2017-11-6
来場者を迎えるロビーギャラリー展示
日立製作所は2017年11月1日(水),2日(木)の2日間,東京国際フォーラムにて「Hitachi Social Innovation Forum 2017 TOKYO」を開催した。本イベントは,顧客とのアイデアの共有や交流の機会を創出するため,日立グループの現在と未来を,講演やセミナー,展示を通して紹介する日立グループ最大規模のイベントで,今回で19回目となる。今年のテーマに掲げられた「社会の未来を変えるアイデアがここに」が表すとおり,社会に変革をもたらしうる,幅広い分野の最先端の技術,製品,ソリューションが一堂に会し,顧客やパートナーに紹介された。
講演は,執行役社長兼CEOの東原敏昭氏による基調講演「世界の変化をリードする社会イノベーション」や,ピューリッツァー賞受賞作家(『銃・病原菌・鉄』著者)で,科学者のジャレド・ダイアモンド氏による特別講演「伝統と未来をつなぐ。〜現代社会への提言〜」をはじめ5講演,6つのビジネスセッション,特別プログラム,61のセミナーが設けられた。
ヘルスケア領域の企画としては,初日にビジネスセッション3「近未来の『医療×AI&デジタル』」が行われた。モデレータを日経BP社特命編集委員の宮田 満氏が務め,中田典生氏(東京慈恵会医科大学放射線医学講座准教授,学校法人慈恵大学ICT戦略室室長),西原広史氏(国立病院機構北海道がんセンターがんゲノム医療センター長,慶應義塾大学病院腫瘍センター客員教授),渡部眞也氏(日立製作所執行役常務ヘルスケアビジネスユニットCEO)の3名が登壇した。中田氏,西原氏はそれぞれの専門領域におけるAI(人工知能)やデジタル技術の現状と今後の方向性,渡部氏はヘルスケア領域における日立のAIの取り組みを説明し,AIやビッグデータの現状の課題や可能性などについてディスカッションを行った。
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画像診断領域について報告した中田氏は,まず,日本はCTやMRIの台数が世界的に見て突出して多いが,人口あたりの放射線科医数は平均以下であり,データ(画像)を情報(読影レポート)にするための人的資源が不足している現状と,その解決にAIが必要であることを強調した。画像診断へのAI活用については,AIが近い将来に読影レポートを書くようになるとの予測がある一方で,AIが読影プロセスを人間に説明できないブラックボックス状態であることが問題となっていることを説明。その中でも米国は,NIHで胸部X線画像のAIによる読影研究が進むなど実用化に積極的で,FDAもAI利用の承認に前向きであることを紹介し,日本においても厚生労働省が2017年1〜3月に開催した「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」にて,画像診断を含む6分野でのAI活用推進が決定されたことを報告した。また,中田氏は,2017年11月26日(日)から開催されるRSNA 2017のキーノートセッションで発表を予定している,rawデータから画像診断を行うような“人間を超えるAI”の可能性について概要を説明するとともに,AIの登場により,「人間対AI」ではなく,「AIを使う人間と,AIを使わない人間の競争」となるとの見解を紹介し,実際にそのように進んでいくだろうと今後を展望した。
病理領域について発表した西原氏は,遺伝子診断とがん治療について解説した。がんの診断・治療では,取扱規約に従って病理診断を行い,診断に基づき保険収載された標準化学療法が選択されているが,近年,組織のがん化にかかわるドライバー遺伝子の研究が進み,遺伝子により適した治療法が異なることがわかってきた。西原氏は研究症例を紹介しながら,例えばHER2遺伝子に異常がある肺腺癌では,乳がん治療に用いられる分子標的薬ハーセプチンが有効との研究や臨床報告があるものの,日本では保険診療で行うことができない実情があることを説明した。西原氏らは,”がんの個性”に合わせた治療を提供するため,網羅的にがん遺伝子を解析するシステム「プレシジョン検査」を開発。これまでの検証データでは95%でドライバー遺伝子の同定が可能で,AIを用いることでさらに精度の高い診断が可能になるとの期待を述べ,既存薬を利活用する個別治療の可能性を示した。そして,日本におけるがんゲノム医療の現状として,厚生労働省の「がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会」が作成した「がんゲノム医療実用化に向けた工程表」に沿って,2018年度末の遺伝子パネル検査の保険収載をめざして検討が進められていることを紹介した。
渡部氏は,日立ヘルスケアビジネスユニットのAIに関する取り組みについて発表した。日立では,画像認識に適した「ディープラーニング」,ゴールを設定して最適解を求める「Hitachi AI Technology/H」,膨大なデータからルールを見つける「ディベート型AI」など複数のAI技術の研究開発に取り組んでおり,渡部氏は現在進めているプロジェクトを紹介した。ゲノム分野では,粒子線治療装置の有効活用のためにも,AIを活用して放射線耐性にかかわると考えられる遺伝子を解明するプロジェクト,画像診断分野では,脳や肺など6つの領域を対象にAIを使った画像診断のプロジェクト(2017年度末頃より臨床評価を開始予定)などが進められている。渡部氏は,AIの実用化に向けてはデータベース環境整備が重要であると指摘し,米国やデンマークなどデジタル先進国に学んで日本のデータ基盤を構築する必要性を述べ,公的なデータベース構築の支援,オープンプラットフォームの実現に尽力していくとの意気込みを述べた。
セッションでは最後に,AIがどのような医療改革をもたらすか,その実現にあたっての課題などを議題にパネルディスカッションが行われた。電子カルテなどの診療情報やゲノム情報とAIを組み合わせることで,さまざまな解析を行うことができ,予防医療が進歩すると考えられるものの,個人情報保護法など法制度が壁になっていること,また,人材も不足していることなどが課題に挙がり,人々のAIへの理解を促すことの必要性などが話し合われた。
展示会場では,日立グループが取り組む8分野のビジネスごとに展示エリアが設けられた。「デジタル技術活用によるヘルスケアイノベーション」をテーマに掲げたヘルスケアの展示では,「データ連携で変革する広域・地域包括ケアソリューション」「デジタルソリューションで進化する病院/医療イノベーション」の2つを展示テーマに,医療の質を向上させ,少子高齢化や医療費・介護費の増加などの課題を解決するソリューションを紹介した。
企業や団体,健保組合などを対象とした「ICTを活用した健康経営ソリューション」は,生活記録ASP(リストバンド,スマートフォンアプリ)の提供と継続的な健康増進施策の導入検討支援により,従業員の健康改善や医療費の適正化につなげるソリューションである。現在,提携しているセコム株式会社から,このアプリを活用した個人向けの救急対応・健康管理サービスの提供も始まっている。また,「地域包括ケアシステム対応ソリューション」では,自治体が持つヘルスケア情報を,地域の多職種間でセキュアに共有・利活用できる情報基盤を提供しており,会場では福岡市への導入事例が映像で紹介された。このほか,個人情報の分離と検索可能暗号化技術を組み合わせたクラウドによる個人情報管理「匿名バンク」,高精度な振動センサと解析技術による「生体情報を利用した見守りソリューション」などを紹介。また,病院/医療イノベーションでは,経営効率化を支援する「故障予兆診断支援サービス」や「病院経営改善支援サービス」,外科治療や粒子線治療のソリューションなどが紹介された。
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●問い合わせ先
(株)日立製作所 Hitachi Social Innovation Forum 2017 TOKYO事務局
TEL 03-4235-6140(9:30~12:00、13:00~17:00 ,土・日・祝日を除く)
E-mail contact.hsiftokyo.jq@hitachi.com