2019-8-6
メイン会場(東京)の様子
キヤノンメディカルシステムズ(株)は,2019年8月3日(土),9回目となる「Global Standard CT Symposium 2019」をJP TOWER Hall & Conference(東京都千代田区)をメイン会場に開催した。今年は,札幌,名古屋,大阪,広島,福岡,沖縄にサテライト会場が設けられて同時中継されたほか,1演題は広島からの中継となった。サブタイトルとして,“次世代のスタンダードを作る,新しい時代のCT技術”が掲げられ,同社の最新のCT技術である超高精細CT「Aquilion Precision」,ディープラーニングによる画像再構成技術“AiCE”,最新のdual energy技術である “Spectral Imaging System”などを中心にユーザーが臨床報告を行った。
冒頭に挨拶したCTMR事業統括部部長の田口 亘氏は,Global Standard CT Symposiumはキヤノンメディカルシステムズの次世代のCTの最新情報の提供と同時に,2011年から進めている“国内CT医療被ばく半減プロジェクト”の進捗状況を報告する場でもあると述べ,今年は国内のCT1万3000台のうち,約5500台に“AIDR 3D”が搭載されたことを報告した。また,キヤノンメディカルシステムズのAI技術開発の第1弾として,ディープラーニング再構成“AiCE”を発売し,Aquilion PrecisionとAquilion ONE/GENESIS Editionに搭載したが,今後,2機種以外への搭載も進めさらなる画質の向上と被ばく低減を進めていくと述べた。さらに,AiCEに続くAI技術開発の第2弾として新しいdual energyシステムとして“Spectral Imaging System”を発売しており,AquilionシリーズがGlobal Standard CTとなるべく,今後も開発を続けていくと挨拶した。
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Session1は,「ADCT,高精細CT,そしてAIが臨床にもたらしたもの」と題して,阿部 修氏(東京大学大学院医学系研究科生体物理医学専攻放射線医学講座放射線診断学分野)を座長に4名の演者が登壇した。
最初に三村尚輝氏(福山市民病院医療技術部放射線科)が,「Deep Learning技術(AiCE)を搭載した最新型Aquilion ONE GENESISの臨床評価」を講演した。AiCEは,ディープラーニングを用いた画像再構成技術で,Aquilion Precision(body)とAquilion ONE/GENESIS Edition(lung,body,cardiac)に搭載されている。三村氏は,AiCEの“性能”についてファントムを用いた物理特性の検証結果と,臨床画像についてFBP,AIDR,FIRSTと比較して説明した。AiCEでは,FIRSTを応用したデータを教師画像に用いていることから,低線量領域において空間分解能を維持しながらノイズが低減されていること,FIRSTに比べて約10倍の再構成速度があることなどが特徴だと述べた。また,空間分解能のさらなる改善のため新たに追加予定の“body-sharp(W.I.P.)”についても紹介した。
続いて,「頭頸部領域における超高精細CTの有用性」について久保優子氏(国立がん研究センター中央病院放射線診断科)が講演した。同院では,頭頸部がんの術前精査については全例でMRIとAquilion Precisionで診断を行っている。超高精細CTの再構成法として,“AIDR 3D”と“FIRST”といった逐次近似法のほか,金属アーチファクト低減処理の“SEMAR”,SURESubtraction Iodine Mapping+CE boostなどを活用していることを紹介。逐次近似処理は日常診療ではスピードを優先してAIDR 3Dを使用していると述べた。久保氏は,頭頸部領域の下咽頭がん,喉頭がんの10症例について超高精細CTを用いた診断の有用性を紹介した。
「超高精細CTの能力を活かした肺腫瘤診断」を講演した久保 武氏(京都大学医学部附属病院放射線部)は,Aquilion Precisionの登場によってどのように肺がんの画像診断が変わったかについて,肺結節形態診断を中心に解説した。久保氏は,肺結節の画像診断は,装置の性能向上によってこの20年で進化しており,その一つの到達点がAquilion Precisionであると述べ,1024×1024マトリクス,0.25mmスライス厚の超高精細画像の優位性を,結節辺縁の評価,すりガラス状陰影の検出,内部性状の評価について臨床画像を提示しながら概説した。久保氏は,超高精細CTでは診断能・診断確信度の向上が期待されるが,超高精細画像が役立つポイントを理解して活用することで,その有用性がさらに高まるのではないかとまとめた。
