2024-5-1
島津製作所ブース
島津製作所は,スローガン「Evolution, Innovation, Transformation ‒solving challenges together‒」の下,「医療従事者の業務支援・負担軽減」「シニアヘルスケア−認知症−」「シニアヘルスケア−骨の健康−」の3つのテーマを設けて展示した。「医療従事者の業務支援・負担軽減」については,2024年4月1日から勤務医の労働時間の上限規制が設けられ,医療現場で働き方改革が進んでいることを受け,業務効率を向上させる製品を紹介した。その一つが,ITEM 2024直前の4月11日に発表したX線一般撮影システム「RADspeed Pro SR5 Version」である。RADspeed Pro SR5 Versionは,従来機種から操作性とユーザビリティを高めている。コンソールを刷新し,また,X線管懸垂器のハンドル形状も握りやすくした。さらに,オプションで撮影をアシストする「VISION SUPPORT」を用意。X線照射部に光学カメラを搭載し,被検者映像とX線照射範囲などを重ねてX線管懸垂器操作部と撮影コンソールのモニタ上に表示し,ポジショニングを支援。再撮影の低減も図れ,検査負担を軽減する。
医療従事者の業務支援・負担軽減につながる製品としては,ほかにX線動態撮影が可能な「MobileDaRt Evolution MX8 Version kタイプ」を展示した。2023年7月に発表した回診用X線撮影装置。一般撮影の技術を応用してパルスX線を最大15fpsで最長20秒間照射して動画像を作成できる。従来は据え置き型の装置で撮影を行っていたが,MobileDaRt Evolution MX8 Version kタイプが登場したことでベッドサイドでの検査も可能となり,被検者を移動させるといったスタッフの負担を減らせる。
また,放射線科の受付業務を省力化できる「MERSYS-Xαラジエーションパッケージ」を紹介。さらに,無床診療所の検査業務の負担軽減につながるソリューションとして,2024年3月に発売したDRシステム「VIVIX-S/VXvueクリニックパックtype V」と,統合型電子カルテ「SimCLINIC T4 Cloud」,診断用X線装置「X’sy Anesis」もしくは「RADspeed Pro」の連携で診療におけるシステムのトータルサポートをアピールした。
シニアヘルスケアのうち認知症診療については,頭部・乳房の検査に特化したPET「BresTome」を展示した。半導体検出器を採用しており,time-of-flight(TOF)による高画質画像を得られる。解像度は全身用PETの約2倍になるという。さらに,質量分析装置を用いて血液からアミロイドβ関連ペプチドを検出する技術を紹介した。血中アミロイドペプチド測定システム「Amyloid MS CL AXIMA」は,アルツハイマー型認知症のスクリーニングを可能にする技術であり,早期診断に寄与すると期待される。
骨の健康に関する製品・技術としては,X線TVシステム「SONIALVISION G4」にオプションとして提供される骨密度測定アプリケーション「SmartBMD AI Assist」や,骨折の診断をサポートする椎体計測ソフトウエア「Smart QM」などを紹介した。椎体骨折診断では,quantitative measurement(QM)法による評価が行われるが,撮影時のポジショニングの影響を受けるほか,計測に時間を要するという課題があった。Smart QMは人工知能(AI)技術を用いて,計測するポイントを自動で初期設定する。これにより簡便に計測を行えるようになる。
このように今回のブースでは,業務の効率化,認知症と骨の健康に関する製品・技術を数多く展示して,医療の課題を解決し社会に貢献する姿勢をアピールした。
●X線(一般撮影システム):優れた操作性とユーザビリティに加え,撮影支援機能で医療従事者の業務支援・負担軽減に寄与する「RADspeed Pro SR5 Version」
