書評:小松研一氏:学長の回顧録 在米40年,シカゴ大学名誉教授の波瀾万丈研究人生
2014-7-2
2014年4月3日発行
著者:土井 邦雄
(群馬県立県民健康科学大学学長 / シカゴ大学名誉教授)
書 評
一般社団法人日本画像医療システム工業会(JIRA)会長
東芝メディカルシステムズ株式会社 相談役
小松研一
本書を再度読み返してみたが,またしても内容に引き込まれ一気に読み終えてしまった。自らの研究心に率直に従い,国境を超えて活躍している研究者の半生を目の当たりにし,書評などおこがましいと痛感しています。
土井先生の体験に基づくエピソードを通して,豊富な人間ネットワークの形成や,論理的な思考の進め方に教えられます。
初めて土井先生にお会いしたのは1987年頃だったと記憶しています。当時私は,東芝医用機器技術研究所に所属していて,共同研究の可能性を話したのを覚えています。当時は超音波診断装置,CT,MRIなどの画像診断機器も,物珍しい画期的発明品の時代から,医療においてなくてはならない工業製品として進化を遂げてゆく頃であったと思います。画像の検出方式や処理技術などが次々とデジタル化され,コンピュータ処理され,迅速に臨床の場に提供されるという,現在では当たり前の姿に踏み出した頃でした。特に論争になったのは,「デジタル処理画像を,しかもモニター表示画像の読影診断で,診断能が低下するのではないか」という点でした。これに論理的な検討手段を与えたのが,カートロスマン研究所のROC解析を含む画質研究でありました。多くの研究開発者が進むべき方向性を示してもらったことでありましょう。
あるとき先生が浜松町東芝ビルにお越しになり,話したいことがあるとのことでした。昼食を取りながら「Computer Aided Diagnosis(CAD)」のアイディアを伺い,商品化しないかという趣旨だったと思います。ヒト(医師)の視覚・読影論理を基にした画像処理技術の研究は様々なされていました。しかし,CADの概念は,コンピュータが判断しやすい処理を繰り返し,異常点や異常範囲を抽出しやすくして結果表示をし,参考となる意見を医師に提供するというもので,医用画像処理技術の大きなパラダイムシフトを予感させるものでした。私は,先ず,論文を書く前に知的資産化すること,一社独占ではなく,多くの企業に資産を使って商品開発をしてもらうことが良いとお話ししました。我々もチームを組み,特許事務所にも相談し,コアとなる特許を共同で出願しました。最初にお会いして以来,約20年以上にわたり,共同研究はもとより,個人的にもお付き合いを続けていただけたことは誠にありがたく光栄に感じております。
皆さんに気楽に読んでほしい本ですが,特に若い研究者や学生の皆さんに空き時間を利用して読んでいただけると,心の中に一涼の風を吹かせてくれるのではないかと思います。さらに,土井先生ご本人にお会いし,その人となりに触れることをお勧めします。大学に押しかけるもよし,学会や講演会で聴講するもよし。きっと温かく受け入れて,会話をしてくださると思います。そして,懇親会のチャンスがあれば,盃を交わしながら,その声を聴き,力強い握手をし,同じ空間に居ることの楽しさを実感してください。きっと,土井先生のやさしく力強い語り口調が,皆さんがこれから立ち向かって行く先々で,勇気を与えてくれることと思います。
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