2018-6-26
セミナーの様子
YRP研究開発推進協会WSN協議会は2018年6月22日(金),「IoT×介護・医療・健康」セミナーをKDDIホール(東京都千代田区)で開催した。本企画は,さまざまな分野におけるIoT,ICTの研究や活用について情報発信・共有を図るもので,2017年の「IoT×防災」に続き2回目となる。今回は,「介護・医療現場や健康管理にIoTを最大限活用」を副題に掲げ,4題の講演とパネルディスカッションが行われた。
YRP(横須賀リサーチパーク)は,1997年に開設された電波・情報通信技術を中心としたICT技術の研究開発拠点で,YRP研究開発推進協会がYRPの全体構想の策定や研究活動の推進を担っている。本セミナーの主催者であるWSN協議会は,YRPの研究成果であるワイヤレススマートユーティリティネットワーク〔WSN/Wi-SUN:国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が開発したIoT向けの世界標準無線通信規格〕技術やその関連技術の普及や活用を促進するための活動を行っている。
セミナー開催にあたり,YRP研究開発推進協会の甕(もたい)昭男会長が主催者挨拶に立った。甕会長は,少子高齢化の進行による医療・介護現場での人手不足,業務改善のための効率化の必要性,人生100年時代における健康への関心の高まりなどの背景を述べた上で,「本セミナーをきっかけとして,IoTを活用した地域と産学官の介護・医療・健康分野における連携が進展し,少子高齢化社会の問題解決に貢献することを祈念する」と挨拶した。
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セミナーでは1題目に,(株)日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門高齢社会イノベーショングループ部長の紀伊信之氏が,「介護現場でのIoT,センサー活用について」を講演した。紀伊氏は,将来の介護人材の圧倒的な不足に対してはイノベーションによる生産性の向上が必須であると述べた上で,政府がロボット介護機器の重点分野に追加したIoTやセンシング技術について概説した。そして,IoTやセンシング技術は,人手の置き換えではなく“新たなケアのあり方”を支援するとして,1)ケアそのものを減らす,2)急変や入院を減らす,3)専門性をカバーする,4)在宅の限界値を上げる,の4つの視点で事例を交えて解説した。また,新たな技術・機器の開発においては,それをどのように現場で活用するかという介護・ケア技術も併せて開発する必要があるなどの,開発・活用・事業化における留意点についても説明した。最後に,IoTやセンサーを活用することでケア改善の取り組みの成果が可視化され,スタッフのやりがいにつながるという副次的効果があることを紹介し,講演を締めくくった。
2題目に,京都大学大学院情報学研究科教授の原田博司氏が「超ビッグデータプラットフォームを用いた予見先取型医療システムの研究開発」と題して講演した。原田氏は,内閣府革新的研究開発推進プログラムImPACTの対象課題に選定された「社会リスクを低減する超ビッグデータプラットフォーム」プロジェクトのプログラムマネージャーを務めている。このプロジェクトでは,数百億〜数千億のビッグデータを収集し,それを数分〜10分以内で解析処理を行う“超ビッグデータプラットフォーム”を開発し,医療とものづくりの分野において,当該ビッグデータを時系列化し,新たな価値創造を行うことを目的に掲げている。医療分野のヘルスセキュリティプロジェクト(プロジェクトリーダー:自治医科大学・永井良三学長)では,レセプトやDPC,介護保険などの公的医療データと生活行動等連続計測データの複合解析を行い,リスク管理を行って病気の予防や治療に役立てることをめざし,「医療介護・社会リスクシミュレータ」と「心臓病リスクシミュレータ」の確立を達成目標としている。原田氏はプロジェクトの現段階での成果を報告するとともに,Wi-SUNを用いて生体情報と生活環境情報を収集し循環器リスクをリアルタイムに評価する実証試験を紹介した。
続いて,(株)KDDI総合研究所研究プロモーション部門教育・医療ICTグループ グループリーダーの米山暁夫氏が「KDDI総合研究所での医療健康分野の取組みについて」を講演した。KDDI総合研究所では,アタマ・ココロ・カラダの健康をまとめて研究する取り組みを進めている。AIを用いて生活習慣病リスク者を特定するといった健康未来予想の研究を進めるとともに,それを行動変容へとつなげることが重要であるとして,“うながし学”の研究も進めている。米山氏は,その実践例として,中高生に自主的なスマートフォンの適正利用を促すスマートフォンポータル「勉強うながしホーム」や,研究所所員を対象に行ったウォーキングアプリを使った健康増進の取り組みを紹介した。
4題目として公立諏訪東京理科大学工学部教授の松江英明氏が「ハイブリッドLPWAおよび高度センシング技術による医療・介護支援システムの研究開発」を講演した。松江氏は,さまざまな規格の無線通信システムを適材適所に用いるハイブリッドネットワーク技術と,バイタルデータを非接触で計測可能なレーダー技術を組み合わせたIoTハイブリッドセンサーネットワークの実現をめざす研究に取り組んでいる。講演では研究の概要や,ネットワーク技術の基本特性といった要素技術について詳細に解説した。
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最後に,介護・医療・健康へのIoT活用の展望をテーマにパネルディスカッションが行われた。九州工業大学客員教授の田丸喜一郎氏がモデレータを務め,KDDI総合研究所の竹森敬佑氏,デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)の小西一有氏,(株)インテックの中川郁夫氏が登壇し,それぞれの専門分野の立場から,「IoTを介護・医療・健康分野のビジネスにどうつなげるか」「介護・医療・健康のデジタル化とは」「セキュリティとプライバシーについて」などを切り口に討論を行った。
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●問い合わせ先
YRP研究開発推進協会WSN協議会
E-mail: wsn-event@yrp.co.jp
http://www.yrp.co.jp/yrprdc/wsn/