2017-7-11
システムの説明をするプロジェクト担当の山田真善氏
国立研究開発法人国立がん研究センターと日本電気(株)(以下,NEC)は,人工知能(AI)を用いたリアルタイム内視鏡診断サポートシステムを開発し,2017年7月10日(月)に国立がん研究センター築地キャンパス(東京都中央区)にて記者説明会を開催した。
リアルタイム内視鏡診断サポートシステムは,大腸がんや前がん病変(大腸腫瘍性ポリープ)をリアルタイムに自動検知することで,検査での見逃しを回避し,内視鏡医の病変の発見をサポートすることを目的としている。病変検知アルゴリズムの開発にはNECのAI技術を用いた深層学習(ディープラーニング)を活用しており,独自の高速処理アルゴリズムや画像処理に適したGPUを用いてPC1台で動作するプロトタイプを開発した。プロトタイプでは,病変を検知すると音で知らせるとともに,リアルタイムに病変が疑われる部分を丸く囲んで表示する。
深層学習では,国立がん研究センター中央病院内視鏡科により所見が付けられた前がん病変と早期大腸がんの画像約5000枚と,病変が写っていない画像約13万5000枚をAIに学習させた。学習用とは別の評価用データ(一定期間の連続した画像:病変画像705枚,非病変画像4135枚)を用いた精度検証では,感度98%,特異度99%,正診率98.8%との高い認識精度を示した(現在学習中の平坦・陥凹型病変を除く)。また,偽陰性は2%,偽陽性は1%と低く抑えられている。現在は後ろ向きでの評価となっているが,病変検知アルゴリズムの精度向上やソフトウエアの最適化などを進め,前向き臨床試験を2019年度中に開始することをめざしている。
記者説明会には,国立がん研究センター中央病院内視鏡科科長の斎藤 豊氏と医員でプロジェクト担当の山田真善氏,国立がん研究センター研究所がん分子修飾制御学分野分野長の浜本隆二氏,NEC医療ソリューション事業部シニアマネージャの上條憲一氏,NECデータサイエンス研究所主席研究員の今岡 仁氏が出席した。
国立がん研究センター中央病院内視鏡科とNECは,2015年1月よりリアルタイム内視鏡画像自動解析システムの共同研究をスタートした。今回のリアルタイム内視鏡診断サポートシステムの開発は,国立研究開発法人科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業(CREST)における「イノベーション創発に資する人工知能基盤技術の創出と統合化」研究領域に採択された研究課題「人工知能を用いた統合的ながん医療システムの開発」(研究代表者:浜本隆二氏)の一つとして研究開発が進められている。
国立がん研究センターでは,2017年3月の築地キャンパス内の新研究棟竣工を機に,中央病院と研究所のネットワークを強化した。今後,新研究棟に設置されたGPGPUクラスタと中央病院内視鏡科の録画サーバと閉鎖系VLANでつなぎ,病変検知アルゴリズムの研究を加速させ,リアルタイム内視鏡診断サポートシステムの早期の臨床応用をめざす。
説明会でコメントした斎藤氏は,システム開発の臨床的な意義について,「大腸内視鏡検査を受けても,肉眼で認識しにくい病変,また内視鏡医の技術格差により,前がん病変や早期がんの見逃しがあることが問題となっている。今回開発したシステムを用いてAIのサポートを得ることで,見逃しなく,効率よく病変を発見することができ,大腸がんの罹患率,死亡率の低下に貢献できるだろう」と述べており,リアルタイム内視鏡診断サポートシステムによる検査精度の向上と標準化,安全性の向上が期待される。
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