2023-11-20
ヘルステックの成長は重要なテーマ
新たな製品・サービスの登場がこれからの医療に大きな役割を果たす
生産性向上によって働き方改革が進み医療機関の経営改善にも寄与する
田村 憲久 氏
衆議院議員,自由民主党政務調査会長代行,元・厚生労働大臣,医療・ヘルスケア産業の新時代を創る議員の会(ヘルステック推進議連)会長
医療デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進には,技術の発展も重要である。医療・ヘルスケア産業の新時代を創る議員の会(ヘルステック推進議連)では,ヘルステック産業の成長のための政策提言を行っている。医療現場にヘルステックの製品・サービスを取り入れていくことで,生産性向上といった課題も解決すると考えられ,これからの医療に大きな役割を果たしていくと期待している。
国を挙げて医療DXに取り組むことが求められている
日本の医療は,いくつかの大きな課題を抱えています。その一つが,医療機関の厳しい経営環境です。診療報酬の伸びがほぼ横ばいの状況の中で,新型コロナウイルス感染症の流行により,多くの医療機関で財務状況が悪化しています。このため,医療従事者の賃金の上昇も進んでおらず,ほかの産業へ人材が流出しており,人材不足に拍車がかかっています。今後,生産年齢人口が急激に減少していくことから,医療分野でも人材不足がさらに深刻化することが予想されます。これを踏まえると,医療機関には経営の効率化が求められています。
自由民主党の政務調査会,社会保障制度調査会とデジタル社会推進本部が設置した健康・医療情報システム推進合同プロジェクトチーム(PT)では,2022年5月に「医療DX令和ビジョン2030」を提言しました。この提言では,「全国医療情報プラットフォームの創設」「電子カルテ情報の標準化」「診療報酬改定DX」の3つの取り組みを同時に進め,医療分野の情報のあり方を根本から解決することを提言しています。これを受けて,2022年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022 新しい資本主義へ~課題解決を成長のエンジンに変え,持続可能な経済を実現~(骨太方針2022)」には,これら3つの取り組みが盛り込まれ,その後,岸田文雄内閣総理大臣を本部長とする医療DX推進本部が設置されました。現在,全国医療情報プラットフォームの創設,電子カルテ情報の標準化等,診療報酬改定DXに向けた検討,施策が行われています。
医療DXを進める上では,全国医療情報プラットフォームと電子カルテの標準化によって得られるデータを患者の診療に役立てることはもちろん,医療行政のための有効利用や,医薬品・医療機器の開発に活用できるようにすることが求められます。さらに,人材不足が解消され,医療機関の経営が効率化されなければなりません。医療DXの実現には,患者や医療関係者だけでなく,多くのステークホルダーがかかわるので,国を挙げて取り組むことが大切です。健康・医療情報システム推進合同PTではこれを踏まえ,2023年の4月にも「『医療DX令和ビジョン2030』の実現に向けて」という提言を策定し,国民が最適な医療を受けられるように,岸田総理に申し入れました。
産業としてヘルステックが成長していくことが重要
医療DXの実現には,それを支えるデジタル技術の普及がカギを握っています。自由民主党では,2021年12月に医療・ヘルスケア産業の新時代を創る議員の会(ヘルステック推進議連)を設立しました。現在,私が会長を務めており,ヘルステック産業にかかわる勉強会を開催し,それを基に政策提言を行っています。勉強会は,オンライン診療やPHRなどをテーマとしています。オンライン診療は安全性や信頼性を確保して進めていくことが重要だと考えており,またPHRについては標準化やデータの利活用の必要性を認識し,政府にもこれらを踏まえた施策を要望しています。さらに,AIなどのプログラム医療機器(SaMD)も,承認手続きを容易かつスピーディに行えるように働きかけています。これについては,厚生労働省と経済産業省が2023年9月に「プログラム医療機器実用化促進パッケージ戦略2(DASH for SaMD 2)」を公表し,実用化促進と国際展開の推進に向けて対応していくこととなりました。
SaMDをはじめ日本のヘルステック産業は伸び代が大きいと考えています。今後,日本の人口が減少していくことを踏まえると,ヘルステック産業は世界を視野に入れて展開していくことが,産業の観点からは重要です。DASH for SaMD 2でも国際展開の支援が盛り込まれていますが,政府にはさらに環境整備を進めてほしいと思います。
また,産業の観点としては,健康増進や予防の分野での展開も大事です。医療機器としては財政面での制約がありますが,医療保険外ならば展開も容易です。近年は国民の健康志向が高まっており,ITリテラシーも向上していることから,ヘルステックの製品・サービスの普及が期待されます。これにより,国民の健康増進と産業の成長という“Win-Win”の関係が築けるはずです。
ヘルステックはこれからの医療に大きな役割を果たす
ヘルステックの成長には,政府が制度や環境を整備していくことが大切です。特にAIの開発は大量のデータが必要となることから,国民の理解を得た上で,全国医療情報プラットフォームや電子カルテの標準化によって得られるデータを活用できるようにすべきです。
そのためにも,医療機関には,全国医療情報プラットフォームや電子カルテの標準化に積極的に取り組んでいただきたいと思います。プラットフォームの整備や標準化が進めば,医療機関にとっては電子カルテの選択肢が広がり,企業側には競争が生まれ,いっそう医療DXが進んでいくはずです。その中で,ヘルステックの製品・サービスを用いて,医療者の業務を効率化できれば,生産性の向上が図れ,働き方改革が進み,医療機関の経営も改善されるでしょう。ヘルステックは,これからの医療に大きな役割を果たしていくと期待しています。
(取材日:2023年10月20日)
(たむら のりひさ)
衆議院議員(9期)。現在,自由民主党政務調査会長代行を務める。厚生労働大臣(2回),働き方改革担当大臣などを歴任。自由民主党の健康・医療情報システム推進合同プロジェクトチームにおいて医療DX推進の提言を行うほか,医療・ヘルスケア産業の新時代を創る議員の会(ヘルステック推進議連)会長として,ヘルステック産業の振興に取り組む。