2023-2-20
インナービジョンでは2023年1月26日(木)にWebセミナー「第7回医療革新セミナー」を開催した。2題の講演とユーザー報告,企業プレゼンテーションで,放射線部門のDXを推進するワークステーションや線量管理の基本,最新情報を共有した。
講演「医用画像ワークステーションの進化と将来展望」
井田義宏 先生(藤田医科大学病院放射線部)
WSの進化
ワークステーション(WS)を用いた三次元画像作成はヘリカルスキャン黎明期から行われてきたが,現在ではセグメンテーションや各種解析,画像演算の高速処理が可能になり,多くの機能にdeep learningが利用されるなど進化を遂げている。最近は,光の拡散と反射を緻密にシミュレーションすることで写実的な画像を描出する新しい表現方法が開発されているほか,表示方法もAR(拡張現実)やMR(複合現実)へと広がり,3Dプリンタによる実体モデルも作成されるなど応用が広がっている。
WSによる画像処理の課題
WSによる画像処理には課題もある。「自動作成の正確性」については,精度はかなり向上しているものの動静脈分離などは匠の技にはまだ及ばないと感じている。また,「作成した画像の責任」については,保健医療分野AI開発加速コンソーシアムが,現時点では医師が最終責任を負うとしている。それでも診療放射線技師は医師に責任を押しつけるのではなく,責任感をもって最善の画像の作成に努めなければならない。
また,「有益な画像作成ができているか」「作成者の力量の差」といった課題には,三次元画像の標準化や人材教育が有効であり,日本診療放射線技師会では画像等手術支援診療放射線技師認定制度を創設した。撮影から一元管理することで品質を担保する,3D画像作成は診療放射線技師の仕事であることをアピールするといったねらいもあるが,何よりも患者や医師のためになる画像作成には,教育された診療放射線技師が適任であるという理由がある。
そのほかの課題として「薬機法の功罪」があり,品質が保証される一方で,ハードルが高くベンチャー企業の参入を阻んでいる現状がある。また,ソフトウエア(WS)とハードウエア(市販PC)の耐用年数が違うことも課題であるが,ソフトウエアで薬機法承認を得たWSも出てきており,ハードウエアと切り離した管理が可能になっている。
将来展望
今後はAIの利用により精度の向上と短時間化が進み,元画像の精度・再現性の向上とともに高品質な処理が生かされるだろう。ただし,AIの利用に関しては精度の検証に注意が必要で,これまでどおり再現性を含めた画像の精度を常に意識して,誤差要因の排除に努めなければならない。匠と呼ばれる先駆者たちが常に高みをめざすように,画像作成に携わる診療放射線技師には,WSに使われるのではなくWSを使いこなすようになってほしい。
講演「医療被ばくの線量管理と記録」
奥田保男 先生(量子科学技術研究開発機構情報基盤部)
ガイドラインの概要
厚生労働省が公表した「診療用放射線の安全利用のための指針策定に関するガイドライン」には,安全管理に関する基本的考え方や,研修・改善のための基本方針などが示されており,その要点を紹介する。医療被ばくに関する放射線防護は,「医療被ばくに上限値はない(線量限度は適用しない)」「放射線利用の正当化」「防護の最適化」が原則であり,ALARAの原則に則り最適化を図ることが求められる(職業被ばくにも当てはまる)。研修は施設内や関連学会・団体での実施や,e-learningなど可能な方法で,年1回以上の実施が求められている。なお,放射線業務従事者が受ける電離放射線障害防止規則(電離則)の研修と混同しないように注意する。
線量管理・記録においては,管理対象となる機器かどうかは添付文書に記載された名称で確認する。線量管理は,診断参考レベル(DRL)を活用して定期的に行うほか,プロトコール改定時や機器更新時にも実施すべきである。線量記録の様式はガイドラインに示されているが,日本医学放射線学会ではそのほかにも線量管理システムへの保存など7つの記録様式を示している。線量管理システムが必須ということではないので,できるところから取り組むことが重要である。
さらに有害事象等発生時の対応においては,有害事象が医療被ばくに起因するものかを確認した上で検証し,改善・再発防止のための方策を実施するが,それを実行するための体制・手順を整えておく必要がある。患者との情報共有においては,平易な言葉で説明することが大切で,特に有害事象発生時には丁寧な説明を心がける。
DRLとは何か
DRLとは,より少ない線量で適切な画像を提供できるようにするプロセスを推進するためのツールであり,閾値として判断したり,患者個人に適用したりするものではない。施設で比較に用いる場合には,標準体型患者のデータの中央値と比較する。また,施設によって条件や特性が異なるため,DRLが低ければよいというような良い診療と悪い診療を区別するものでもないことを認識する必要がある。
J-RIMEでは2025年のDRLs改訂に向けて活動を開始しており,対象モダリティに治療計画用CTを追加する予定である。病院の規模や環境にかかわらず多くの情報を提供いただくことで,DRLはより良いものとなっていくので,各施設への線量データ提供依頼の際には,ぜひご協力いただきたい。
ユーザー報告:ザイオソフト
「熊本大学病院における『REVORAS』の使用経験」
榎本隆文 先生(熊本大学病院医療技術部診療放射線技術部門)
