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HIMAC 20周年記念講演会「重粒子線がん治療のこれまでとこれから」を開催

2014-12-10

会場風景

会場風景

独立行政法人放射線医学総合研究所(以下,放医研)は2014年12月5日(金),東京国際フォーラム(東京都千代田区)を会場にHIMAC 20周年記念講演会「重粒子線がん治療のこれまでとこれから」を開催した。HIMAC(Heavy Ion Medical Accelerator in Chiba)は,世界初の重粒子線がん治療研究施設とし1984年に建設に着手,1993年に完成し,1994年6月に炭素の重粒子線によるがん治療を開始した。2014年8月までに約9000名に対して治療を行い,優れた成績を上げている。本講演会では,HIMACの歴史や治療の現状および成果が紹介されたほか,さまざまな視点から今後への期待が述べられた。

受付風景

受付風景

 

はじめに,放医研理事長の米倉義晴氏が挨拶に立ち,「わが国が中心となって技術開発を行った重粒子線がん治療は,低侵襲でありながら難治がんに対しても高い治療効果が認められる最先端の治療法であり,世界をリードする最新の医療技術として注目を集めている。今後も新たな治療法の開発に挑戦するとともに,世界中の人々が恩恵を受けられるよう普及推進に努めていきたい」と述べた。

米倉義晴氏(放医研理事長)

米倉義晴 氏
(放医研理事長)

   

 

講演は3部構成となっており,第1部では「重粒子線がん治療のこれまで」をテーマに2題の特別講演が設けられた。特別講演1では,放医研フェローの辻井博彦氏が「重粒子線がん治療の立ち上げ責任者として」と題し,HIMAC設立の背景や歴史,重粒子線がん治療の特徴,実際の照射技術,患者数の推移などについて述べた。また,重粒子線がん治療の臨床試験数は放医研が世界最多であり,その成果について国内外から高い評価を得ている。その背景として,国際共同研究の実施や国際トレーニングコースの開催,英文書籍の出版,国際助言委員会および国際オープンラボラトリー(IOL)の設立などを挙げた。最後に,重粒子線がん治療の今後の課題として,装置の小型化および普及による建設費低減化,前向き臨床試験の実施,スキャニング照射法の確立および小型回転ガントリの開発などでの技術支援,人材育成などのほか,現在は臨床試験と先進医療で治療を行っているが,将来的には健康保険診療への移行が必要であるとの考えを示した。

特別講演2では,国立がん研究センター東病院名誉院長の海老原 敏氏が,「重粒子線がん治療に期待したもの」と題して,自身が専門とする頭頸部がん治療の経験を踏まえて講演した。かつて,舌がんの治療にはラジウム(Ra)針が使用され,治療効果がきわめて高かったが,術者被ばくが大きいため現在では使用されていないという。そのため,頭頸部がん治療は外科手術を中心に行われてきたが,特に高齢者にはきわめて負担が大きい。そこで,海老原氏はRa針に代わるものとして低侵襲な重粒子線がん治療を挙げたほか,放射線治療で効果が期待できない症例への治療効果,眼球などの機能温存,治療後機能障害の軽減,照射野のさらなる縮小,照射回数・期間の短縮などを挙げ,重粒子線がん治療のさらなる発展への期待を述べた。

辻井博彦氏(放医研フェロー)

辻井博彦 氏
(放医研フェロー)

海老原 敏氏(国立がん研究センター東病院)

海老原 敏 氏
(国立がん研究センター
東病院)

 

 

第2部では「重粒子線がん治療の現状と期待」をテーマに2題の講演が行われた。講演1は放医研重粒子医科学センター長の鎌田 正氏が,「治療成果と将来展望」と題して講演した。放医研における重粒子線がん治療の臨床研究は,優れた線量分布と高い生物効果を臨床で十分に引き出し活用することを目的に,高精度かつ安全な照射法(治療法)の確立,難治がん(放射線抵抗性腫瘍)の克服,短期照射の追究をめざして行われている。前立腺,骨軟部をはじめ多くの部位できわめて高い治療効果が得られているほか,照射期間はいずれも4週間以内で,特にⅠ期非小細胞肺癌は1回,肝細胞がんは2回照射で治療が終了するという。鎌田氏は,ここに至るまでの道のりは決して平坦ではなかったとして,さまざまな症例を提示しながら照射法の改善などについて述べたほか,各部位における治療成績および前立腺がんにおける各種放射線療法の副作用発生率に関する国際比較などを示し,いずれも世界最高水準の優れた成績が得られていると述べた。また,今後の展開として,治療の標準化,短縮化,新しい照射技術の開発,低コスト化などを通じて重粒子線がん治療のグローバルスタンダードを確立し,世界をリードしていきたいとし,国内の施設による炭素線治療多施設共同研究や,米国テキサス大学との進行膵癌共同臨床試験の計画も進行中であると紹介した。

