2016-5-17
高信号でがんを描出するMRI用ナノマシン造影剤
公益財団法人川崎市産業振興財団ナノ医療イノベーションセンター(iCONM),東京大学,東京工業大学,国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所(放医研)の研究グループは,がんの悪性度を検知するMRI用「ナノマシン造影剤」を開発した。その研究成果がNature Nanotechnology誌〔オンライン発行:2016年5月16日(月)〕に掲載された。これに合わせて,5月16日(月)に,iCONM(神奈川県川崎市)施設内で記者会見が行われた。
ナノマシンは,ウイルスサイズの極小カプセルである高分子ミセルのこと。高分子ミセルは,外側は親水性の高いPEGセル,内部は疎水性の高いセルで構成される。pH値7.4の血流中では安定しており,pH値の低いがん細胞(6.5~6.7)では溶解するという特性を持つ。この特性を利用して,高分子ミセルの内部に抗がん剤を組み込み,がん細胞で溶解させ抗がん剤を放出させることで,的確にがん細胞を死滅させる。現在,パクリタキセルなどの抗がん剤を組み込んだナノマシンの臨床試験が世界中で進められている。
今回開発されたMRI用ナノマシン造影剤は,この原理を応用したもので,高分子ミセル内部のリン酸カルシウムにマンガンイオンを組み込む。これにより,がん細胞に到達するとリン酸カルシウムが溶解してマンガンイオンが放出され,それをMRIで画像化できる。さらに,マンガンイオンは,タンパク質との相互作用により信号強度が増大するため,従来のマンガン造影剤やガドリニウム造影剤よりも,がんを高信号で描出する。そのため,放射線治療や抗がん剤の耐性があり,転移や浸潤にかかわる遺伝子群を発現する低酸素領域のがん細胞を可視化し,早期発見や転移の検出,治療方針の決定,治療効果の判定などに活用できる。1.0T MRIを用いたラットでの実験では,1.5mmの大腸がん肝転移を検出できたという。
記者会見には,片岡一則氏(iCONMセンター長/東京大学政策ビジョン研究センター特任教授),西山伸宏氏(東京工業大学科学技術創成研究院教授/iCONM主幹研究員),Mi Peng氏(iCONM主任研究員),青木伊知男氏(放医研チームリーダー)が出席。研究内容の説明が行われた。
MRI用ナノマシン造影剤は,今後,臨床使用に向けてさらなる研究開発が進められる予定である。被ばくがなく,ガドリニウム造影剤のように副作用のリスクも少ないことは,被検者にとってもメリットが大きい。また,中低磁場装置でも微細ながんを高信号で描出できることから,日本国内で広く普及しているMRIの有効活用にもつながるだけに,早期の製品化が期待される。
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公益財団法人川崎市産業振興財団ナノ医療イノベーションセンター
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