2016-6-14
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(以下「量研機構」)量子ビーム科学研究部門高崎量子応用研究所の石岡典子上席研究員・大島康宏主任研究員・渡辺茂樹主幹研究員,量研機構放射線医学総合研究所の東達也部長・脇厚生室長・吉永恵一郎チームリーダー・辻厚至チームリーダー・永津弘太郎サブチームリーダーらは共同で,悪性褐色細胞腫を標的とした治療薬剤211At-MABG(メタアスタトベンジルグアニジン)の製造に成功し,これがマウスに移植した褐色細胞腫に対して高集積し,さらに腫瘍を大幅に縮小できることを世界で初めて明らかにした。
褐色細胞腫は主に副腎に発生する腫瘍で,悪性の場合,遠隔転移が認められるため外科手術による根治は難しく,従来β線を放出するヨウ素-131(131I)を使用した131I-MIBG(メタヨードベンジルグアニジン)による治療が行われているが,その治療効果は限定的である。
β線よりも,飛程が短く生物効果が高いα線が利用できるようになれば,強力に細胞内のDNAを破壊し,正常組織に対する放射線の影響も最小限に抑えられることから,現在よりも腫瘍だけを集中的に攻撃する効果の高い治療が期待できる。そこで,本研究チームは,α線を放出し,ヨウ素と似た化学特性を有する211At(半減期:7.2時間)に着目してα線がん治療薬剤を作り出す研究を進め,今回,211At-MABGの製造に成功した。この211At-MABGを,褐色細胞腫を移植したマウスに1回投与した結果,腫瘍に集積してその増殖を抑制するだけでなく,投与7日後までに腫瘍を約半分に縮小することができた。一方,副作用の指標である体重に影響は認められなかった。これらの研究成果から211At-MABGが悪性褐色細胞腫の効果的な治療薬となることが大いに期待される。
本研究成果は,これまで別々の研究機関(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構と国立研究開発法人放射線医学総合研究所)に属していた研究チームが,機関統合を契機に,基礎から臨床研究までを切れ目なく見据えた効率的な研究体制を構築し,それぞれが有していた放射性同位体製造技術と薬剤合成技術を融合させることにより,初めて実現したもの。今後は安全性について,さらに詳細な検討を進める。本研究成果は2016年6月15日(日本時間6:45)に開催される米国核医学会において口頭発表される。
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