2023-9-25
インナービジョンでは,2023年8月10日(木),Webセミナー「第8回 医療革新セミナー」を開催した。今回は『ITvision』No.48とのコラボ企画として,働き方改革,地域医療連携,ChatGPTをテーマに3題のご報告をいただいた。画像診断支援AIソリューションについての企業プレゼンテーションと併せ,講演の内容を抜粋して紹介する。
講演1
「iPhone」で働き方改革
〜病院でのスマートフォン活用〜
佐伯 潤 先生(社会医療法人石川記念会 HITO病院 DX推進室 CTO)
iPhoneによる業務効率化
当院では,業務効率化のために限定的に導入していた業務用チャットを順次拡大し,看護師にも1人1台のiPhoneを導入したところ爆発的に活用が進んだ。iPhoneは,電話やチャット,Webサイト閲覧やWeb会議などを直感的な操作で行えることに加え,カメラ・マイク・各種センサによる入力が可能である。これらの活用により,場所や時間に縛られない情報共有が可能になり,職種を越えた1対多のコミュニケーションが可能になった。
グループチャットの導入
病棟においては,電子カルテは端末が共用で,コミュニケーション機能に乏しいことが業務効率化の妨げとなっていた。そこで当院では,iPhoneで使用できるモバイルカルテを導入し,ベンダーと共にバージョンアップを図り,多職種で使えるグループチャット機能を実装した。チャットは,申し送りや医師への指示確認,入退院支援,多職種連携などに活用しており,自分のタイミングで連絡でき,相手は隙間時間に対応できるため,職種間の対話が増加した。ほかにも,1対1の電話とは異なり情報やノウハウが共有されるようになった,緊急ではない指示確認も手の空いた医師が返信できることでリードタイムが短縮したなどのメリットを得られている。多忙な医師への連絡や確認は現場のストレスとなっていたが,これもチャットコミュニケーションにより軽減された。
多職種協働型セルケアシステム
iPhone,モバイルカルテ,グループチャットがそろった上で取り組んだのが,病棟を3つのセルに分けて看護師・セラピスト・看護補助をチームとして各セルに配置し,医師や専門チームからチャットでサポートを受ける多職種協働型セルケアシステムである。夕方に病棟管理者が各セルの残務を確認しスタッフを差配することで,定時退勤を実現している。また,看護師の1日の移動距離が半分以下となり,申し送りの効率化などと合わせて1人あたり1日100分の時間を創出,看護師の時間外労働を年間で約6000時間削減し,空いた時間を看護の質の向上に充てられるようになった。
コミュニケーションの変革により,多職種協働の推進,心理的安全性の向上,提案型の主体的チーム医療を実現することができた。人を探す・待つ,気遣いながらの連絡・報告といった業務上の当たり前が,チャット活用により当たり前ではなくなっている。「変化を起こすのではなく,変化が生まれるように導く」ことが,われわれDX推進室の役割と考えている。
講演2
湖南メディカル・コンソーシアムにおけるICTを活用した地域医療連携について
䕃山裕之 先生(地域医療連携推進法人湖南メディカル・コンソーシアム 理事,社会医療法人誠光会 法人本部 副本部長)
地域完結型医療の実現をめざして
誠光会では,ケアミックス病院であった草津総合病院を,急性期の淡海医療センターと在宅療養支援機能の淡海ふれあい病院に機能分化した。そして,地域の施設と連携して地域完結型医療を実現するため,当コンソーシアムを設立した。コンソーシアムには介護施設も含めた32法人109施設が参画し,医療従事者の相互派遣や共同研修,県の共同利用カルテの活用支援,共同購入など,地域医療資源の最大活用と参加法人の事業継続性を担保するための活動を展開している。活動のすべてを見える化するために取り組んでいるのがICTを活用した「コマンドセンター」(GEヘルスケア・ジャパン)である。
コマンドセンターを用いたPFMの最適化
コマンドセンター導入の最大のねらいは,法人を越えた転退院の効率化である。「患者の顧客価値の向上」「職員の業務効率の向上」「経営効率の向上」をコンセプトに,院内業務や地域連携を円滑に行うためのさまざまなツール開発に取り組んでいる。各施設では必要に応じた情報をモニタに常時表示するほか,誠光会では電子カルテ端末からすべての情報を確認することができる。コマンドセンターは全員が同じ情報を見て現場で考えて動くことで組織の力を高めることを意図しており,実際に淡海医療センターでは,ベッドコントロールをする看護師長を置かずに業務を遂行できるようになっている。
コマンドセンターのツールと効果
病棟業務を支援するツールの一つである「Capacity Snapshot」は,10分ごとに病床稼働状況が更新され,最新情報を基にしたベッドコントロールを可能にする。また,「Staffing Forecast」は病棟ごとのスタッフの総力量点数と業務量から忙しさを定量化でき,スコアを見て病棟間で看護師を融通し合うなど,自発的な横の連携が生まれている。ほかにも,地域連携において入退院をマッチングするツールなど,多様な機能を備えている。
これらを活用することで,病床稼働率の向上,DPC3期超えの患者数の減少,入院単価の向上などの効果が出ている。現在,構想した機能の約1/3が稼働を開始しており,患者向けアプリなども含め開発を進めていく。
コンソーシアムでは,コマンドセンターを活用して地域全体のヒト・モノ・カネ・情報を最大活用することをめざしている。デジタルで得られた情報を基に,アジャイルかつ組織横断的な活動を定着させ,一人一人が必要に応じて意思決定できるティール組織へと発展させていきたい。
