2013-10-2
経カテーテル生体弁
「サピエンXT」
エドワーズライフサイエンス(株)(以下エドワーズ)は,10月1日より,日本で初めての経カテーテル大動脈弁治療(以下TAVI)用生体弁「サピエンXT」の医療機関への発売を開始する。所定の施設基準を充たし,必要なトレーニングを修了した各医療機関より,順次TAVIの治療体制が整えられる見通しである。
●心臓内部の弁を,開胸せず,心臓を止めずに,カテーテルを通じて治療
経カテーテル生体弁「サピエンXT」を使用して行うTAVIは,重症の大動脈弁狭窄症※1に対する,全く新しい治療法。大動脈弁狭窄症は薬では根治できないため,主に手術で胸を開き(=開胸),人工心肺を用いて心臓を止め,機能しなくなった患者さんの大動脈弁を露出させて切り取り,代わりとなる人工弁を縫いつけて治療する。
一方,TAVIでは開胸はせず,「サピエンXT」を折りたたんでバルーンのついたカテーテル(デリバリーシステム)に装着し,心臓は拍動した状態のまま,患者さんの太もも付け根の血管等を通じて心臓の中まで運ぶ。そして大動脈弁の位置でバルーンと一緒に「サピエンXT」を開き,留置する,という全く新しい方法で治療する。そのため患者さんの体への負担がより少ない状態での治療が可能である。
TAVIはその革新性から,2011年に米国ウォールストリートジャーナルにおいて,「WSJが選ぶ2011年の7つの発明」のひとつに選ばれた。
●対症療法しか選択肢がなかった重症の患者さんに,新しい治療の可能性を拓く
開胸による大動脈弁置換術には長い歴史と安定した治療実績があり,現在では大動脈弁狭窄症治療のゴールドスタンダードとして全世界で施行されている。
一方で,高齢や心臓以外の疾患などの理由により,心臓を止めて行う開胸手術には耐えられない患者さんは,これまで大動脈弁狭窄症の根治は望めず,薬で症状の進行を抑える対症療法しか選択肢がなかった。さらに大動脈弁狭窄症は,症状が出てからの2年間で約半数の患者さんが亡くなる※ともいわれている。
そのような患者さんにとって,開胸することなく,カテーテルで弁を留置するTAVIは,治療の可能性を拓き,元気な日常生活を取り戻すための,新しい選択肢となる。
※ Bach DS. Prevalence and characteristics of unoperated patients with severe aortic stenosis. J Heart Valve Dis 2011; 20:284-91.
●TAVI用生体弁の最新モデルが,米国よりも早く日本で導入
TAVIは欧州では2007年から,米国では2011年から臨床に導入され,世界で約50,000人以上がエドワーズ製品にてこの治療を受けてきた。今回日本で発売される経カテーテル生体弁「サピエンXT」は,欧州では2010年に臨床に導入されたが,米国では未だ治験中であり,現在もひとつ前の世代の生体弁が使用されている。米国よりも一足先に日本に導入される「サピエンXT」は,現在世界で臨床使用されている最新モデルで,前世代モデルよりも細く折りたたむことができるため,より細い血管の患者さんを治療できるなど,小柄な方が多い日本の患者さんに適したモデルである。
また迅速な製造販売承認の取得が評価され,日本で5例目となる迅速導入評価※2の対象となり,今後2年間は保険償還価格に迅速導入評価額を含む価格で販売される。
●TAVIの仕組み
・バルーンで生体弁を拡張
TAVIには経大腿(TF),経心尖(TA)の2種類のアプローチ法がある。いずれも,「サピエンXT」生体弁を専用のデリバリーシステムに折りたたんで装着し,その状態で大動脈弁の位置まで運び,バルーンと一緒に「サピエンXT」を開いて留置する。
・経大腿(TF)アプローチ
患者さんの太ももの付け根の血管から,デリバリーシステムに装着した「サピエンXT」生体弁を挿入する。血管を通じて生体弁を心臓の位置まで運び,機能しなくなった患者さんの大動脈弁の中から押し広げるように,バルーンで開いて留置する。
TFアプローチ動画URL http://www.edwards.com/jp/thvTFmovie
・経心尖(TA)アプローチ
患者さんの肋骨の間を小さく切開し,そこから心臓の先端部(心尖部)を露出して,デリバリーシステムに装着した「サピエンXT」生体弁を挿入する。生体弁を大動脈弁の位置まで運び,機能しなくなった患者さんの大動脈弁の中から押し広げるように,バルーンで開いて留置する。
TAアプローチ動画URL http://www.edwards.com/jp/thvTAmovie