●X線(回診用X線撮影装置):ベッドサイドでのX線動態撮影により撮影業務の負担軽減を図れる「MobileDaRt Evolution MX8 Version kタイプ」
●X線(診療所向け):電子カルテやワイヤレスFPD,診断用X線装置をパッケージ化し診療所の検査業務を支援する「VIVIX-S/VXvueクリニックパックtype V」
●ヘルスケアIT:放射線科の受付業務を省力化する「MERSYS-Xαラジエーションパッケージ」
●PET:アルツハイマー型認知症の早期診断に貢献する高画質TOF-PET「BresTome」
●AI:骨の健康のための検査・診断を支援する骨密度測定アプリケーション「SmartBMD AI Assist」や椎体計測ソフトウエア「Smart QM」を紹介
●X線(一般撮影システム):優れた操作性とユーザビリティに加え,撮影支援機能で医療従事者の業務支援・負担軽減に寄与する「RADspeed Pro SR5 Version」
ITEMでお披露目した「RADspeed Pro SR5 Version」は,X線一般撮影システムの新製品。4月10日から国内販売を開始している。最大の特長は,インターフェイスやX線管懸垂器のハンドルなど細部に至るまで改良を施し,従来機種から操作性やユーザビリティを向上させたことと,X線照射部に備え付けられた光学カメラを用いた撮影支援機能「VISION SUPPORT」(オプション)を搭載したことだ。操作性とユーザビリティの向上については,X線管懸垂器操作部のモニタに大型のタッチパネルを採用。操作コンソールのユーザーインターフェイスも見直して視認性を高めている。また,X線管懸垂器の操作ハンドルも診療放射線技師へのヒアリングを基に,握りやすいサイズと形状に設計し直した。このほかにオプションでオートポジショニングのリモコンと,X線曝射のハンドスイッチを用意する。
同じくオプションで提供されるVISION SUPPORTは,X線照射部に光学カメラを搭載し,被検者映像とX線照射範囲などを重ねてX線管懸垂器操作部と撮影コンソールのモニタ上に表示する。これにより,正確なポジショニングを支援して,撮影の高精度化と効率化を図れる。再撮影のリスク低減や担当する技師のスキルに依存しない確実な検査が可能となるほか,被検者に注意を向けることができ医療安全にもつながる。VISION SUPPORTでは,このほかにもポジショニング後の被検者の動きを検知してモニタ上に表示するとともに警告音で知らせる「体動検知機能」,直前の撮影画像とリアルタイムの画像を切り替えて表示しポジショニングの精度を高める「前回ポジション表示機能」をオプションで提供する。
●X線(回診用X線撮影装置):ベッドサイドでのX線動態撮影により撮影業務の負担軽減を図れる「MobileDaRt Evolution MX8 Version kタイプ」
回診用X線撮影装置では,MobileDaRt Evolution MX8 Versionを展示した。このうち「MobileDaRt Evolution MX8 Version kタイプ」は,コニカミノルタ社のカセッテ型X線撮影装置(ワイヤレスFPD)と組み合わせて使用する。オプションで,X線動態撮影機能を用意する。X線動態撮影は一般撮影の技術を応用してパルスX線を最大15fpsで最長20秒間照射し,得られた連続画像を動画像で表示する。これにより,呼吸に伴う肺の動きや関節の動きを動画像で観察することができ,機能評価を行える。X線動態撮影には従来,据え置き型の一般撮影装置「RADspeed Pro」を使用していたが,MobileDaRt Evolution MX8 Version kタイプでも可能になったことで,ベッドサイドでX線動態撮影を行える。これまでは被検者を病棟と撮影室を往復させて行っていた撮影がベッドサイドでできるようになる。MobileDaRt Evolution MX8 Version kタイプは重量が440kgであるが,「GLIDE VIEW」機能により,X線管の支柱をスムーズに伸縮させたり,電動アシストにより容易に移動させることが可能。撮影業務の負担軽減につながるほか,被検者を移動させずに検査が施行できるので医療安全にも寄与する。本体にはワイヤレスFPDの充電スロットが設けられているほか,大型19インチモニタを搭載しており,検査後すぐに検査画像を表示して画像を確認できる。
