2017-6-28
(株)富士通研究所(注1)は,富士通研究開発中心有限公司(注2)と共同で,CT検査において,過去に撮影されたCT画像のデータベースの中から,異常陰影の立体的な広がり方が類似する症例を検索する技術を開発した。
従来,初期の肺がんなどのように異常陰影が1か所に集中している場合に,CT画像をもとに類似症例を検索する技術があったが,肺炎などのびまん性肺疾患のように,臓器全体に異常陰影が立体的に広がる場合には,立体的な類似性を医師が改めて確認していく必要があり,判断に時間がかかっていた。
今回,医師が類似性を判断する際に,臓器内を末梢・中枢・上下左右といった立体的な領域に分けて,各領域における異常陰影の広がり方を見ていることに着目し,医師と同様な見方ができるよう,境界が複雑な臓器内の領域を画像解析で自動分割し,各領域内の異常陰影をAIを活用して認識することで,立体的な広がり方が似た症例を高精度に検索する技術を開発した。国立大学法人広島大学大学院医歯薬保健学研究科放射線診断学研究室の粟井和夫教授との共同研究において,実データを用いて本技術を評価した結果,医師があらかじめ定めた正解が検索結果の上位5件に含まれる割合について,本技術では85%の正解率で検索できた。これにより,医師の診療業務の効率化が期待でき,医師が判断に時間がかかっていた症例に対し,医師が症例を判断する診断時間の短縮が可能となる。
今後,様々な症例のCT画像を用いた実証実験を重ね,富士通(株)の関連ソリューションへの実装を目指し,医療現場の業務効率化に貢献していく。
●開発の背景
CTを用いて疾患を検査する画像検査では,撮影装置の高度化によって検査対象の画像枚数が増加しているため,医師の業務負荷がますます増大している。中でも,異常陰影が肺の全体に広がる,びまん性肺疾患と呼ばれる疾患群は胸部CTの検査数のかなりの割合を占め,間質性肺炎や肺気腫など多くの疾患を含むことから,CT画像の読影診断には豊富な知識や経験が必要で時間もかかることが課題となっている。そこで,読影診断の効率化のために,医師の判断の参考となる病名や治療情報のある過去の類似症例を検索する技術が求められている。
●課題
従来,初期の肺がんなどのように異常陰影が一か所に集中している場合に,医師がある断面画像上で注目する領域を指定し,その領域に類似する他の患者の断面画像を検索する技術があった。しかし,臓器全体に異常陰影が立体的に広がるびまん性肺疾患の場合には,この方法によって検索した場合,ある断面画像は似ていても,立体的に見ると似ているとは限らないため,立体的な類似性を医師が改めて確認していく必要があり判断に時間がかかっていた。(図1)
●開発した技術
今回,医師が類似性を判断する際に,臓器内を末梢・中枢・上下左右といった立体的な領域に分けて,各領域の異常陰影の広がり方を見ていることに着目した。そこで,医師と同様な見方ができるよう,境界が視覚的にわかりにくい臓器内の領域を画像解析で自動分割し,各領域内の異常陰影候補をAIを活用して認識することで,立体的な広がり方が似たCT画像を高精度に検索する技術を開発。このうち,異常陰影候補の認識は富士通研究開発中心有限公司と共同で開発した。
本技術では,まず,CT画像から異常陰影候補を機械学習によって認識する(図3(a))。次に,CT画像において比較的明瞭な部分から中枢と末梢の境界面を順次推定することにより,肺を中枢および末梢の領域に分割する(図3(b))。
次に,上下方向の体軸に沿って,中枢および末梢の領域に存在するそれぞれの異常陰影候補の個数をヒストグラム化して(図3(c)),異常陰影の立体的な広がりの特徴を見ることにより,類似する症例を検索する。
●効果
国立大学法人広島大学大学院医歯薬保健学研究科放射線診断学研究室の粟井和夫教授との共同研究において,びまん性肺疾患のCT画像を用いて評価実験を行った結果,検索結果の上位5件に医師が定めた正解が含まれる割合において,約85%の正解率で類似症例を検索できた。本技術により,従来は手作業で文献などから似た症例を探していた医師の診療業務の効率化が期待でき,医師が判断に時間がかかっていた症例に対し,医師が症例を判断する診断時間を最大約6分の1に短縮できる可能性がある。
●今後
本技術は,CTによるびまん性肺疾患の診断のみならず,頭部CT・腹部CT,さらにはMRIや超音波などの他の画像診断にも応用が可能と考えられる。富士通研究所は,様々な症例のCT画像による実証実験を重ね,富士通(株)の関連ソリューションへの実装を目指し,医療現場の業務効率化に貢献していく。
●国立大学法人広島大学大学院医歯薬保健学研究科放射線診断学研究室の粟井和夫教授のコメント
今回,異常陰影の性状と立体的な分布が類似するCT画像の検索について可能性を示すことができたことは,医学的にも評価できます。今後,診断や治療が難しい症例において,類似するCT画像を検索することにより臨床的に有用な情報を医師に提示できる可能性があり,診療業務の効率化・精度の向上などが期待できます。また,近い将来,形態が類似した画像をグループ化して,それらのグループ内で共通の遺伝子異常がないかを調べることにより新しい疾患概念の提唱や,多数の臨床応用の可能性があり,今後,大いに期待される技術です。
注1 株式会社富士通研究所:
本社 神奈川県川崎市,代表取締役社長 佐々木繁。
注2 富士通研究開発中心有限公司:
本社 北京市,董事長 佐々木繁。
●問い合わせ先
(株)富士通研究所
ソフトウェア研究所
TEL 044-754-2577(直通)
メール:mir_press@ml.labs.fujitsu.com
http://www.fujitsu.com/jp/group/labs/