2020-12-25
帝京大学大学院医療技術学研究科診療放射線学専攻教授 古徳純一氏らの研究グループは,大阪大学キャンパスライフ健康支援センター特任教授 土岐博氏らとの共同研究(受託研究代表者:同センター長 守山敏樹)において,大阪府民60万人規模の健康診断データから自動的にデータ内に潜む因果関係を推定できる人工知能(以下,AI)を開発した。医療ビッグデータ解析において,今後のAI技術応用のキーとなる研究であり,生活習慣病など様々な疾患を防ぐための保健指導などへのエビデンスに基づいた活用が期待される。
この研究成果は米国東部時間2020年12月23日14時付(日本時間2020年12月24日4時付)で米国科学誌「PLOS ONE」に掲載された。
<研究の背景>
AI研究は現代社会において様々な分野で応用されているが,基本的に予測能力の高さを競うものがほとんどで,予測に用いられるモデルは必ずしも因果関係を反映しているものではなく,相関関係の記述にとどまっていることが大半。
データから因果関係を自動的に推定する方法は因果探索と呼ばれる。これまで様々な数理モデルが提案されてきたが,データの規模が小さいと因果関係の推定精度が悪くなるため,現実の医療データに適用した成功例はこれまで報告されていなかった。
今回,大阪府保険者協議会および大阪府国民健康保険団体連合会の協力により,大阪府民60万人規模の健康診断データ(個人を特定できないように加工済み)の提供を得ることができた。
そこで,本研究グループではこれまでにない規模の医療ビッグデータに因果探索のAI技術,特にDirect LiNGAMと呼ばれる数理モデルを用いることで,健康診断で取得されたデータ間の因果関係の自動的な構築を行った。
<研究の内容・成果>
帝京大学大学院医療技術学研究科診療放射線学専攻教授 古徳純一氏らの研究グループは,大阪大学キャンパスライフ健康支援センター特任教授 土岐博氏らとの共同研究において,医療ビッグデータから因果関係を自動的に推定構築するAIを開発し,健康診断データから因果ダイアグラムを構築したことで,生活習慣病因子の間の因果関係が明らかになった(図参照)。
図:健康診断データ項目の因果関係を表したダイアグラム
各項目同士が矢印で結ばれているところは,矢印の根元(原因)から先端(結果)に因果関係が推定されている。原因が1単位変化すると結果が何単位変化するかをカラーで示している(暖色は正の寄与,寒色は負の寄与)。
例えば,善玉コレステロール(HDL)の増加はBMI,中性脂肪,血糖値を改善する要因であることが顕著となった。BMIは血糖値や肝臓悪化の指標であるGPTに悪影響を持つことも明らかになり,さらに中性脂肪や血糖値の悪化は肝臓の悪化に大きく影響することも明らかになった。これらの結果から,生活習慣病の保健指導などにエビデンスに基づいて活用できる可能性が示された。
<研究の将来性>
本研究の成果により「勘や経験に頼っていた」保健指導において,AIに基づいた解析により保健指導による健康指標改善が具体性をもって「可視化」することが可能になる。これにより保健指導の実施がエビデンスに支えられ,指導を受ける側にも説得力をもって受け入れられ易くなるというメリットが期待される。
本研究成果は帝京大学医療技術学研究科診療放射線学専攻教授 古徳純一氏らと大阪大学キャンパスライフ健康支援センター特任教授 土岐博氏らとの共同研究によるもので,米国科学誌「PLOS ONE」に時間2020年12月23日14時付(日本時間2020年12月24日4時付)掲載された。
掲載誌名:PLOS ONE
論文題目:Causal relations of health indices inferred statistically using the DirectLiNGAM algorithm from big data of Osaka prefecture health checkups
論文著者:Jun'ichi Kotoku, Asuka Oyama, Kanako Kitazumi, Hiroshi Toki, Akihiro Haga, Ryohei Yamamoto, Maki Shinzawa, Miyae Yamakawa, Sakiko Fukui, Keiichi Yamamoto, Toshiki Moriyama
●問い合わせ先
学校法人帝京大学
https://www.teikyo-u.ac.jp/index.html