●X線(診療所向け):電子カルテやワイヤレスFPD,診断用X線装置をパッケージ化し診療所の検査業務を支援する「VIVIX-S/VXvueクリニックパックtype V」
ブース内では,診療所向けのソリューションとして,2024年3月に発売したDRシステム「VIVIX-S/VXvueクリニックパックtype V」と,統合型電子カルテ「SimCLINIC T4 Cloud」,診断用X線装置「X’sy Anesis」もしくは「RADspeed Pro」の連携で診療におけるシステムのトータルサポートをアピールした。SimCLINIC T4 Cloudと画像収集ソフトウエアVXvueを1台の端末上で画面を切り替えて使用可能。DICOM規格のMWM機能によりシステム・装置がシームレスに連携。SimCLINIC T4 CloudとVXvueの患者情報の連携により入力作業の省力化を図れる。さらに,VXvueで撮影方向や部位を決めれば,X’sy AnesisまたはRADspeed Proのコンソールで撮影条件が自動設定される。VXvueは直感的でわかりやすいユーザーインターフェイスを採用しており,VIVIX-Sの接続状態を確認可能。VIVIX-Sで撮影された画像を5秒以内に表示する。電子カルテの診療情報と放射線検査画像,内視鏡画像,超音波画像などのデータを一元的に管理でき,診療の効率化を図れる上に,PCなどハードウエアの設置面積を抑えて,診療所のスペースを有効活用できる。
ワイヤレスFPDのVIVIX-Sは14×17インチ,17×17インチをラインアップ。オプションで2枚目を追加できる。取っ手を設けるなど可搬性に優れているほか,IP67の防塵・防水性能を有し,面の耐荷重は400kgで,100cmの落下試験をクリアするなど堅牢な筐体を特長としている。スタンバイ状態で最大16時間というロングライフバッテリーを採用し,充電状態をVIVIX-Sから確認できる。また,有線接続でも運用可能である。
●ヘルスケアIT:放射線科の受付業務を省力化する「MERSYS-Xαラジエーションパッケージ」
ブースでは,今回のテーマの一つ「医療従事者の業務支援・負担軽減」につながるヘルスケアITソリューションとして,放射線科の受付業務を省力化できる「MERSYS-Xαラジエーションパッケージ」のデモンストレーションを行った。
MERSYS-Xαラジエーションパッケージの端末は,放射線科の受付に設置され,RISと連携して検査受付を行う。被検者がMERSYS-Xαラジエーションパッケージ端末のカード挿入口に診察券を入れるか,腕に巻かれているバーコードをバーコードリーダで読み取らせると,RISに受付が記録され受付票が発行される。これにより,受付業務を省力化してスタッフが不在でも滞ることなく検査を実施できる。なお,受付票を発行するサーマルプリンタは,印字後に用紙をカットしてから出力口から排紙される。これにより,印字の途中で用紙が引っ張られることで生じる紙詰まりによる故障を防止し,トラブルによるダウンタイムの発生を防いでいる。また,端末の側面には,用紙の残量がわかるウインドウが設けられ,用紙切れを回避する工夫を凝らしている。
さらに,オプションで用意される番号表示システム「MERSYS-ID」は,受付番号を待合室の大型モニタに表示して,検査の進捗状況を周知する。これにより,被検者は自分の検査の順番を把握しやすくなり,待ち時間に離席して別の用事をすませるといったことが可能になる。受付窓口での応対を減らせるだけでなく,被検者のストレスを軽減し,サービス向上にもつながるシステムである。
●PET:アルツハイマー型認知症の早期診断に貢献する高画質TOF-PET「BresTome」
2023年に早期アルツハイマー型認知症の疾患修飾薬「レカネマブ」が承認を受け,その後早期診断のためにアミロイドPETが保険適用となった。これを受けて,今回のITEMでもアミロイドPET関連の展示を行う企業が多かった。島津製作所も「シニアヘルスケア−認知症−」のテーマの下,PETのBresTomeのほか,世界をリードする分析計測技術を用いた早期認知症診断のための取り組みを紹介した。