講演2では放医研重粒子医科学センター物理工学部長の野田耕司氏が,「装置研究開発のこれから」と題して講演した。初めに,HIMACの施設の概要や開発の経緯,普及型重粒子線がん治療装置の開発などについて紹介した。また,新たな照射法として,治療中の腫瘍サイズの変化や呼吸性移動標的にも柔軟に対応可能なペンシルビーム呼吸同期三次元照射技術(以下,3Dスキャニング法)の開発を行い,2011年5月から治療を開始しているとして,屋上と壁面を緑化した特徴的な新治療研究棟での治療の流れを紹介した。この次世代照射システムにより,患者一人あたりの治療室占有時間が従来の25分から13分へとほぼ半減しており,治療時間は1日3時間程度と限られているにもかかわらず,2014年7月までに,すでに約550名の治療が行われたと述べた。さらに,現在開発中の超伝導炭素線回転ガントリを紹介し,これと3Dスキャニング法を組み合わせることで,さらなる短期間治療が可能になると述べた。最後に,これまでの研究成果を応用することで,今後はHIMACの16分の1の面積のSuper-MINMACや,それをさらに小型化した超小型重粒子線がん治療装置Hyper-MINMACの開発をめざすと展望した。

鎌田 正氏(放医研重粒子医科学センター)

鎌田 正 氏
(放医研重粒子医科学
センター)

野田耕司氏(放医研重粒子医科学センター)

野田耕司 氏
(放医研重粒子医科学
センター)

 

 

第3部のパネル討論会はテーマを「重粒子線がん治療への期待」とし,作家で放医研重粒子医科学センター病院Ai情報研究推進室の海堂 尊氏がコーディネーターを務め,佐賀新聞客員論説委員の寺﨑宗俊氏,神奈川県立がんセンターの中山優子氏,山形大学医学部付属病院の根本建二氏,放医研重粒子医科学センター長の鎌田氏が登壇した。寺﨑氏は自身の前立腺がん治療の経験を踏まえ,患者への侵襲性の少ない重粒子線がん治療の有用性を述べた。また,中山氏は,神奈川県立がんセンターで2015年に治療開始予定の重粒子線治療施設「i-ROCK」の稼働を目前に控え,従来の放射線治療では治癒できなかった患者に新たな治療の選択肢ができることへの期待を述べた。一方,重粒子線がん治療の普及には,建設費・運用費・治療費などが非常に高額であることが大きな課題となっている。現在,山形大学への重粒子線がん治療装置の導入に向けて取り組んでいる根本氏は,近隣に治療施設がないと患者は重粒子線がん治療について説明すらされない現状に触れ,普及を推進するためには安価かつ高性能な装置の開発といったインフラの整備が必要であると述べた。また,鎌田氏は,重粒子線がん治療を普及するためには有用性を知ってもらうことが重要であり,そのために,今後は講演活動などを積極的に行っていくとともに,コスト面での課題を解決するためには保険収載が一つの方策であるとの考えを示した。

コーディネーター:海堂 尊氏(作家,放医研重粒子医科学センター病院)

コーディネーター:
海堂 尊 氏
(作家,放医研重粒子
医科学センター病院)

寺﨑宗俊氏(佐賀新聞)

寺﨑宗俊 氏
(佐賀新聞)

中山優子氏(神奈川県立がんセンター)

中山優子 氏
(神奈川県立がん
センター)

     
根本建二氏(山形大学医学部付属病院)

根本建二 氏
(山形大学医学部
付属病院)

鎌田 正氏(放医研重粒子医科学センター)

鎌田 正 氏
(放医研重粒子医科学
センター)

 

 

最後に,放医研研究担当理事の明石真言氏が挨拶に立ち,HIMACのこれまでの20年を支えてくれた多くの人への感謝を述べた。

明石真言氏(放医研研究担当理事)

明石真言 氏
(放医研研究担当理事)

   

 

なお,2015年1月19日(月),20日(火)の2日間,アキバホール(東京都千代田区)にて国際シンポジウム「HIMAC International Symposium 2015 : 20-Year Anniversary Event」(http://www.nirs.go.jp/ENG/news/press/2014/141001.shtml )が開催される。

 

●問い合わせ先
独立行政法人放射線医学総合研究所
企画部広報課
TEL 043-206-3026
http://www.nirs.go.jp/index.shtml
Email info@nirs.go.jp