2019-11-5
日本電気(株)(注1,以下 NEC) は,北原病院グループ(医療法人社団KNI(注2,以下 KNI))協力のもと,患者の入院長期化の回避による早期の社会復帰と,リハビリテーション(以下,リハビリ)のスタッフの業務負荷軽減・医療サービスの質向上に向け,AI技術を活用したリハビリ計画作成の技術実証を北原リハビリテーション病院において行った。これにより,経験の浅いリハビリスタッフによるリハビリ計画作成業務の質を,経験年数5年以上でスキルの高いスタッフ(以下,ベテランスタッフ)と同程度まで向上すると共に,リハビリ計画作成に要していた業務時間を全体で約60%短縮することに成功した。
●背景
超少子高齢社会の進展に伴い,医療の財源不足や人材不足がより深刻となる中,限られた財源と人材で患者の増加と多様化するニーズに対応するためには,徹底した業務効率化と医療の質の向上が求められている。
KNIとNECは,これらの課題を解決するため2017年より共創を開始し(注3),「デジタルホスピタル」(注4)の実現に取り組んでいる。
早期の在宅復帰や介護予防は,医療の財源不足や人材不足の解決に直結するだけでなく,患者のQOL向上にもつながる。早期の在宅復帰と介護予防のためには,リハビリによる「より良い回復」,すなわち,短い期間で最大限に患者の機能の回復を促す取り組みが重要。
日本の回復期リハビリ病棟は,原因疾患が「脳血管系」の入院の場合,平均在院日数は約3ヶ月(注5)と言われているが,北原リハビリテーション病院では,入院時に綿密なリハビリ計画を立て,それを実行することにより,平均在院日数を約1カ月間まで縮めることに成功している。しかし,リハビリ計画作成はスタッフのスキルや経験値に依存するところが大きく,経験の浅いスタッフが作成したリハビリ計画をベテランスタッフが見直すことで計画の質を担保しており,ベテランスタッフの業務負荷が増大するという課題があった。
●今回の取り組みについて
リハビリ計画作成業務は,「患者の回復度の予測」「リハビリ目標の設定」「リハビリ介入プログラム作成」の3つのプロセスがある。今回の技術実証では,このうち,ベテランスタッフと経験の浅いスタッフにおいて,リハビリ作成時間の開きや作成した計画書の質への影響が大きい「患者の回復度の予測」と「リハビリ目標の設定」の2つのプロセスに着目し,KNIのベテランスタッフのドメインナレッジ(注6)を組み込んだNEC独自のAI技術を活用している。
1.リハビリの回復度を予測する技術
NEC独自のAI技術の適用により,入院3日目ごろまでの電子カルテデータから,退院までにどの程度まで回復するかを,KNIのベテランスタッフと同程度の精度で予測できた(注7)。これにより,経験の浅いスタッフでもベテランと同程度の精度での回復度予測が可能となり,患者1人あたり通常約10分かかっていた回復度予測の時間を大幅に短縮できるようになった。
2.リハビリの目標候補を表示する技術
北原リハビリテーション病院に蓄積されているリハビリ目標の事例データベースに,NEC独自のAI技術を適用することによって,入院3日目ごろまでの電子カルテデータから,患者の状態に合わせたリハビリの長期および短期目標の候補の表示を行いました。リハビリスタッフは,AI技術が表示したリハビリ目標の候補を参考に目標を設定できるため,従来は患者1人当たり約30分かかっていたリハビリ目標設定が,経験の浅いスタッフだけでもベテランスタッフと同程度の質のリハビリ目標設定を約10分で作成できるようになった。
今回の技術実証により,経験の浅いスタッフが作成したリハビリ計画をベテランスタッフが見直す従来の運用では患者一人当たり約50分要していたリハビリ計画作成業務を約20分で行うことができ,業務時間を約60%短縮できることを確認した(注8)。短い期間で最大限に回復を促すためのリハビリサービスの提供を効率化することが可能となり,限られた財源と人材で,高齢化によるリハビリニーズの増加に持続的に対応することが期待できる。
NECは,今後もAI技術をはじめとする先進ICTを活用した取り組みを通じて,医療におけるデジタルトランスフォーメーションを加速することで,新たな社会価値の「共創」に貢献していく。
KNIは超高齢社会とその先の未来においても,一般市民が安心・安全・快適な生活を送れるように,医療を起点とした社会改革を進めていく。
(注1)日本電気株式会社:本社:東京都港区,代表取締役 執行役員社長 兼 CEO:新野隆
(注2)医療法人社団KNI:所在地:東京都八王子市,理事長:北原茂実
(注3)『医療法人社団KNIとNEC,AIを活用した医療・社会改革に向けた共創を開始』
2017年10月23日プレスリリース
http://jpn.nec.com/press/201710/20171023_01.html
(注4)デジタルホスピタル:様々なセンサーやAI技術により自動化された病院の概念。AIによって適切な診断や治療の提供が支援されることにより,医療の質の向上と業務の効率化が可能となる。
(注5)「回復期リハビリテーション病棟の現状と課題に関する調査報告書」(平成30年2月一般社団法人 回復期リハビリテーション病棟協会 発行)より。
(注6)患者の回復度を予測する際のFIM(Functional Independence Measure,機能的自立評価)の項目間の関係性(例えば,排泄項目と移動項目に関係がある等)や,リハビリ目標設定における長期目標と短期目標の間にある関係性(例えば,セルフケア項目が回復すると排泄項目の評価があがる等)をドメインナレッジとして組み込んだ。
(注7)電子カルテ情報を使っての患者のFIMの回復度予測について,ベテランセラピストとAIの予測誤差を比較したところ,同程度であった。ただし,セラピストは電子カルテ情報に記載されていないより詳細な情報を使って精緻に予測しているため,今回の結果はあくまでも電子カルテ情報のみでの予測精度の比較となる。
(注8)従来:回復度予測:10分,リハビリ目標設定:30分(教育含む),リハビリ介入プログラム作成等:10分,計50分。
AI技術活用:回復度予測:ほぼ0分,リハビリ目標設定:10分,リハビリ介入プログラム作成等:10分,計20分。
※本紹介は技術実証の紹介であり,販売・授与はできない。
●問い合わせ先
NEC 医療ソリューション事業部
E-Mail:dh_press@med.jp.nec.com
医療法人社団KNI 広報部 亀田
TEL 042-645-1356
E-Mail:Yoshikazu_Kameda@kitaharahosp.com