●治療後のQOL(生活の質)を高め,日常生活を楽しめる患者さんを増やす
同社代表取締役社長で,自身も麻酔科の医師であるケイミン・ワング氏は「大動脈弁狭窄症は重症になると,会話も困難なほどのひどい息切れや,少しの移動も辛くなるほどの極度の疲労感などで,日常生活に支障をきたすようになります。しかし手術不能な患者さんは,これまではその状態を我慢し続けるしかありませんでした。その上,大動脈弁狭窄症は進行性であるため,手術をしないままだと,日を追うごとに症状が悪化し,最終的には死に至る確率が非常に高い病気でした。この度,日本にTAVIが導入されることで,そのような患者さんがひとりでも多く治療を受けて,かつての日常生活を取り戻し,元気に毎日を楽しめるようになることを,心から願っています。」と述べている。
●製品特徴
- 折りたたんだ「サピエン XT」をバルーンで拡張する(広げる)ことで,真円に近い形状で留置が可能。そのため弁尖の開閉がよりスムーズに行える。
- 「サピエン XT」は,患者さんの機能しなくなった大動脈弁上で,医師により,折りたたまれた状態からバルーンで拡張される。そのため,医師は自らの意図した位置に生体弁の留置が可能である。
- 弁尖はセミクローズドデザイン(弁がフレームに対して平行ではなく,少し閉じた状態のデザイン)のため,「サピエン XT」を留置後に,患者さんの自己弁が「サピエン XT」の弁尖に干渉するリスクが低減されている。
- 「サピエン XT」に使用されているコバルトクロム合金製のフレームは金属強度が高く,ステンレス製フレームを使用した前世代の製品よりも,より細く折りたたむことが可能。そのため小柄なかたが多い日本人により適したモデルである。
- 「サ ピエン XT」は,弁の高さが,大動脈弁周囲の解剖学的な構造を考慮してデザインされている。そのため患者さんの心臓内部に留置後,そばにある冠動脈への入り口を 「サピエン XT」が塞いでしまうリスクが低減されている。そのほか,大動脈弁のそばに位置する僧帽弁の機能を阻害するリスクの低減や,房室ブロック(心臓の拍動リズ ムをコントロールする刺激伝導系に異常をきたすこと)の原因となる,弁周辺部への影響も,低減させることができる。
- 「サピエン XT」は,開胸による大動脈弁置換術において,ゴールドスタンダードとして長年に渡り全世界で用いられている,エドワーズの外科用牛心のう膜生体弁のデザインを踏襲している。
販売名:サピエンXT (サイズ:23mm,26mm/承認番号:22500BZX00270)
素材:(弁尖)牛心のう膜,(フレーム)コバルトクロム合金
保険償還価格453万円 (迅速導入評価額を除いた償還価格は431万円)
専用デリバリーシステム他とのキット単位での提供
アプローチは経大腿(TF)と経心尖(TA)の2種
※1:大動脈弁狭窄症
心臓弁膜症のひとつで,心臓内の4つの弁のうち,大動脈弁に動脈硬化のような変化が起きて硬くなり,十分に開かなくなる病気で,重症になると胸痛や失神,安静時でも息切れがするなどの症状が現れ,突然死に至る場合もある。薬による内科的な治療では根治しないため,重症になると外科的な治療が必要。日本における大動脈弁狭窄症を含む心臓弁膜症の潜在患者数は,推定200~300万人 a)といわれ,海外では75歳以上の12%はなんらかの弁膜症を持っているb),とした研究結果も発表されている。
心臓弁膜症について紹介している「弁膜症サイト」(http://www.benmakusho.jp/
)では,心臓弁膜症の原因や治療法,手術を乗り越えた患者さんのインタビューなどを閲覧できる。
※2:迅速導入評価米国で未承認であり,日本における一定の薬事審査期間の基準を満たしており,加算要件を満たす有用性の高い新規医療機器の場合に,迅速な製造販売承認取得による加算が認められること。保険収載から2年間適用。
a) Nkomo et al. Burden of valvular heart diseases: a population-based study. The Lancet, Vol. 368 No. 9540 pp 1005-1011の有病率の値をもとに推計。
b) Nkomo et al. Burden of valvular heart diseases: a population-based study. The Lancet, Vol. 368 No. 9540 pp 1005-1011
●問い合わせ先
エドワーズライフサイエンス(株)
TEL 03-6894-0500
http://www.edwards.com/jp/