2020-1-24
オリンパス(株)は,福島県立医科大学と,3次元解析を用いた抗がん剤の薬効評価手法の確立を目指して,2020年1月から共同研究の第2フェーズを開始した。本研究では,オリンパスの持つイメージング技術,3次元細胞解析技術を駆使し,福島県立医科大学が所有する,さまざまな遺伝子変異を持った肺がん患者由来のオルガノイド※1に対して,画像を用いた抗がん剤のメカニズム解析や薬効評価を行っていく。
両者は,がん患者の遺伝子変異に基づいた最適な抗がん剤の開発および治療方針の選定法の確立を目指して,2018年10月より共同研究を開始した。その結果,肺がんオルガノイド内において,免疫細胞が分子標的薬※2を介して,がん細胞を攻撃する現象を定量評価することに成功し,2019年6月に論文※3発表を行っている。
共同研究の第2フェーズでは,これまでの共同研究で確立した3次元細胞解析ソフトウェア「NoviSight※4」による定量化手法を用いて,抗がん剤がさまざまな遺伝子変異を持つ肺がん患者由来のオルガノイドに及ぼす影響を評価する。これにより,がん遺伝子と投与した抗がん剤の関係性が明らかになり,抗がん剤の有効性を評価する手法の確立につながる。将来的には,患者ごとの治療方針の決定や,創薬スクリーニングへの応用が期待できる。
本研究を通じて,個人の遺伝子変異に応じた最適な治療の選定へ貢献するとともに,3次元細胞モデルのイメージング・解析技術を確立することで創薬プロセスを改善し,製薬企業の抱える創薬の開発リスク低減に貢献する。
※1 複数の細胞が凝縮して塊状になっている,試験管内で作られた組織様構造体。
※2 がん細胞に特異的に発現する分子や遺伝子をターゲットとして,がん細胞の分裂や増殖を抑制する抗がん剤の一種。
※3 著 福島県立医科大学 高橋信彦先生(https://www.mdpi.com/2073-4409/8/5/481#cite
)
※4 2018年9月より米国のみで販売。薬剤による細胞の生存比率の変化や形態への影響などの情報を定量的に評価可能。(https://www.olympus.co.jp/news/2018/nr00893.html
)
●共同研究の背景
がん医学において遺伝的研究が進んでおり,何百もの遺伝子が,がんの発病・進行に関係していることや,遺伝子発現パターンが個人によって異なることがわかっている。そのため,抗がん剤を汎用的に投与する治療法ではなく,数ある抗がん剤の中から個人に最適な治療薬を選択して投与するプレシジョン・メディスンの検討が進められている。
抗がん剤の開発では,扱いやすいという特長から株化がん細胞が薬効試験に広く用いられてきた。しかし株化細胞は長期間継代培養することでがん細胞が本来有する遺伝的特性が変化し,抗がん剤評価の正しさに影響を与えることが課題となっている。福島県立医科大学医療-産業トランスレーショナルリサーチセンターでは,がん患者から採取したがん組織をオルガノイド培養し,遺伝子変異情報と併せて提供している。患者由来がんオルガノイドは,がん組織の遺伝子変異を再現しており,長期間培養してもその変異が失われにくいため,生体内のがんに近いモデルとして,創薬メーカーから近年注目を集めている。
オリンパスは,細胞集塊の形状を維持したままオルガノイドを観察・解析して,薬剤による細胞の生存比率の変化や形態への影響などの情報を定量的に評価できる3次元細胞解析技術を搭載した「NoviSight」を開発した。両者はそれぞれの強みを生かし,2018年10月より共同研究を開始している。
●問い合わせ先
オリンパス(株)
http://www.olympus.co.jp