2015-2-27
活発な意見交換もあった会場
特定非営利活動法人放射線安全フォーラム(以下,RSF)は2015年2月21日(土),千代田御茶の水ビル(東京都文京区)において,水晶体被ばくをテーマにした第40回放射線防護研究会を開催した。RSFは,放射線の安全利用のための情報交換や人材育成に取り組むとともに,啓発活動,政策提言を行うことを目的に,2007年に設立された。その前身は,20年以上の歴史を持つ放射線防護研究会であり,長きにわたり,放射線の安全利用のための活動を行ってきた。今回の研究会も,その活動を受け継いだものであり,「眼の水晶体の放射線防護のあり方を考える」と題して,3題の講演と総合討論でプログラムが構成された。
まず,理事長である加藤和明氏が挨拶に立ち,放射線業務従事者における水晶体の被ばくについて,国際放射線防護委員会(以下,ICRP)や国際原子力機関(以下,IAEA)における線量限度の変遷と,その基本的な考え方を述べ,今回の研究会は水晶体被ばくの現状を知る機会として設けたと説明した。
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この挨拶に続き,榊原記念病院診療放射線技師長の粟井一夫氏が,「IVRに従事する放射線診療従事者の眼の水晶体被ばくの実態と防護の取り組みの現状」をテーマに講演した。同院は,年間5000件を超えるカテーテル検査を実施しているほか,経皮的冠動脈形成術など多くのインターベンションを行っている。粟井氏は,こうした環境の中で,心臓カテーテル室内において,術者がどの程度被ばくをしているか,撮影と透視での違いや,術者ごとの動線による比較の検討結果を報告。その上で,心臓カテーテル室は高線量の検査環境であり,術者に対しての防護対策を重点的にとる必要があるとして,X線防護眼鏡の必要性を指摘した。さらに,粟井氏は,その種類として含鉛アクリルタイプと鉛ガラスタイプを紹介し,それぞれの防護効果や重量などを比較して説明した。粟井氏は,術者の水晶体被ばくについての検討結果も報告し,検査数との関連がないので業務内容を吟味すること,大視野FPDなどの新しい医療技術への対応,X線防護眼鏡着用者の水晶体被ばく線量の評価法を考えることの必要性を課題に挙げた。
続く2番目の講演では,(株)千代田テクノル線量計測事業本部線量計測技術部の大口裕之氏が演者を務めた。講演テーマは,「眼の水晶体の線量計測に関する国際規格の動向」。大口氏は,まず2011年にICRPが水晶体の等価線量限度をそれまでの150mSvから5年平均20mSv/年,1年間で最大50mSvに引き下げたことについて説明。そして,IAEAがこの声明を受けて国際基本安全基準とその要件を示す技術文書(TECDOC 1731)を2013年に刊行した経緯などを解説した。大口氏は,国際電気標準会議(以下,IEC)のIEC 62387における水晶体線量測定と,IECの要件に基づきISOが改定作業を進めているISO 15382の説明も行った。
次いで,放射線医学総合研究所医療被ばく研究プロジェクト医療被ばく研究推進室室長の赤羽恵一氏が,「眼の水晶体の放射線防護に対する取り組みの必要性」と題し,講演した。
赤羽氏は,水晶体被ばくに関するICRPやIAEAの動向を説明した上で,日本でも実情に即した対策が必要だと述べた。そして,放射線被ばくによる白内障の発症について解説した上で,IVRにかかわる医療者に対して行われたRELID(Retrospective Evaluation of Lens Injuries and Dose)調査やO'CLOC(Occupational Cataracts and Lens Opacities in interventional Cardiology) Studyなどの結果を示した。また,赤羽氏は,国際放射線防護学会(以下,IRPA)の活動についても言及し,IRPAが行ったアンケートなどを紹介した。講演の最後に赤羽氏は,今後の課題として,TECDOC 1731のガイダンスに記載されたHp(3)という線量当量をどう評価するか,白内障が加齢によるものか被ばくによるものかを区別する影響評価,水晶体被ばくの防護方法の3点を挙げて講演を締めくくった。
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この後,総合討論が行われ,医療現場において水晶体被ばくに対する知識や防護の意識が低いことなどが指摘された。参加した放射線科医からは,ほかの診療科の医師への啓発などを行っていきたいとの声も聞かれるなど,活発に意見が交換された。なお,第41回放射線防護研究会は,「除染従事者の被ばく線量管理」をテーマに,4月18日(土)に千代田御茶の水ビルで開催される。
●問い合わせ先
特定非営利活動法人放射線安全フォーラム
事務局(税理士法人AKJパートナーズ内)
TEL:03-3818-0456
http://www.rsf.or.jp