケーション機能などで,高齢者の生活をサポートする。愛媛県西条市などの自治体では,高齢者宅にパペロを設置(お試し期間終了後は有償レンタル),見守り支援を行うサービスを開始しており,防災情報を音声とディスプレイで通知するなど,独自の機能も搭載している。
コミュニケーションロボットが開発重点分野に追加
2017年10月に改訂された「ロボット技術の介護利用における重点分野」(厚生労働省,経済産業省)では,新たに「高齢者とのコミュニケーションにロボット技術を用いた生活支援機器」が追加された。
群馬電機(株)は,会話型ロボット「ファミリーコミュニケーション」シリーズを展示。いぬ型,ハリネズミ型に続き,2019年10月に発売したねこ型の「おしらせミイちゃん」が好評だという。メッセージの録音・再生機能を搭載しているほか,あらかじめ内蔵された約500通りの音声で会話が楽しめる。マイクの感度を上げ,騒音のある環境でもよりスムーズな会話が可能となっている。
コミュニケーションロボットで「癒やし」を提供
2012年から高齢者向けコミュニケーションロボットを製造・販売するトレンドマスター(株)は,非言語型(ノンバーバル)のコミュニケーションロボットを中心に展開している。「なでなでねこちゃん」は,静電センサーを内蔵し,「なでる」と「触る」の違いを感知して,それぞれ異なる声で鳴く。肌触りも良く,使用者が「癒やし」を感じられるほか,アニマルセラピーに近い効果が得られることも実証されている。「なでなでワンちゃん」「こんにちは赤ちゃん」シリーズなども好評で,海外での販売も視野に入れている。
“着る”感覚で使える動作支援ロボットも
動作支援ロボットの開発も著しい。信州大学繊維学部発のベンチャー企業,AssistMotion(株)が開発した生活動作支援ロボティックウエア「curara」は,身体能力が低下した高齢者などを対象に,「もう一度,自分の足で歩きたい」という思いを支援する。股関節と膝関節に装着したセンサーが動き出しを検知し,モーターで動きを支援するもので,ロボットが人の動きに合わせて補助する「同調制御法」により,その人のリズムに合わせて歩行をアシストする。また,股関節と膝関節のフレームが別々のパーツになっているため,軽量で拘束感が少なく,自然な歩行に近い歩き方ができるほか,装着が容易なこともメリットとなっている。