2019-2-12
「日立宣言 2019」を発表
第26回日本CT検診学会学術集会が2019年2月8日(金),9日(土)の2日間,日立シビックセンター(茨城県日立市)で開催された。名和 健氏〔(株)日立製作所日立総合病院〕が大会長を務め,テーマには「CT検診にかかわるすべての人のために」が掲げられた。また,初日8日には記者発表会が開かれ,低線量CT検診の普及に向け今後の学会活動を示した「日立宣言 2019」が発表された。
記者発表会には,同学会の理事長である中川 徹氏(日立製作所日立健康管理センタ),名和氏,畑山一美氏(日立市保健福祉部部長),大森美恵子氏(日立市保健福祉部健康づくり推進課長)が出席した。まず名和氏が,日立市で行われた低線量CT検診の有効性を評価するコホート研究の結果を報告した。日立市は,1998年から職域,2001年から人間ドックでの低線量CTによる肺がん検診を実施しており,検診開始から4〜8年経過後の日立市民の肺がん死亡者が24%減少したという成果が得られた。そこで,国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の革新的がん医療実用化研究事業「低線量CTによる肺がん検診の実用化を目指した無作為化比較試験および大規模コホート研究(JECS研究)」の援助を得て,検診の有効性を検証するためのコホート研究を行った。研究では,日立市民を対象に,2006年までのCT検診受診群(1万7395例)と非受診群(1万5548例)における,2012年までの肺がん罹患・死亡,全死因死亡を調査した。この結果,CT検診受診群では,罹患率が非受診群よりも23%増加するものの,死亡するリスクは非受診群よりも51%減少したことが明らかになった。名和氏は,罹患率の高さはCT検診での病変の高い検出能力を示しており,死亡リスクの低減とともにCT検診の有効性を確認できたと説明した。
次に中川氏が,「日立宣言 2019」を発表した。この宣言は,次の3項目を活動方針としている。
(1)肺がん早期発見のための“低線量CT検診”に関する正しい情報を発信し,啓発活動に取り組む。
(2)がん検診にかかわる医師,診療放射線技師,保健師,看護師,行政担当者など関係者,各種関連企業および団体との連携に努める。
(3)国・行政への政策提言を行う。
この活動方針の下に,2024年3月までの5か年計画として,肺がんCT検診認定機構の人材育成に協力し,認定医師2000名(現在1346名),認定技師2000名(現在1250名),認定施設200施設(現在19施設)をめざす。また,検診体制の確立を図るため,学会ホームページで一般向け優良施設の紹介,がん検診担当者向け情報発信,一般向け情報発信を行う。さらに,登録事業の促進を図り,肺がんCT検診認定機構の「認定施設データベース」の活用に向け学会にて情報を公開する。加えて,大腸CT検診の情報発信も強化する。このほか,慢性閉塞性肺疾患(COPD),禁煙支援,骨強度,内臓脂肪,循環器疾患などの関連研究を促進する。
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この記者発表会に先立ち行われた学術集会の開会式には名和氏と日立市の小川春樹市長が出席した。挨拶に立った小川市長は,日立市における低線量肺がんCT検診の成果を評価した上で,学術集会の成功を祈念した。
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初日の午前中には,演題群1「撮影技術・被ばく管理」が行われた。最初に登壇した柴田和宏氏(豊田地域医療センター)は,「位置決め画像撮影による被ばくについての基礎的検討—肺がんCT検診での受診者被ばくに与える影響について—」をテーマに発表した。この発表において柴田氏は,位置決め画像を撮影した場合の方が,トータルでの線量低減を図れることを説明した。同じく初日午前中に行われた演題群2「撮影技術・禁煙支援」では,「喫煙者における肺がんCT検診効果評価を目的とした意識調査」と題して,本多 融氏(日立製作所日立健康管理センタ)が報告した。本多氏は,CT検診受診者に検査画像を見せることで,禁煙の動機づけになることなどを解説した。
この後行われたワークショップ「肺がん以外の所見の取り扱い」では,5演題の発表があった。2番目に登壇した谷野明里氏(島根大学)は,「島根県における胸部CT検診データに基づいた新たなCOPD問診票の提案」と題して発表した。谷野氏は,International Primary Care Airways Group(IPAG)の問診票が日本人にとって特異度の低いことから,8項目を追加した独自の問診票を作成した経緯や運用経験などを報告した。
また,午後からは特別講演1が行われた。佐川元保氏(東北医科薬科大学)が登壇し,「CT肺がん検診の有効性評価と今後の動向:NELSON研究の結果もまじえて」と題して,2018年9月に発表されたオランダとベルギーの無作為化割付試験(NELSON),自身が研究代表者を務めるJECS研究について紹介した。
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初日にはこのほか,シンポジウム1「CT検診のGood Practice」が行われ,低線量肺がんCT検診や大腸CT検診を実施している6施設から,組織や運用体制,検査プロトコールなどの報告があった。4番目に登壇した藤原正則氏(亀田メディカルセンター幕張)は,「検診の導入から運用」と題して発表した。藤原氏は,大腸CT検診でポイントとなるのは,前処置,撮影,読影の3因子だと説明。それぞれについて自施設の運用を交えて解説を加えた。また,藤原氏は,多職種がかかわる検診を円滑に進めるには,コミュニケーションが重要であると強調した。
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このほか,学術集会2日目には,伊藤春海氏(福井大学高エネルギー医学研究センター)による特別講演2「活動性肺結核のCT診断〜画像・標本対応〜」,ハンズオンセミナー「ワークステーション実機を用いた大腸解析の実際」〔アミン(株),キヤノンメディカルシステムズ(株),伏見製薬(株)〕,市民公開講座「いきいきとした呼吸と共に暮らそう」などが行われた。なお,次回第27回学術集会は,2020年2月7日(金),8日(土)に,砂防会館シェーンバッハ・サボー(東京都千代田区)で開催される。大会長は土田敬明氏(国立がん研究センター中央病院)が務める。
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●問い合わせ先
第26回日本CT検診学会学術集会
運営事務局
TEL 0294-23-1111
https://www.jscts.org/taikai26/