2018-11-28
1.5T MRI「Ingenia Ambition」
RSNA 2018 MRI
Philips(フィリップス)のMRIコーナーでは,約10年の月日を掛けて開発された新製品の1.5T MRI「Ingenia Ambition」(国内薬機法未承認)が紹介された。Ingenia Ambitionの最大の特長は,マグネットデザインを一新し,わずか7Lの液体ヘリウムで超電導状態を維持できる“Helium-free”となった点である。これまでのゼロボイルオフのシステムは,マグネットの周囲を約1500Lの液体ヘリウムで満たすことで超電導状態を保っていた。これに対してIngenia Ambitionは,超電導線材と交互に配置したマイクロチューブの中に液体ヘリウムを灌流させてマグネットを冷却する“BlueSeal”テクノロジーにより,少量の液体ヘリウムで超電導状態を維持することができる。クエンチした場合にも気化したヘリウムは装置内のタンクに収まり,外に排出する必要がないため,クエンチパイプが不要となった。また,装置の重量も約900kgの軽量化を実現。クエンチパイプの配管や装置重量による設置制限が緩和され,MRI室配置の自由度が向上する。また,電源のオン/オフがボタン一つで可能になることから,地震や停電でクエンチした場合,また万が一,ストレッチャーなどを吸着させてしまった場合にも復旧しやすくなる。
Ingenia Ambitionは,2018年4月に発売されたハイエンド装置「Ingenia Elition 3.0T」と同じ,「Speed(さらなる高速化の実現)」「Comfort(検査ストレスからの解放)」「Confidence(確信が持てる診断)」の3つをコンセプトに開発された。Speedは高速撮像技術“Compressed SENSE”による撮像時間の短縮,Comfortは「In-Bore Experience」による快適な検査空間の提供を実現する。
さらに,ガントリ奥に設置したカメラで被検者の呼吸状態をリアルタイムにモニタリングし,高精度に呼吸同期を行う“VitalEye”(国内薬機法未承認)も実装されている。呼吸ベルトが不要になりワークフローと被検者の快適性が向上するとともに,呼吸による動きの影響の少ないシャープな画像を提供する。また,ガントリ前面の両サイドには「VitalScreen」が配置され,患者情報や体位,心電図,造影剤などのデータ表示,心電図同期の設定などが行える。ユニークな特徴として, MRI検査室の扉を閉めると同時に撮像を開始する自動スタートのボタンがVitalScreenに実装され,ワークフローのさらなる向上に貢献する。
常に進化を続けるMRIアプリケーションも,新しいアプリケーションが複数提供されている。“Diffusion TSE XD”は,EPIベースでの撮像により磁化率の影響で歪みやすかった従来のDWIに対し,TSEベースで撮像することで歪みの少ない画像を取得するアプリケーションである。空気との境目で歪みやすい内耳なども形状の歪みなく撮像できることに加え,体動補正技術“MultiVane”を併用できるため,よりシャープな画像を得ることができる。
また,k spaceをスパイラル状に高速に充填するSpiralシーケンスが実用化され,“Spiral Brain”として紹介された。従来のターボスピンエコー系シーケンスで造影剤を使用した場合,血流の影響でアーチファクトが生じやすかったが,Spiral Brainによりアーチファクトのない画像を短時間で撮像できるようになる。さらに,“mDIXON”を併用することで,脂肪抑制あり/なしの画像を同時に取得することも可能だ。Spiralシーケンスは,Time of Flight(TOF)MRAへも適用可能となっている。