BresTomeは,2021年3月に発表した世界初となる頭部と乳房に特化したTOF-PET。頭部用と乳房用の検出器ホールを有しており,目的に応じて切り替えて使用する。近接型検出器リングは直径30cmで,一般的な全身用PETの80cmと比べて小さく,2倍の高解像度データを取得できる。さらに,SiPM(Silicon Photomultiplier)の半導体検出器と小型シンチレータとの組み合わせにより高空間分解能を実現。アミロイドβの蓄積を詳細に画像化することができ,アルツハイマー型認知症の早期診断に寄与する。
アミロイドPETの保険適用により,今後認知症の早期診断に向けてPET検査の増加が予想されることから,島津製作所では,大学病院をはじめとして地域中核病院など複数台PETを必要とする施設をターゲットに販売を進めていくこととしている。
また,血液からアミロイドβ関連ペプチドを検出する技術も紹介した。国立長寿医療研究センターなどとの共同研究により開発された技術。ノーベル化学賞を受賞した島津製作所フェロー・田中耕一氏らが開発した質量分析技術を応用し,血中アミロイドペプチド測定システム「Amyloid MS CL AXIMA」を開発した。このシステムを用いて約0.5mLの血液からアミロイドβ関連ペプチドを測定。アミロイドβのバイオマーカー値を提示する。PET検査よりも低侵襲,低コストで施行できることからスクリーニングに最適な検査技術と言える。
島津製作所では,血中アミロイドペプチド測定によるスクリーニングとBresTomeでのアミロイドPETにより,アルツハイマー型認知症の早期発見に貢献するとしており,ブース内でもその技術をアピールしていた。
●AI:骨の健康のための検査・診断を支援する骨密度測定アプリケーション「SmartBMD AI Assist」や椎体計測ソフトウエア「Smart QM」を紹介
「シニアヘルスケア−骨の健康−」に対する診療現場のニーズに対して,島津製作所はAI技術で応えようとしている。ブースでは,骨密度を測定するSmartBMD AI Assistと椎体計測ソフトウエアのSmart QMのデモンストレーションを行った。
SmartBMD AI Assistは,X線TVシステム「SONIALVISION G4」のオプションとして提供される。腰椎または大腿骨近位部の骨密度測定をDXA法で行う際に,SONIALVISION G4は自動で骨領域のセグメンテーションを行う。骨密度が低い箇所でもディープラーニングにより骨領域を高精度に抽出することで,従来は手動で調整していた手間を削減し,検査時間を短縮できる。また検査者のスキルによるバラツキを抑える効果も期待できる。
一方,Smart QMは,椎体骨折を定量評価法であるquantitative measurement(QM)法での計測をAI技術で効率化する。東京慈恵会医科大学との共同研究により開発された。QM法は胸椎・腰椎のX線画像から,椎体の前縁高,中央高,後縁高の各2点,計6測定点を設定して計測。さらにそれぞれの計測値から中央高/前縁高,中央高/後縁高,前縁高/後縁高を算出して,椎体骨折の有無を判定する。従来,計測には時間を要し,またX線撮影時のポジショニングの影響を受けるという課題があった。そこで,Smart QMはAI技術により6か所の測定点を自動で初期設定。さらに,レポート作成機能もある。画像表示から計測,レポート作成まで3ステップで完了させることができ,効率的な測定を支援する。
超高齢社会の進展により骨粗鬆症の患者数も増加している。このような状況の中,効率的な検査・診断技術が求められており,SmartBMD AI AssistとSmart QMは,骨の健康を守る医療現場の医師,診療放射 線技師をサポートする技術だと言えよう。
●お問い合わせ先
社名:株式会社島津製作所
住所:京都市中京区西ノ京桑原町1
URL:https://www.med.shimadzu.co.jp/