2018-2-13
キヤノンメディカルシステムズの超高精細CT
「Aquilion Precision」
(RSNA 2017での展示)
2017年12月17日(日),第1回超高精細CT研究会が国立がん研究センター新研究棟大会議室(東京都中央区)を会場に開催された。この研究会は,キヤノンメディカルシステムズ(株)(旧・東芝メディカルシステムズ)が開発した世界初の超高精細CT「Aquilion Precision」の検査・診断技術を向上するための情報共有や意見交換を図る場として,導入施設の診療放射線技師とキヤノンメディカルシステムズにより設けられた。代表幹事は,超高精細CTの開発にもかかわった石原敏裕氏(国立がん研究センター中央病院)が務める。第1回目となる研究会では,「Aquilion Precisionを知って使いこなそう!」をテーマに,特別講演のほか,初期使用経験1部4演題,同2部3演題の発表が行われた。なお,総合司会は鈴木雅裕氏(イーメディカル東京遠隔画像診断センター)が務めた。
当日は,まずキヤノンメディカルシステムズより,Aquilion Precisionの情報提供が行われた。Aquilion Precisionは,2001年から国立がん研究センター(旧・国立がんセンター)と共同で開発が進められ,17年の歳月を経てJRC2017(4月13〜16日)で発表された。検出器は0.25mm×1792chで,最小焦点サイズ0.4mm×0.5mm,空間分解能0.15mmを実現。また,再構成マトリックスは512×512,1024×1024,2048×2048で,再構成速度は80fps(1024×1024)という高速処理が可能である。発表以降,大学病院などを中心に導入が進んでおり,11月26日〜12月1日に開催された第103回北米放射線学会(RSNA 2017)において,米国でも披露された(FDA申請中)。
情報提供に続き,中屋良宏氏(静岡県立静岡がんセンター)が座長を務め,「はじめに」として,「超高精細CT研究会発足の経緯」と題して石原氏が研究会の目的などを説明した。石原氏は,超高精細CTの開発から製品化に至るまでの歩みを紹介。超高精細CTについて,従来CTからの画質改善効果〔(1)解像特性評価,(2)解像特性の表示方法,(3)CT値の感度特性,(4)z軸方向の解像特性,(5)実効スライス厚の測定精度〕を正しく評価する必要があると言及した。さらに,石原氏は,研究会を通じて,超高精細CTの性能を生かした最適な特性評価や撮影技術の啓発と普及を図っていきたいと述べた。
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続いて,宮下宗治氏(耳鼻咽喉科麻生病院)と石原氏が座長を務め,初期使用経験1部の4演題の発表が行われた。最初に登壇した近藤雅敏氏(九州大学病院)は,「日常臨床における超高精細CTの活用法の検討:ノイズとどう向き合うか」と題して発表した。同院では,5台のCTの中で,1日の検査件数が最も多いのがAquilion Precisionとなっている。これまでの経験の中で近藤氏は,日常のルーチン検査では,“NRモード(通常モード)”で撮影し,質的診断が求められる場合には,“SHRモード(超高精細モード)”を用いるという使い分けを解説した。次いで,小柳正道氏(杏林大学医学部付属病院)が,「Precisionの臨床と運用–どの領域に威力を発揮するのか?–」をテーマに発表した。同院では,2017年3月下旬にAquilion Precisionを導入し,10月からは逐次近似再構成法“FIRST”を用いて検査を施行している。運用に当たっては,高分解能画像がネットワークにどの程度負荷を与えるか,電子カルテ用モニタでどの程度画質を表現できるかといった検証を行ったという。現在,頭部はオブリークMPR,胸部はMPR,VR,minIP,腹部はCTAなどを作成して,院内に配信している。小柳氏は,Aquilion Precisionを運用するには,高分解能画像のメリットなどを施設内で啓発する必要があると述べた。
