2019-10-15
(株)日立製作所(以下,日立)は,AIを活用し,新規に開発する医薬品・医療機器の費用対効果評価の高度な解析を支援する「Hitachi Digital Solutions for Pharma/医療経済評価ソリューション」(以下,本ソリューション)を10月15日から提供開始する。本ソリューションは,2019年4月から国で制度化された「費用対効果評価制度*1」や,市場投入前の臨床試験フェーズでの製品開発戦略立案の大幅な効率化を実現するもので,従来は医療経済評価の専門家が医学論文や治験,診療情報などの膨大なデータを基に行っていた解析作業を,日立独自のAI技術を活用したビッグデータ分析を行うことで,高効率に費用対効果の算出根拠に必要なパラメータ*2の抽出や因子の探索が行える。日立は本ソリューションにより,医薬品・医療機器メーカーの事業拡大支援と患者のQoL向上に貢献する。
本ソリューションの開発にあたって,日立は,2018年に国内医薬品メーカーと共同で評価検証を行い,その有効性を確認した。また,医療経済評価の分析手順について医療経済学会理事である国際医療福祉大学医学部教授の池田俊也氏が監修した。
日立は,本ソリューションを,デジタルイノベーションを加速する「Lumada」の医薬業界向けソリューションとして国内の医薬品・医療機器メーカーに拡販するとともに,今後は医療経済評価も考慮した事業性評価を支援するソリューションの提供もめざしていく。
●背景
高額な医療技術の増加による医療保険財政への影響についての懸念などから,2016年度診療報酬改定において,医薬品・医療機器の評価について,「費用対効果評価制度」が試行的に導入され,2019年4月より本格実施されている。また,このような制度の変化に対応するため,今後臨床試験の早期フェーズから医療経済評価を考慮した製品開発戦略を立案することが重要になっていくと考えられる。そのため,医薬品・医療機器メーカーでは,医療経済評価の担当者が,(1)医学論文などからQoLに関する情報,さらには診療情報や費用を含むリアルワールドデータ*3など膨大な情報ソースから,当該薬・機器に関する「効果」と「総費用」に関連する適切なデータを収集し,(2)それらのデータを基に,標準的な診療パターン,パラメータの設定,コスト集計などを行って,生存年とQoLの関係指標QALY*4や総診療費用推計,新薬・新医療機器による増分コストと効用の関係指標ICER*5などを算出し,費用対効果の評価を実施する必要がある。しかし,これらの作業には医療経済評価に関する幅広い知識と経験が必要で,かつ膨大な時間と手間を要する。
日立は長年にわたり,医薬品・医療機器メーカー,医療機関向けに,ITシステムを提供してきた豊富な実績があり,最近ではAIを活用した協創に取り組んできた。そして今回,こうした経験・ノウハウを生かし,AIをはじめとした先進のデジタル技術を用いて,医薬品・医療機器の医療経済評価の手法を整備し,分析手順の作成と,解析業務の効率化およびシミュレーションの高度化の支援する「Hitachi Digital Solutions for Pharma/医療経済評価ソリューション」の提供を開始する。
●本ソリューションの概要・特長
本ソリューションでは,まず,医薬品・医療機器メーカーの顧客とともに,対象薬・機器の分析に用いるモデル選定や比較対象技術の論文調査を行う。そして,以下の費用対効果分析と層別化因子解析を行い,レポートとして顧客に提供する。
(1) AIを活用し,膨大なデータから費用対効果の算出根拠に必要なパラメータ抽出の効率化を実現
新しい医薬品や医療機器の費用対効果を評価する際,その算出根拠として,患者の各病態に対応するQoLと生存年の関係性や,病態の遷移確率などの多岐にわたるデータを,膨大な医学論文から収集し,費用対効果評価モデルを作成する必要がある。また,治療に要するコスト分析を行う際,評価対象の医薬品・医療機器に類似する薬・医療機器を使用した患者群が過去に実施した標準的な診療行為や,有害事象発生時の処置内容などの膨大な診療情報を収集し,評価対象の医薬品・医療機器に関わる診療パターンとそのコストを集計する必要がある。本ソリューションでは,日立のAI技術であるテキスト構造化技術*6や診療プロセス解析技術*7を用いることで,膨大なデータから費用対効果評価の算出根拠に必要なパラメータを抽出する作業を,解析者の経験に依存することなく,効率よく実施することが可能である。
(2) AIを活用した層別化因子の探索が可能で,製品開発戦略立案におけるシミュレーション業務を効率化・高度化
医薬品・医療機器の製品開発戦略立案にあたっては,対象薬・機器を有効性や安全性などの観点でグルーピングして,医療経済評価を踏まえた事業性評価のシミュレーションを行う必要がある。これまでは,専門知識を有する研究者によるシミュレーションを行っていたが,本ソリューションでは,AIを使った層別化因子解析技術*8を用いることで,奏効/非奏効や有害事象の発生率などに影響をあたえる因子の探索が可能となり,これまで熟練者に依存していた製品開発戦略立案業務の効率化と高度化が図れる。
「Hitachi Digital Solutions for Pharma」について
「Hitachi Digital Solutions for Pharma」は,医学論文などのオープンなデータや診療情報などのリアルワールドデータなどの医薬品業界に関するさまざまなデータを収集・蓄積・分析し,医薬品バリューチェーンにおけるイノベーションを支援するLumadaのサービス群。本サービス以外にも,治験情報提供サービス,バイオマーカー探索サービスなどを提供しており,今後もサービスメニューの拡充・提供を行っていく。
*1 費用対効果評価制度:医薬品や医療機器の費用対効果を評価し,それに基づいて保険償還の価格調整を行なう制度(医政発0329第43号「医薬品,医療機器及び再生医療等製品の費用対効果評価に関する取扱いについて」,厚生労働省「平成28年度診療報酬改定説明会(平成28年3月4日開催)資料」)
*2 パラメータ:ICERを計算するための,病態遷移モデルの遷移確率,各病態でのQoL・コストなどのデータ
*3 リアルワールドデータ:臨床現場から得られるデータ(レセプト診療報酬請求),DPC(入院時医療の包括払い制度),電子カルテ,健診等
*4 QALY:Quality Adjusted Life Years(質調整生存年)。評価する医療技術により,患者の生存年数とQOLがどれだけ向上するかの指標
*5 ICER:Incremental Cost-Effectiveness Ratio (増分費用対効果比)。QALY1単位を得るために必要なコスト
*6 テキスト構造化技術:医薬分野で特有の複雑な単語同士の関係を抽出し,知識化する技術
*7 診療プロセス解析技術:診療プロセスにおける診療行為を,辞書等を基に意味づけし,グラフ化する技術
*8 層別化因子解析技術:人による作業では作業量が膨大となるような多数の候補因子がある場合(因子数500~)でも,AIにより迅速に奏功群や有害事象の発生率などに影響をあたえる因子の探索を可能にする技術
●本ソリューションの内容
●問い合わせ先
(株)日立製作所 産業・流通ビジネスユニット
製造業・流通業向けソリューション 問い合わせフォームへ
http://www.hitachi.co.jp/products/it/industry/contact_us/