2014-8-26
テーマは「CTにおける被ばくと画質」
日本CT技術研究会(JSCT)は2014年8月23日(土),慶應義塾大学病院東校舎講堂(東京都新宿区)において,「第1回 JSCTシンポジウム」を開催した。JSCTは,「学術的な標準やエビデンスを追求した技術開発の普及」「実績に基づいたセミナーの開催」「CT技術研究を進める研究者の実績拡充」をめざして2012年11月に設立。翌年6月には第1回の学術大会を広島大学医学部で行い,今年6月28日には名古屋市立大学病院において第2回学術大会を開催した。今回のシンポジウムは,「CTにおける被ばくと画質」がテーマ。セミナー「CTにおける被ばくと画質」,シンポジウム「CTにおける被ばく低減技術」の2部構成でプログラムが組まれた。開会に当たって挨拶した会長の市川勝弘氏(金沢大学)は,CT技術に関する研究に取り組み,その成果を論文として発表することが重要であると述べた。そして,今回のシンポジウムは,その努力をしている研究者に発表いただくので,ぜひ参考にしてほしいとまとめた。
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先に行われたセミナー「CTにおける被ばくと画質」では,副会長の村松禎久氏(国立がん研究センター東病院)が座長を務めた。まず,「CT検査における受診者の被ばく線量と放射線リスク」と題して,名古屋大学の藤井啓輔氏が発表した。藤井氏は,CT検査における線量評価として,装置管理,性能評価を目的としたもの,診断参考レベル(DRL)の指標であるCTDIとDLP,人体に対する防護を目的とした臓器線量(実効線量)があると説明。臓器線量の評価方法として,人体ファントムと線量計による実測,モンテカルロシミュレーション計算について解説した。また,CT検査の発がんリスクについて,小児CTコホート調査結果などを示し,現状は情報が不足しており,さらなる知見の集積が必要だと述べた。
次いで登壇した市川氏は,「線量と画質」と題して発表した。市川氏は放射線線量について,コントラストと空間分解能に影響するように見えるが実際には影響しないとする一方,ノイズには影響を与えると述べた。そして,画質評価法としてNPSの臨床応用について解説し,単独での画質評価は困難であるとした。また,線量が多いほどSNRが向上すると説明。その上で,CTメーカーが取り組む逐次近似再構成法について,ノイズを低減しSNRを向上させているが,公表されている低減レベルには疑問が残るとまとめた。
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3番目の発表では,熊本大学の船間芳憲氏が,「低管電圧による被ばく低減」をテーマに登壇した。船間氏は,これまでに開発されてきたCTの被ばく低減技術の説明をした上で,低管電圧CTでの撮影について症例を交えて解説した。そして,低電圧CTが大幅な被ばく低減につながることから,小児や若年者などの長期フォロー患者に有用だと述べた。さらに船間氏は,造影剤コントラストが向上することから,造影剤を減量でき,腎機能障害患者への検査の適応を拡大できることをメリットに挙げた。一方で,線量不足によるノイズの増加がデメリットだとして,管電流を増やす必要があることや高体重・高BMI患者には適さないことを説明した。これらを踏まえて船間氏は,逐次近似再構成法と組み合わることで,ノイズを抑え高画質画像を得られたという検証結果を示した。
休憩を挟んで行われたシンポジウム「CTにおける被ばく低減技術」では,市川氏と広島大学病院の石風呂 実氏が座長を務め,「スキャン技術による被ばく低減」と「逐次近似再構成による被ばく低減」の2部構成に分けられた。まず,「スキャン技術による被ばく低減」の「心臓」について,高瀬クリニックの佐野始也氏が発表した。佐野氏は,心臓CTにおける被ばく低減につながる撮影技術として,64列CTでの間欠X線曝射などを説明。さらに,撮影時RR時間と再構成心位相の関係についても解説した。佐野氏は,320列CTでの撮影法も取り上げ,低被ばくで高画質を得るためには心拍数のコントロールが重要であると述べた。続いて,「一般領域」について村松氏が発表した。村松氏は,スキャン技術に関する国際電気標準会議(IEC)などの活動を説明したほか,CT用自動露出機構(automatic exposure control:AEC)について,機能や仕組みを解説。また,線量管理体系として,日本版の「National Radiology Data Registry(NRDR)」や「Dose Index Registry(DIR)」の重要性に言及した。
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「逐次近似再構成による被ばく低減」は,CTメーカー各社の逐次近似再構成法について,その使用経験が報告された。先に登壇した静岡がんセンターの瓜倉厚志氏は,東芝社製“AIDR 3D”について,その概要を説明したほか,診断能を維持した被ばく低減が可能であることを報告した。次に発表した九州大学病院の近藤雅敏氏は,フィリップス社製“iDose”と“IMR”について,その使用経験を説明。iDoseのレベル4で撮影を行い,胸部単純CTで57.1%,上腹部骨盤単純CTで41.5%,肝臓ダイナミックCTで44.8%の低減率を実現していると述べた。3番目に発表した医真会八尾総合病院の星野貴志氏は,シーメンス社製“SAFIRE”について報告した。星野氏は,SAFIREは対象によってエッジ強調効果が異なることと,高強度の場合に小さな低コントラスト腫瘤で検出率が低下するので注意が必要だとの見解を述べた。この後,岐阜大学医学部附属病院の三好利治氏(欠席のため音声とスライドによる発表)によるGE社製“ASiR”と“Veo”の解説が行われた。三好氏は,ASiRはノイズを抑え被ばく低減に寄与しているものの,線量を下げすぎるとノイズに埋もれたデータが回復せず,特に単純CTでは注意が必要だと説明。また,VeoのIR法である“MBIR”は効果的にノイズを低減するものの,再構成時間がかかり,医師によっては違和感を感じる画像になるとの使用経験を報告した。
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すべての発表後,総合討論が行われた。どのような領域で逐次近似再構成法を用いた撮影をしているか,心臓CTへの適用などについて,会場からの質問も交えて意見交換された。
なお,JSCTの第3回学術大会は,2015年6月下旬に北里研究所病院(東京都港区)を会場に開催される予定である。
●問い合わせ先
日本CT技術研究会
事務局
広島大学病院放射線部内
TEL 082-257-5563
http://www.jsct-tech.org