3番目には,赤木憲明氏(岡山大学病院)が,「岡山大学でのPrecision運用の現状–性能を活用するために–」をテーマに講演した。同院は新築移転に伴い,Aquilion Precisionを導入。2017年5月から本稼働させている。放射線部門内にはAquilion Precisionの高分解能画像専用のサーバを用意し,専用回線を介して高精細モニタで画像を観察するシステムを構築した。赤木氏は,これらの経験を解説し,ネットワークの重要性に言及した。続いで,銘苅ひより氏(琉球大学医学部附属病院)が登壇。4番目の発表として,「Precisionどう使う?–既存装置との使い分け・課題–」をテーマに2017年8月から稼働しているAquilion Precisionの使用経験を報告した。同院におけるAquilion Precisionの1日平均の検査数は20件程度で,これまで約1500件の撮影が行われてきた。部位としては胸部,側頭骨,IVR術前CTA,四肢,顔面などで,うち37%でSHRモードを使用している。銘苅氏は,検査の概要について説明した上で,今後の課題として,再構成関数とWW/WLの再考,X線管のOLPによる待ち時間の改善などを挙げた。
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休憩を挟んで行われた初期使用経験2部は,中屋氏と井田義宏氏(藤田保健衛生大学病院)が座長を務め,心臓・腹部領域でのAquilion Precisionの検査の実際について,3演題の発表があった。まず,「超高精細CTにおける循環器領域への取り組み〜冠動脈を中心に〜」と題して,千葉工弥氏(岩手医科大学附属病院)が発表した。同院の循環器医療センターでは,2017年3月27日〜11月30日に3284件のCT検査を施行しており,このうち37%がAquilion Precisionによるものであった。さらに,その35%がSHRモードでの撮影で,内訳は冠動脈36%,大動脈29%,下肢18%,アダムキュービッツ動脈9%などとなっている。千葉氏はこれらの検査プロトコールについて解説。Aquilion Precisionは,FIRSTを使用し,ハーフ再構成,心拍数60bpm以内,BMI27以下または体重70kg以下,年齢50歳以上を条件としていると,検査の適応について説明した。次いで登壇した松本良太氏(藤田保健衛生大学病院)は,「石灰化プラークによる冠動脈狭窄度評価–従来CTと超高精細CTの比較–」をテーマに発表した。松本氏は,102症例での石灰化プラークによる狭窄度の視覚評価について報告。Aquilion Precisionは,パーシャルボリューム効果が少なく,面内・体軸方向に高い空間分解能を有していると指摘した上で,従来,石灰化プラークによる冠動脈の狭窄は,ブルーミングアーチファクトのために過大評価する傾向にあったが,精度の高い評価が可能になったと述べた。3番目に発表した長澤宏文氏(国立がん研究センター中央病院)は,「腹部領域における撮影パラメータと画質」と題し,肝がん,膵がん,胆管がんにおける撮影条件について解説を行った。同院では,BMI24.9以下と25以上によってSHRモードとHRモードを使い分けているという。長澤氏は,これらを説明した上で,Aquilion Precisionでは微小な病変や末梢血管が明瞭に描出できていると説明した。
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研究会のプログラムの最後には,片田和広氏(藤田保健衛生大学病院)が座長を務め,森山紀之氏(東京ミッドタウンクリニック)による特別講演「超高精細CT開発と理念」が行われた。森山氏は,超高精細CTの開発に長年携わってきた。講演では,まずCTの歴史を振り返った上で,質的診断には,病変を拾い上げるために高精細な画像が求められるとし,超高精細CT開発の動機を述べた。さらに,2001年から開発を始めた超高精細CTの第1世代からの技術進歩について解説した。
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このほか,当日は,研究会顧問の辻岡勝美氏(藤田保健衛生大学病院)によるビデオでの講演「超高精細CTの性能評価」も設けられた。Aquilion Precisionの登場から半年以上が過ぎ,導入施設からは臨床的な有用性が得られているとともに,従来のCTと異なる撮影プロトコールなどを検討する必要性も生じている。このような現状も踏まえ,超高精細CT研究会は,今後も定期的に開催して撮影技術などの確立を進めていく。
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