Session1の最後に成清道久氏(川崎幸病院脳血管センター)が登壇し,「急性期脳梗塞における画像診断から治療までのパスウェイ」を講演した。同院の脳血管センターでは,急性期脳梗塞に対する血栓回収療法の適応判断にCT(Aquilion ONE)と画像処理ワークステーション「Vitrea」のベイジアンアルゴリズムを使ったCT perfusionによる解析を用いている。成清氏は,血栓回収療法の適応時間が延長したことで時間判断と同時に,ischemic penumbraとischemic coreを的確に判定することが重要になるとして,ベイジアンアルゴリズムを用いたCT perfusionの評価について報告した。より精度の高い灌流情報の取得が可能になっており,Vitreaを用いることでサマリーマップによってischemic penumbraとischemic coreの客観的な組織評価ができ,神経機能の予後の予測が可能になると述べた。
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休憩を挟んだSession2では,「新たなDE技術:Deep Learning based Spectral Imagingの可能性」と題して,杏林大学医学部放射線医学教室の町田 治彦氏が座長を務め,3題の講演が行われた。
最初に檜垣 徹氏(広島大学大学院医系科学研究科先進画像診断開発共同研究講座)が,広島のサテライト会場から「Deep Learning based Spectral Imagingの原理と特徴」を講演した。Spectral Imaging Systemは,Aquilion ONE/GENESIS Editionに搭載される新たなdual energy技術で,国内では2019年6月1日から発売が開始されている。檜垣氏は,Spectral Imaging SystemについてRapid kV switchingとSpectral Imagingの原理と特徴を概説したあと,Spectral Imaging Systemの基礎実験として3Dプリンタで作成した躯幹部ファントムを用いた基礎実験の結果について報告した。Spectral Imaging Systemでは,Rapid kV switching方式を採用しているが,スイッチング時間の最適化と,高kV画像と低kV画像のギャップ推定にディープラーニングを用いることで,空間分解能を向上し,さらに自動電流変調(AEC)の適用も可能になっている。檜垣氏は,AECの利用が可能になることで画質および被ばくの最適化ができることがSpectral Imaging Systemのメリットの一つだと述べた。
続いて,メイン会場で松本良太氏(藤田医科大学病院放射線部)が,「First impression of Spectral imaging system」を講演した。同院では,2019年6月上旬から稼働を開始しこれまでに頸部,胸部,腹部,胸腹部,椎体,四肢で80件近い撮影を行っている。松本氏は,Spectral imaging systemで得られた70keVの仮想単色X線画像(Monochromatic Image)について,Single Energy Imageの120kVpとの画質評価について報告した。また,dual energy解析として,高keV画像による金属アーチファクト低減,Iodine map,Water/Calcium画像,Spectral HU Curveなどについて臨床画像を示して解説した。Spectral imaging systemは,ルーチン検査での活用は十分可能であり,SEMARなど既存技術の併用や使い分けを検討することが必要であり,低keV画像のノイズ低減を今後の課題として挙げた。
最後に,中村優子氏(広島大学大学院医系科学研究科放射線診断学研究室)が「臨床におけるDeep Learning based Spectral Imagingの初期経験」を講演した。中村氏は,原発性肝細胞がんの診断におけるdual energy CT(DECT)の有用性について,仮想単色X線画像では多血性がんの検出能の向上や金属アーチファクトの低減,物質弁別では被ばく線量の低減やヨードマップでの背景肝コントラストの向上などを挙げた。その上で,原発性肝細胞がん診断は従来のsingle energy CT(SECT)で確立されてきた検査であり,DECTではSECTで得られる情報の担保,2つのエネルギーで撮影され追加される情報の安定性が課題であると述べた。中村氏は,原発性肝細胞がんの仮想単色X線画像,ヨードマップなどを供覧し,Deep Learning based Spectral Imagingでは,被ばく線量を増加させずに安定した画質の仮想単色X線画像を作成できること,一方で物質弁別による情報は有用となる可能性が高いが,定量性など今後の検討が必要だとまとめた。
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