2017-5-24
説明会の様子
日立製作所は,被検者の負担が少なく,検査者の習熟度に依存しない,かつ精度の高い乳がん検診を実現する超音波計測・解析技術を開発し,2017年5月24日(水)に日立製作所本社(東京都千代田区)にて説明会を開催した。説明会では,日立製作所研究開発グループ基礎研究センタ長の山田真治氏が日立の計測技術の研究開発の歴史を紹介したあと,同センタの川畑健一氏が乳がん罹患率や現在の乳がん検診の課題などを述べた上で,新開発の超音波計測技術(マルチモード超音波CT)の説明を行った。
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アジアにおいては,乳がん罹患率が増加傾向にあり,米国と比べ罹患ピークが若年(40代)という特徴もあることから,早期発見のための乳がん検診のさらなる普及が求められる。乳がん検診に用いられるマンモグラフィには,高濃度乳腺で検出能が低下することや被ばく,圧迫による被検者負担などの課題があり,これらの課題を解決する検査として超音波検査も用いられるが,超音波検査は精度が検査者に依存しやすく,微小石灰化の検出が困難といった課題があった。マルチモード超音波CTは,3D自動スキャンや新たな解析技術により,従来の超音波検査の課題も解決する装置として研究開発が進められている。
マルチモード超音波CTの試作装置では,被検者は腹臥位となり,水を満たした検査容器に乳房を入れるだけでセッティングが完了し,検査容器の周囲をリング状超音波デバイスが上下動して1分程度で自動スキャンを行う。リング状超音波デバイスの一方向から超音波を照射し,360°方向で反射波・透過波を取得,解析することで,腫瘍特性も含めた多くの情報を提供することができる(図1,2参照)。
マルチモード超音波CTは,いくつかの新開発技術により実現可能となった。開発技術の一つは,乳房と超音波デバイスが分離した構造であっても,正確な計測結果を表示できる補正技術である。水を満たした検査容器に乳房を入れる方法は,装置そのものが汚染されるリスクが低いという利点があるが,乳房と検出器の間に検査容器があることや,デバイスの歪みなどにより,計測結果にズレが生じる。この計測結果の劣化を補正する技術を開発したことで,高精度な計測を実現した。
また,従来の超音波装置では,プローブに戻ってくる後方反射波を利用して画像化するが,全方向の音波を受信できるマルチモード超音波CTでは,側方反射波も解析することで,腫瘍表面の粗さや粘性などの腫瘍特性情報の取得や微小石灰化の検出も可能になる(図3参照)。
これらの技術により,「腫瘍の構造,硬さ」「腫瘍表面の粗さ」「腫瘍の粘性」「微小石灰化」が検査結果として表示され,腫瘍の検出や良悪性の予測などを総合的に判断するための情報を提供する。
現時点では,イヌの臨床腫瘍を用いて5mm大の腫瘍を検出するなどの成果を上げているが,ヒトの臨床腫瘍を用いた研究を,2017年4月から北海道大学病院と共同で開始した。2020年頃までにパラメータの最適化や臨床的有用性を確認し,被検者の負担が少なく,検査者の習熟度に依存しない高精度な乳がん検診を実現する技術として実用化をめざすとしている。
●問い合わせ先
(株)日立製作所
研究開発グループ 研究管理部 [担当:小平,安井]
TEL 042-323-1111(代表)
http://www.hitachi.co.jp/