当院では循環器領域を中心に3D画像処理件数が年々増加しており,3D作成に多くの時間を要している。今回,ザイオソフトの最新WS「Ziostation REVORAS」(REVORAS)を使用する機会を得たので,その経験を紹介する。
「Smart Imaging“みる”をシンプル,スマートに」をコンセプトに開発されたREVORASは,機能が刷新されている。ユーザーインターフェイスにはシンプルでわかりやすいアイコンが採用され,直感的に操作可能である。新機能として,さまざまな光源をシミュレートすることでリアルな形状・質感・奥行きを表現する「レンブラント」と,複数画像を重ね合わせる際にコントラストや形状を維持したまま表示する「トランスペアレンシー」が搭載された。聴神経腫瘍の症例においては,トランスペアレンシーにより骨と静脈洞の位置関係を確認でき,レンブラントにより血管の重なりや奥行き方向の視認性が向上し,有用であった。また,自動抽出機能を強化しており,非造影画像にも一部対応したことで高度腎機能障害患者や造影剤アレルギー患者の画像にも適用できるようになった。気管支や肺動静脈の自動作成も高精度に行うことができる。
Ziostation2とREVORASで同一患者5症例について非造影アブレーション術前の3D画像処理時間を比較した結果,REVORASでは作成時間を約1/5に短縮でき,画像のクオリティも高かった。ほかにも,非剛体レジストレーションや心臓周囲脂肪解析など,近年の臨床ニーズに応える新機能が多く追加されている。
REVORASは,コンセプトどおりの直感的にわかりやすい操作性と,AIを用いた自動抽出機能の精度向上により,画像処理時間を大幅に短縮できるWSである。
企業プレゼンテーション(1):インフォコム
「最新バージョン(Ver.10)で進化した被ばく管理機能のご紹介」
2020年4月より施行された「医療法施行規則の一部を改正する省令」では,診療用放射線の適正利用を目的に,安全管理責任者の配置,安全利用のための指針策定,研修の実施,被ばく線量の管理・記録が義務化された。ALARAの原則に則って放射線業務を遂行するには,モダリティや検査目的,患者の体型,画質など,さまざまな事項を複合的に分析・対策することが必要で,被ばく管理はもちろんのこと,従来RISに搭載されている機器点検などの機能を活用することが期待される。
当社では2022年秋,「RIS(Radiology Information System)からRIS(Radiology Intelligence System)への進化」をテーマに,診断RIS「iRad-RS」,レポーティングシステム「iRad-RW」,治療RIS「iRad-RT」の最新バージョン(Ver. 10)をリリースした。当社の線量管理機能は,線量情報が検査・治療情報とともにRIS・レポート・治療RIS一体型のデータベースに格納されているため,情報連携が容易な構造となっているのが特徴の一つである。Ver.10では新たに検証機能および照射録へのデータ活用機能が充実した。検証機能では,線量データのヒストグラム,箱ひげ図,散布図表示が可能となった。特に,散布図表示画面では,グラフからオーダ情報へのリンク表示ができるため,外れ値の検査情報からリンクして画像や検査時コメントを参照し,その後被ばくに関するコメントを追加するといったスムーズな検証作業が可能になる。照射録へのデータ活用機能では,取り込んだ線量データをそのまま照射録として活用が可能で,より効率的な線量管理業務を支援する。
当社は今後もiRadシリーズの開発に取り組み,新しい価値を創出するシステムへと進化させていく。
企業プレゼンテーション(2):コニカミノルタジャパン
「被ばく線量管理システム『FINO.XManage』の紹介」
当社の被ばく線量管理システム「FINO.XManage」には,線量管理の義務化対応サポート,画像と被ばく線量の一元管理,マルチモダリティ対応の3つの特徴がある。画質を担保した被ばく線量の最適化を実現するために,ユーザーインターフェイスは画像と線量情報を1画面で確認できるように設計し,SSDE解析,SD値計測も含めて一元管理を可能にしている。また,過剰被ばく線量の確認においては,グラフの外れ値より検査情報に画面遷移して原因の確認が可能なほか,被ばく線量の基準値を超過した場合にアラートを出すといった機能を搭載した。さらに,線量レポート出力,カンファレンス機能,e-learning機能などを搭載し,患者への情報共有や委員会/職員研修を支援する。2022年秋には日本医学放射線学会の線量管理実施記録フォーマットでの出力機能を追加している。
マルチモダリティ対応としては,RDSRやRRDSR接続だけでなく,DICOM画像内の情報取得やサマリ画像からOCRでのデータ取り込み,RIS線量情報のインポートなどにも対応し,線量情報の取得を広くサポートする。
さらに,当社システムとの連携機能も充実している。検像システム「NEOVISTA I-PACS QA」との連携では,検像時にFINO.XManageを直接起動でき,線量情報を確認しながらの検像や,設定したDRLを超過した場合のアラート表示を可能にする。手入力機能もあり,RDSR未対応装置のデータ入力も効率的に行える。また,一般撮影のコンソールである画像診断WS「CS-7」と連携することで,CS-7で算出した体厚情報を含めた入射表面線量を取得でき,DRLs 2020で求められる線量指標での管理が可能となっている。