2021-1-27
インナービジョンでは2020年12月10日(木),Webセミナー「第2回 医療革新セミナー」を開催した。月刊インナービジョン2020年11月号の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)特集とのコラボ企画として,臨床の最前線でCOVID-19に対峙している先生方に,COVID-19の画像診断について,また,モダリティ別の感染防止対策について講演いただいた。ここでは,セミナーの内容を抜粋して紹介する。
I 基調講演
COVID-19肺炎の画像診断
松本純一先生(聖マリアンナ医科大学救急医学救急放射線部門)
COVID-19肺炎に対する画像診断支援
当院では2020年2月にダイヤモンド・プリンセス号症例の受け入れを開始し,当初より積極的に画像を活用している。3月には蓄積された症例を解析し,関係各所と情報共有をしてきた。その中で,中国のアリババグループが多数の症例を用いて開発した人工知能(AI)を日本でも生かせないかとの話があり,NOBORI,エムスリー,アリババグループの協力を得ながら,他院に対してCOVID-19肺炎の遠隔CT画像診断のボランティアサービスを開始した。4月からの2か月間で250施設の登録,300症例の依頼があり,当院放射線科有志と救急医学救急放射線部門で読影し,依頼に対して平均24分で回答していた。なお,本コンサルテーションではCOVID-19肺炎の可能性を5段階に分けて回答した。
COVID-19肺炎のCT診断におけるAI臨床応用に向けた活動
同時期に,アリババが開発したCOVID-19肺炎用のAIエンジンの性能検証を行った。AIエンジンは,3000例のCOVID-19肺炎と4000例の非COVID-19肺炎で学習しており,当時の国内の症例を用いて検証したところ,演者に近い成績を示した。特に,感度は演者の89.7%に対してAIは86.4%と同等で,実臨床で使用するには取りこぼしが少ないことが非常に重要なことから,この点を重視して厚生労働省,PMDAへの承認申請に参加した。その結果,申請から80日という異例のスピードで承認されたのが“Ali-M3”である。
国内で関心を集めたAli-M3は,エムスリーがソニーのグローバル基金の支援を受けて100施設限定で無償提供する活動に取り組み,臨床実装が進んだ。Ali-M3では,画像の関心領域にマーキングされるとともに,COVID-19肺炎所見の確信度(0.000~1.000),COVID-19肺炎の確信度(3段階)が結果として示される。COVID-19肺炎の典型像であれば比較的わかりにくい病変も拾い上げ,かなり正確に確信度を示すとともに,片側性などやや非典型的な病変でも精度の高い確信度を示すことができる。もちろん,放射線科医が判定を間違えるように,画像パターンの“似かより具合”から判断するAIも間質性肺炎やインフルエンザウイルス肺炎などをCOVID-19肺炎と誤判定することがある。
Ali-M3と画像診断医
性能検証におけるAli-M3と演者の判定結果は,PCR陽性・陰性合わせて一致率は79.3%で,陽性症例ではAIが,陰性症例では演者が正しく判定する症例が多かった。また,AIと演者が共に誤る症例も全体で15.3%あり,その背景にはPCR自体の限界(偽陽性など)や時期が早くCT所見が出ない,時期が早すぎる/遅すぎるために非特異的になってしまうといったことがあると考えられる。典型例では,初期に肺野末梢に淡いすりガラス状陰影が両側性に現れ,時間の経過につれて陰影が濃くなり,胸壁に沿うように広がる。さらに時間が経つと中心側にも陰影が広がり,両側に多巣性に認められる。濃い陰影は帯状になり,さらに進行すると線維化が見られるようになる。ただし,最近の症例では既存の肺疾患との合併症や非典型例などバリエーションが増え,容易にCOVID-19肺炎と判断できる割合が低下している印象である。
Ali-M3承認後は,AIを活用しながら遠隔コンサルテーションを実施し,平均19分で回答している。7月以降のPCR検査結果が判明している100症例弱を検証したところ,画像診断医の感度は58.9%,特異度83.9%と検証時と比べて大きく低下した。オーダした主治医の感度2.6%,特異度50%と比べればかなり良いが,この成績低下は主治医では判断できない難しい症例が依頼されているためと考えられる。AIも感度50%,特異度40%と低下しているが,致し方ないと言えるだろう。
まとめ
AIは画像パターンの“似かより具合”を示しているにすぎず,臨床像や画像解釈に慣れていない人の利用にはリスクがあるなど,臨床実装により見えてきた課題もある。そのため,実装に向けては注意喚起や活用指針の策定が必要だろう。AIはあくまでも診断補助という位置づけだが,COVID-19肺炎の画像診断は画像診断医ですら容易ではないことが次第にわかってきた。AIの判定根拠は不明であり,使いながら慣れる必要があると思われ,また,どの情報を加味することで診断能が向上するのかの議論も必要である。このような点を踏まえた国産AIエンジンの開発が待たれる。
COVID-19肺炎のCT画像診断は,典型例ではその可能性を強く示唆できるが,症例が急増している中で全体を見渡すと容易ではないことがわかってきた。そもそもCTネガティブでもCOVID-19は否定できないことを,よく意識する必要がある。
II 特別講演
1.CT検査の感染防止対策
