2017-7-31
「AIをより深く極める」がメインテーマ
第36回日本医用画像工学会大会(JAMIT 2017)が2017年7月27日(木)〜29日(土)の3日間,じゅうろくプラザ(岐阜県岐阜市)を会場に開催された。藤田広志氏(岐阜大学)が大会長を務めた今回,人工知能(AI)が医療,特に医用画像において注目を集めている状況を受けて,メインテーマには「AIをより深く極める」が掲げられた。初日の開会式において,尾川浩一会長(法政大学)の挨拶の後に登壇した藤田氏は,第三次AIブームと言われ,政府も医療分野におけるAIの活用を推進している状況を踏まえて,今回のメインテーマを決めたと説明。AIに焦点を当てたプログラムを多く用意したと述べた。そのプログラムは,特別講演が溝上敏文氏(日本アイ・ビー・エム)の「IBM Watson Health - Cognitive Computing と医療の世界」と,Martin Stumpe氏(Google Research)の「Deep Learning for Medical Imaging」の2題のほか,第7回JAMITチュートリアル講演会「深層学習の基礎,応用,実装,期待」, コニカミノルタ科学技術振興財団 JAMITハンズオンセミナー「深層学習体験」,日本画像医療システム工業会(JIRA)・JAMIT 大会共同企画シンポジウム「AI の画像診断への応用:産官学の視点から」,先端企業講演,オーガナイズドセッション,一般演題などで構成された。
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初日,開会式後には,小尾高史氏(東京工業大学)と花岡昇平氏(東京大学)が座長を務め,第7回JAMITチュートリアル講演会「深層学習の基礎,応用,実装,期待」が設けられ,3名の講演が行われた。まず,田村哲嗣氏(岐阜大学)が登壇し,「人工知能,機械学習と深層学習の基礎と応用」と題して講演した。田村氏は,AIについて人工的につくり出した,人間と同水準,あるいは人間以上の知能であるとし,機械学習はAIの開発において,コンピュータ上の機構・機能を実現することであると説明。深層学習は,機械学習において,多層ニューラルネットワークを用いたものであると概説した。その上で,田村氏は,深層学習の順伝播型ニューラルネットワークや,そのアルゴリズムである誤差逆伝播法(バックプロパゲーション)法などを解説。さらに,再帰型ニューラルネットワークや畳み込みニューラルネットワークなどの仕組みを紹介した。このほか,田村氏は,AIの活用事例として,健診や電子カルテデータなどの医療情報処理への応用を取り上げた。
次いで,「深層学習のためのGPUシステム構築と研究・開発における運用」をテーマに,山崎和博氏(エヌビディア)が登壇した。山崎氏は,深層学習が急速に進歩している要因として,ディープニューラルネットワーク,ビッグデータ,GPUという3つのキーワードを挙げた。そして,同社の深層学習向けのGPUである「Tesla」シリーズの新製品である「Tesla V100」について説明したほか,Tesla V100を4基搭載した深層学習向けワークステーションである「DGX Station」を紹介。さらに,深層学習のシステム開発のためにソフトウエアをはじめとした開発環境を提供できる同社の強みをアピールした。
3番目には,木戸尚治氏(山口大学)が,「人工知能システムの医学応用とその期待」をテーマに,医師の視点から深層学習について講演した。木戸氏は,これまでのAIブームを振り返った上で,医療用エキスパートシステムとして開発された「ANTICIPATOR」や「RHINOS」を紹介。その後登場したCADシステムも取り上げた。さらに,木戸氏は,深層学習による診断支援を提供する米国Enliticのシステムに触れた上で,歴史に学ぶ教訓として,(1)開発における手作りのルール生成や特徴量定義には限界がある,(2)医学者と工学者の連携が重要,(3)研究の継続性が重要である,という3点を挙げた。
このチュートリアル講演会と連携する企画として,コニカミノルタ科学技術振興財団 JAMITハンズオンセミナー「深層学習体験」が設けられた。2日目,最終日に計5回,各90分のスケジュールで行われた。このセミナーは,深層学習の開発に使用されるプログラミング言語である「Python」を体験して,ニューラルネットワークの構造や機械学習を理解し,実際に画像分類を行うように構成された。参加者はPCを使用して,実際にPythonでのプログラミング,3層ニューラルネットワークでの機械学習などを体験した。
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AIに関するプログラムとして,大会2日目には,特別講演1「IBM Watson Health - Cognitive Computing と医療の世界」が行われた。尾川氏が座長を務め,溝上氏が登壇。まず,IBMのコグニティブ・コンピューティング技術であるWatsonについて,2011年にクイズ番組「Jeopardy!」で勝利した経緯などを紹介した。さらに,溝上氏は,医療分野への応用として,2015年に「IBM Watson Health」をスタートし,米国のメモリアル・スローン・ケタリングセンター,MDアンダーソンがんセンター,ニューヨーク・ゲノム・センターとのがんや白血病診療における研究開発について解説。また,PACSベンダーの米国MERGE Healthcare社など,医療情報システムを手がける企業の買収により,Watson開発のためのデータを収集する事業展開を説明した。このほか,溝上氏は,今後5年間でIBMが実現をめざす“マクロセンサー”や“オンチップ”など,5つの技術コンセプトについても取り上げた。
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特別講演1に続き,中田典生氏(東京慈恵会医科大学),土居篤博氏(JIRA/富士フイルム)が座長を務め,JIRA・JAMIT 大会共同企画シンポジウム「AI の画像診断への応用:産官学の視点から」が行われた。まず,中田氏が,「医療行政の動向:厚労省『保健医療分野におけるAI 活用推進懇談会』について」と題して,6月27日に発表された同懇談会の報告書の内容を中心に報告した。中田氏は,AIの開発を進めるべき重点領域に,画像診断支援が挙げられていると説明。その開発に向けて,AIに必要な画像データを収集するために,「画像診断ナショナルデータベース実現のための研究開発」が日本医療研究開発機構(AMED)の公募研究に採択され,日本医学放射線学会理事長の本田 浩氏(九州大学)を中心に,研究が進められていると述べた。
次に登壇した土居氏は,「産業界の取組:医療情報利活用とAI 実用化への課題」をテーマに発表した。土居氏は,AIをはじめとした医療情報利活用のためのJIRAの取り組みを説明したほか,医療におけるAI普及のためのインセンティブのあり方や法規制などの課題を取り上げた。
3番目の発表として,佐久間一郎氏(東京大学)が登壇し,「国内外の動向:AI に関するトピックスと議論」をテーマに発表した。佐久間氏は,医薬品医療機器総合機構(PMDA)における医療機器評価の概要を説明した上で,AIの審査における課題に言及。現状の医療機器の審査は,性能が定まったものを前提としており,学習することで性能が変わっていくAIに対する評価が難しいことや,深層学習で導き出された情報の根拠,関係性の説明が困難であることなどを指摘した。佐久間氏の発表後に,3名で行われた総合討論では,こうした課題について意見を交換した。
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今回のJAMITでは,ほかにも一般演題において,深層学習のテーマが3セッション設けられた。また,2日のランチョンセミナーでは,「NVIDIA 深層学習環境のご紹介と臨床応用に向けた展望」をテーマにエヌビディアから情報提供が行われるなど,文字どおり「AIをより深く極める」大会となった。
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●問い合わせ先
日本医用画像工学会
TEL 03-6264-9071
E-mail jamit@may-pro.net
http://www.jamit.jp