講演3
臨床医における「ChatGPT」活用の実際
—「ChatGPT」が新着論文を要約し毎朝メールしてくれる仕組みができるまで
内田直樹 先生(医療法人すずらん会 たろうクリニック 院長)
取り組みの背景と経緯
私は在宅医療を中心とするクリニックで院長を務め,認知症や在宅医療に関連した活動に取り組んでいる。また,医療者向けのプロトタイピングスクール「ものづくり医療センター」に参加してプログラミングを学び,医療現場で役立つアプリの開発などを行ってきた。2022年からはテクノロジーで認知症フレンドリーなまちづくりを推進する認知症フレンドリーテックというコミュニティを立ち上げて,アイデアソンやハッカソンなどを開催している。
「ChatGPT」(OpenAI)には公開当初から関心を持っていたが,ChatGPTハッカソンに参加した際に,その特性から「主要な医学ジャーナルから認知症に関する新着論文を検索・翻訳・要約してメール送信する」という使い方ができると考えた。その仕組みを構築したいとSNSでツイートしたところ,翌日にフォロワーの大西氏(@niniziv)から「作ってみた」との返信があった。大西氏とやりとりをし,コードの安全性を確認した上で,仕組みの作り方をスライドにまとめて医師向けのスライド共有サービス「Antaa Slide」に公開
したところ,大きな反響を得た。
仕組みの作り方
このChatGPTを使った新着論文要約・メール送信の仕組みは,大西氏のツイートどおりに作れば10分程度で作れるが,Google Apps Script(GAS)の使用経験がないとハードルが高いため,流れとポイントを解説する(詳細はアーカイブを参照)。
(1) ChatGPT APIを利用するためには,ChatGPTにアカウント登録し,OpenAIのAPI keyを取得する。API keyとは,ソフトウエアが外部とやりとりをする窓口のことで,API keyにより個別認証されAPIを利用可能になる。なお,API keyはインターネット上に公開してはならない。ChatGPT APIの利用は有料であるが,今回作成した仕組みでは0.5ドル/月程度と安価である。(2) 大西氏が作成したGASプロジェクトにアクセスし,自身のページにコードのコピーを作成する。(3) GASコード(API key,論文要約を受信するGmailアドレス,検索したい単語,論文件数)を書き換える。(4) トリガー(メールが届く時間)を設定する(アクセス権限への承認が必要),という流れで仕組みが完成する。
論文タイプで絞り込む方法や複数単語の検索方法,雑誌を指定する方法,エラー時の対応など,詳細な使い方はAntaa Slideで紹介しているので,参照いただきたい。
企業プレゼンテーション
バイエルが提案する画像診断支援AIソリューションのご紹介
バイエル薬品株式会社
放射線科領域の課題として,画像数の増加,医師負担の増大,診断エラーの発生などが世界で報告されており,これらの課題に対して,AIの活用による,業務の効率化,ペイシェントジャーニーの最適化,ペイシェントアウトカムの改善が期待されている。
バイエルは画像診断領域に対するAIソリューションとして,画像診断支援AIプラットフォーム「Calantic Digital Solution」,胸部領域読影支援AIソフトウエア「Plus.Lung Nodule/Plus.CXR」,腹部領域MRI読影支援AIソフトウエア「Cal.Liver.Lesion」の提供を開始した。
Calantic Digital Solution
院内に設置されるCalanticエッジサーバとCalanticビューワ,さまざまな画像診断支援AIアプリケーションを統合したCalanticクラウドプラットフォーム,解析統計情報などを管理するマーケットプレイスから構成される。Calanticクラウドプラットフォームはベンダーニュートラルで,さまざまなメーカーのAIアプリケーションを利用できる。また,1つのビューワですべての解析結果を確認できる,クラウド利用により高い拡張性を有する,各種ガイドラインに準拠しセキュリティを担保するといった特長も有しており,画像診断の効率化や精度向上に貢献するソリューションである。
Plus.Lung.Nodule/Plus.CXR
胸部CTおよび胸部X線画像に対して,ディープラーニング技術を用いて作成されたモデルにより信号値を解析してROIを表示する。胸部CT向けのPlus.Lung.Noduleには,自動計測機能や,過去と現在の同じROIを紐付けて体積倍加時間(VDT)を算出するオートトラッキング機能も搭載されている。なお,Plus.CXRはPlus.Lung Noduleの追加機能であるが,単独で使用することもできる。オンプレミスでの使用を想定した医療機器プログラムで,施設の運用に合わせてさまざまな方法でのシステム連携が可能となっている。
Cal.Liver.Lesion
EOB・プリモビスト造影MRI検査の読影支援AIソフトウエアで,オンプレミスでの使用を想定している。標準的なプロトコールで撮像された画像セットから自動解析を行い,周囲と比べて信号値の異なる領域を自動抽出する。信号値の異なる度合いを0〜1で表し,0.5以上の領域をカラーで表示したマップを作成し,読影を支援する。なお,解析結果は既存の読影端末で閲覧できる。
バイエルは,今後も放射線科領域においてAIを活用したソリューションを拡充し,関連するすべての医療従事者と共に患者さんの健康を守ることに貢献していく。