井田義宏先生(藤田医科大学病院放射線部)
COVID-19に対するCT検査では安全(感染)対策が重要であり,自施設の立地環境や施設環境,設備を踏まえてリスクを把握する必要がある。CT検査室に到着するまでのトリアージの状況は,日中と夜間で変わることも認識しておく。検査担当者の対応で最も大切なのが標準予防策の徹底で,COVID-19陽性者(疑似症例)に対しては,飛沫・接触感染予防策や空気感染予防策もとる。COVID-19をほとんど疑わない術前検査などについては,病院全体のリスクを考えて対応を検討する。
当院では,COVID-19症例の検査は基本的に通常業務終了後にほかの患者との交差を避けて実施し,寝台にはディスポシーツを敷き,清拭しにくい部分をビニールで覆うなどの準備を行う。レッドゾーン(検査室内)では患者はマスクを,検査担当者はPPEを着用し,診療放射線技師2人で対応できる場合はグリーンゾーン(操作室)で別の操作者が撮影操作を行う。また,ゾーニングに従ったPPEの着脱を徹底することも大切だ。検査後は,各社から出されているマニュアルを参考に機器の清拭・消毒を行う。
感染を疑う異常所見を発見した場合に24時間体制で診断医,担当医に連絡できる体制を確保するため,当院では対応フローチャートを作成し,院外で画像を確認できるアプリケーションを活用している。画像診断結果についてはCOVID-19の可能性を4段階で示す方法を採用している。
感染リスクを低くするためには,検査担当者と患者の双方がマスクをしていることが最も重要である。COVID-19は発症2日前から感染リスクがあるため,日頃からの標準予防策を徹底するとともに,環境の変化に応じてリスクを見極め,随時対策を見直すことも必要である。
2.MRI検査の感染防止対策
山本晃義先生(社会医療法人共愛会戸畑共立病院画像診断センター)
当院では実際にCOVID-19症例のMRI検査を行った経験はないが,いざという時に備えてCOVID-19陽性患者のMRI検査対応マニュアルを作成した。マニュアルの作成では,(1)患者の搬入・搬出にかかわるエリアのゾーニング,(2)高磁場安全性への配慮,(3)清掃,消毒方法の構築,(4)感染対策委員会,医療安全委員会の承認,(5)院内の感染症対策方針の変更に応じた改定,(6)シミュレーションによるマニュアルの有効性の検証,の6点がポイントとなる。
技師2人で検査を行う場合,PPEを装着した検査室技師1人が防水シーツを敷いたMRI対応トレッチャーを救急外来に移送し,ストレッチャーに患者を移乗後,ビニール袋に包んだハンディ式金属探知機と目視で金属確認を行う。患者を防水シーツで覆った状態で看護師とともにMRI室に移送し,防水シーツごと寝台に患者を移乗させる。検査時は基本的に固定用ベルトを装着し,飛沫の拡散防止のためにボア内は送風しない。操作室担当技師は検査室には入らず,撮像操作を担当する。撮像中,検査室担当技師と看護師は検査室内で患者の様子を観察する。検査終了後は看護師が患者を移送し,撮影室担当技師は室内の強制排気を行いながら,マニュアルに沿って清掃を行う。マニュアルには換気操作盤の場所を明記し,清掃場所に応じた清掃手順を事前に取り決めておくべきである。
また,MRIでは吸引事故防止のために磁場安全に十分に配慮する必要があり,注意点をマニュアルに明記すべきである。高磁場安全性の担保と有効かつ現実的な感染対策のために,マニュアル作成は病院全体で取り組み,検査に必要な備品を準備して,陽性患者を検査する機会が少ないからこそシミュレーションで問題点を洗い出してマニュアルを改定していくことが必要である。
3.一般撮影の感染防止対策
田沼隆夫先生(聖マリアンナ医科大学病院画像センター)
当院では,COVID-19の重症,中等症患者をゾーニングされた救命救急センターで受け入れており,患者数に応じてエリアを拡大・縮小させている(重症患者用病床は最大15床)。COVID-19関連の画像検査は多い月で800件を超え,その多くをポータブル撮影が占める。ポータブル撮影を担当する技師はオペ着,プロテクターの上にfull PPEを着用する。FPDは2重のポリ袋で養生して患者ごとに外側のポリ袋を交換し,コンソール用PCは画像を確認できるように透明のポリ袋で養生する。ポータブル撮影は必ず技師2人で対応し,患者対応(不潔操作)とポータブル操作(清潔操作)を明確に分けている。撮影ポジショニングは職種を問わずに複数名で協力して行い,清潔操作の技師は患者やベッド,周辺機器に触れずに撮影操作のみ行う。不潔操作の技師は,患者ごとにガウンと外側の手袋を交換し,都度手指消毒を行うため,通常の倍以上の時間を要する。検査終了後は,エタノールや次亜塩素酸で,ポータブル装置全体や養生したFPDなども清拭する。
また,ECMO挿入時に透視の補助としてポータブル撮影を使用している。観察範囲が広いため,フルサイズFPDを2枚使用し,患者移動による感染リスクを低減している。撮影画像は無線で送信し,救急放射線科医が即座に遠隔読影してインカムで現場に指示を出す運用としている。
full PPEでの1~2時間のポータブル撮影は力仕事である上,素早く正確な撮影に対するプレッシャーもあり現場の負担は大きく,周囲の協力や細やかなケアが不可欠である。ポータブル撮影現場では,しっかりと感染予防策を講じた上で,他職種と連携し,周囲への尊敬と感謝の気持ちを持って立ち向かうことが非常に大切だと考える。