2017-12-19
会場風景
医療放射線防護連絡協議会は,2017年12月15日(金)に島津ビルイベントホール(東京都千代田区)において,第28回「高橋信次記念講演・古賀佑彦記念シンポジウム」を開催した。同講演会は,CTの原理となるX線回転撮影法を開発し,日本の放射線防護の草分け的存在である高橋信次氏の名前を冠し,1990年より毎年開催されている。2010年からは,高橋氏に師事し,放射線防護において国内外で大きな業績を残した同協議会前会長の古賀佑彦氏の名前を冠したシンポジウムも同時開催されている。
28回目となる今回は,「放射線防護における線量基準・線量水準(参考レベル)」をテーマに,教育講演1題,高橋信次記念講演1題,古賀佑彦記念シンポジウムが行われ,最後に参加者を交えた総合討論が行われた。
はじめに,医療放射線防護連絡協議会会長の佐々木康人氏が開会の挨拶に立ち,今回の年次大会のテーマについて,ICRPの防護体系は正しく理解するのが難しいものであるため,討論を進めつつ理解を深めていってほしいと語った。
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教育講演では,彩都友紘会病院の中村仁信氏が座長を務め,東京医療保健大学の酒井一夫氏が「ICRP(国際放射線防護委員会)の線量管理の考え方」と題し,現在取り扱われている線量管理の仕組みにについて講演した。酒井氏は,「線量限度」や「参考レベル」といった線量制限のためのツールが,被ばくの種類や被ばくした状況でどのように適用されていくかを説明した上で,医療における放射線の利用に関してはリスクと便益のバランスに配慮する必要があり,必要な情報が得られる範囲において線量を低く抑えていく努力が重要であるとした。また,線量管理は与えられた線量限度を守るという固定化された作業ではなく,放射線利用の展開に合わせ,放射線の影響やリスクに関する知見の蓄積なども考慮に入れつつ,常にフィードバックを繰り返していく必要があると強調した。
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高橋信次記念講演は,日本アイソトープ協会専務理事の山下 孝氏が座長を務め,佐々木氏が「ICRP防護体系の変遷」と題し,ICRP主委員会委員やUNSCEAR日本代表・議長,ICRP刊行物翻訳委員会委員を歴任してきた経験から,放射線防護体系の歴史的な変遷について語った。佐々木氏は,自身がかかわったICRP2007年勧告の作成の経緯を基に,科学的知見の進歩と社会の動向,倫理的価値判断や過去の経験に基づいてICRPの防護体系も変化していることを説明した。また,福島第一原子力発電所事故を経験したことから,日本から参加する専門家が防護体系の将来に寄与する役割は大きいとし,その重要性をアピールした。
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午後は,医療放射線防護連絡協議会総務理事の菊地 透氏が座長を務める古賀佑彦記念シンポジウムが行われ,「医療放射線防護における線量管理の現状と課題」をテーマに3名のシンポジストが講演を行った。
まず,長瀬ランダウア株式会社の壽藤紀道氏が,「個人線量測定機関から見た線量管理の動向」をテーマに,過去の放射線防護法令における被ばく線量の測定管理の概要や,現在の医療被ばくにおける課題について紹介した。壽藤氏は,現在課題となっている眼の水晶体の等価線量限度の引き下げについて,原子力規制委員会の放射線審議会で設置された「眼の水晶体の放射線防護検討部会」が示した線量測定方法に関する具体的な方向性を挙げ,個人線量測定機関としては,この方向性を踏まえ,関連学会などの具体的対策案も考慮しながら,具体的測定方法への対応を図っていくと報告した。
次に,国立保健医療科学院の山口一郎氏が,「医療放射線安全関連法令から見た線量管理の現状」と題し,古賀佑彦氏が書いた「最近の医療放射線管理について想うこと」を題材に,医療放射線の安全管理について,参加者の意見を確認しながら講演した。山口氏は,医療従事者の被ばく線量管理の例では,得られたデータの解釈は測定方法の特性を考慮する必要があり,不適切な測定例では補正が求められるとした。また,医療機関内のルール整備では,関係者の理解を得る必要があり,小さなリスクであっても事実関係を話すとともに,リスク情報の提示だけでなく,地域住民が安心して受け入れられるような情報提示が必要になると述べた。
最後に登壇した榊原記念病院の粟井一夫氏は,自身が勤めていた国立循環器病センター(現・国立循環器病研究センター)と榊原記念病院における透視装置の線量の実際を供覧しながら,「医療現場における線量管理と放射線防護の課題」をテーマに講演した。粟井氏は,装置や防護用品の進歩もあり,インターベンションにおける被ばく線量は抑えられているとしたが,一方で,Publ.118勧告における吸収線量の閾値について,眼の水晶体だけでなく,心臓なども複雑なインターベンション手技の間に患者の吸収線量が閾値に達する可能性があり,最適化が重要視されるべきであると提言した。また,過度に線量低減をめざすのではなく,画像の品質保証を最優先に考えた上で,線量が低減されるべきだと訴えた。
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その後,中村氏が登壇し,指定発言を行った。中村氏は,LNT(閾値なし直線)仮説は誤りであるとした報告を紹介し,LNT仮説は過去のものであり,被ばく低減のために画質を犠牲にすることはもちろん,現在の低線量CTにおいて,さらなる被ばく低減競争は無意味であるのではないかと述べた。
最後に,演者・シンポジストが登壇し,京都医療科学大学の大野和子氏の進行の下,「放射線防護における線量基準・線量水準(参考レベル)を考える」をテーマに総合討論が行われた。
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なお,平成30年2月10日(土)には,京都大学楽友会館(京都府京都市)にて「医療関係者として正しくインフォームドコンセントを行っていますか?」をテーマに,第39回「医療放射線の安全利用」フォーラムが開催される予定となっている。
●問い合わせ先
医療放射線防護連絡協議会 (日本アイソトープ協会内)
TEL 03-5978-6433(月・火・木・金)
FAX 03-5978-6434
Email jarpm@chive.ocn.ne.jp
http://jarpm.kenkyuukai.jp