2013-3-4
会場風景
医療放射線防護連絡協議会は2013年3月1日(金),タワーホール船堀(東京都江戸川区)にて「第34回『医療放射線の安全利用』フォーラム」を開催した。「福島原発事故から医療被ばくを考える」をテーマに,医療放射線防護連絡協議会総務理事の菊地 透氏(自治医科大学)の司会進行のもと,基調講演2題とパネルディスカッション,総合討論が行われ,医療関係者や一般市民が参加した。
まず,医療放射線防護連絡協議会会長の佐々木康人氏が挨拶に立ち,引き続いて基調講演1として,「国連科学委員会UNSCEARの役割と福島原発事故健康リスク調査中間報告」を佐々木氏が講演した。UNSCEAR(United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation:原子放射線の影響に関する国連科学委員会)は,1955年に設立され,現在27か国が加盟する組織で,世界中の放射線源と放射線被ばくデータ,放射性物質の環境と人の健康への影響に関する資料を収集し,その科学的健全性を審査した上で,国連総会に報告する役割を担う。UNSCEARの元議長である佐々木氏は,UNSCEARの概要や活動内容,日本国内での対応を説明した上で,UNSCEARのこれまでの報告書の内容,また,現在UNSCEARが精力的に取り組んでいる福島原発事故に関する調査の中間報告の概要を説明した。
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続いて,島田義也氏(放射線医学総合研究所発達期被ばく影響研究プログラム医療被ばく研究プロジェクト)が,「胎児・こどもの放射線影響と医療被ばく」と題して講演した。福島原発事故後に,市民からの被ばくに関する相談を数多く受けた島田氏は,放射線影響について説明する際には,エビデンスをわかりやすく説明する必要があることを実感した経験から,患者や市民に接する医療従事者が正しい知識を持つ重要性を強調した。そして,さまざまな研究,調査結果をもとに,放射線のヒトへの影響や,胎児・子どもへの健康影響について述べ,胎児期の被ばくは子どもの被ばくより発がんリスクが小さいことや,反復被ばくにおける1回あたりの線量が小さいほど,線量率が低いほどリスクが小さいことなどを解説した。
休憩を挟み,午後は第2部として「福島原発事故から医療放射線安全と医療被ばくを考える」をテーマにパネルディスカッションが行われ,座長を務めた菊地氏による座長講演と,3題の話題提供が行われた。
座長講演「福島原発事故の対応から今後の医療放射線安全を考える」では,菊地氏が,福島原発事故の線量比較としてCT検査が引き合いに出されるといったこともあり,医療放射線への社会的関心が高まっていることから,あらためて医療被ばくの特徴や,患者線量の正当化・最適化ついて確認した。医療放射線利用についても患者が不安や懸念を持っているため,インフォームド・コンセントと信頼関係構築の重要性が増しているとし,医療従事者は今後,放射線・放射能とその健康影響について,正しく基本的な知識を習得する必要があると述べた。そして,医療放射線防護連絡協議会の役割として,現在検討している医療従事者に対する放射線安全教育を整備・実施していくシステムを紹介した。
続く話題提供では,1題目に田中淳司氏(埼玉医科大学)が「最近のICRP勧告からの医療放射線安全と医療被ばくを考える」を講演した。これまでに得られている研究・調査結果をもとに,放射線被ばく,健康影響に関する知識をQ&A方式で解説した田中氏は,ICRP2007年勧告の要点や,LNTに関する研究を紹介し,医療被ばくによる発がんの可能性の有無についても言及した。そして,診療で患者が受ける線量には法的制限がないのは,医師・歯科医師が放射線被ばくと防護に十分な知識を持ち,正当な診療行為をすると信頼されているためであり,その信頼に背くことのないようにALARP(As Low As Reasonably Practicable)の原則を常に守ることの重要性を強調した。
2題目に,大野和子氏(京都医療科学大学)が「放射線科医の立場から医療被ばくを考える」を講演した。原発事故後の社会の関心の高まりから,これまで放射線科医と診療放射線技師が担ってきた医療における放射線利用についての情報開示が求められていると述べた大野氏は,患者防護の基本である正当化と最適化について述べ,最適化については,患者,医師,行政の合意形成が必要であるとした。そして,放射線診療の最適化のためには,各診療科ガイドライン策定への関与,治験整備などにかかわっていくことが放射線科医の今後の役割であろうと述べた。
3題目は,「診療放射線技師の立場から医療被ばくを考える」をテーマに,粟井一夫氏(榊原記念病院)が講演した。粟井氏は,デジタル化が進むX線一般撮影について取り上げ,アナログ時代に知識と経験によって構築されてきた撮影条件が,デジタル化により自動設定されるようになり,線量管理が難しくなっていると述べた。そして,撮影条件と線量の関係や,デジタル化に伴う患者線量の変遷について解説するとともに,これまでに構築されてきた撮影条件と撮影技術には十分な妥当性があることから,診療放射線技師は,それを継承しつつ,新しいモダリティに対応する必要があるとした。また,患者へのアンケートの結果を紹介し,患者が医療従事者に求めているものは信頼関係であり,その思いに応えることが大切であると述べた。
最後に,パネルディスカッションの演者が登壇し,会場からの質問や意見に答える形で総合討論が行われ,会場からは多くの意見や質問が寄せられた。
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