セミナーレポート(ザイオソフト)

第77回日本医学放射線学会総会が,2018年4月12日(木)〜15日(日)の4日間,パシフィコ横浜で開催された。ザイオソフト株式会社/アミン株式会社は,15日の共催のランチョンセミナー28において,「New Horizon of 4D Imaging」を開催した。セミナーでは,高瀬 圭氏(東北大学大学院医学系研究科放射線診断学分野)を座長として,森田佳明氏(国立循環器病研究センター放射線部),長尾充展氏(東京女子医科大学画像診断学・核医学講座)が,「Ziostation2」による心臓MRIの定量解析,CTの四次元病態解析について講演した。

2018年8月号

JRC2018 ziosoft / AMIN Seminar Report New Horizon of 4D Imaging

心筋CTストレインと冠動脈フローマップで迫る4次元病態解析

長尾 充展(東京女子医科大学画像診断学・核医学講座)

本講演では,ザイオソフト社製ワークステーション「Ziostation2」の“PhyZiodynamics”を用いた新しい心臓CTの解析法として,機能的虚血評価を可能にする「冠動脈フローマップ(Coronary flow imaging)」と,三次元的なストレイン解析を行う「心筋CTストレイン(CT strain)」について述べる。

冠動脈フローマップ(coronary flow imaging)

1.Boost scanによる撮影
安定冠動脈疾患に対する経皮的冠動脈形成術(PCI)については,適応外の不適切なPCIが多く行われていることから,2018年度の診療報酬改定でPCI前の機能的虚血評価が義務づけられた。虚血の評価方法は,心筋シンチグラフィや心筋PETなどがあるが,最近では心臓CTで冠血流予備量比(FFR)を計測するCT-FFRがトピックとなっている。しかし,CT-FFRは計測に手間がかかることや費用の問題から,普及には至っていない状況である。このCT-FFRに対抗する新たな評価方法として開発したのが,冠動脈フローマップである。
冠動脈フローマップは,320列ADCTを用いprospective ECG triggering法で撮影する。当初は拡張期のみ連続心拍で10〜15心拍を撮影していたが,現在は1回の本スキャンのみ線量をかけ(700mA),前後の10心拍は低線量(80mA)で撮影する“boost scan”を行うことで,低線量(4mSv)でCAGに近い冠動脈造影CTが得られている(図1)。逐次近似画像再構成の“FIRST”とPhyZiodynamicsを組み合わせることで,ノイズの少ない滑らかな画像が得られる。PhyZiodynamicsでは,motion coherenceによるノイズリダクション,非剛体位置合わせによって位置ズレの少ない正確な再構成が可能になる。

図1 Boost scanとPhyZiodynamicsによる低線量撮影のプロトコール

図1 Boost scanとPhyZiodynamicsによる低線量撮影のプロトコール

 

2.Coronary flow index(CFI)
冠動脈フローマップでは,血流の定量的な評価方法としてcoronary flow index(CFI)を提案している。PhyZiodynamicsでは,連続した位相でボクセルをトラッキングした計測が可能であり,冠動脈に球形の関心領域(volume of interest:VOI)を設定して精度の高い計測が可能になる。これを用いて,冠動脈と上行大動脈で計測した時間濃度曲線のupslopeの比からCFIを算出した。
図2は,ストレッチイメージのフローマップとCFIの値を示した冠動脈フローマップの解析結果である。症例は冠動脈疾患ではないが,右冠動脈(RCA)と右室瘻孔形成がありRCAが非常に拡張している。RCAのストレッチイメージでは流速が非常に速くCFIは大動脈と同程度の数値を示している。一方で,左前下行枝(LAD)は通常の状態であり,運動負荷時にはLADの血流がRCAにスティールされる現象が示唆された。

図2 右冠動脈と右室瘻孔形成の冠動脈フローマップ

図2 右冠動脈と右室瘻孔形成の冠動脈フローマップ

 

3.機能的虚血の診断能の評価
冠動脈フローマップの機能的虚血の診断能は,安定慢性冠動脈疾患で中等度狭窄での遠位部と近位部のCFIの計測と,アンモニアPETの冠動脈領域ごとのmyocardial flow reserve(MFR)1)の値,視覚的な虚血の有無などで評価を行っている。図3は60歳代,男性,LADとRCAに強い石灰化を伴った狭窄のある症例で,LAD遠位部のCFIが0.27と落ちており,アンモニアPETとのフュージョン画像でもLADの支配領域の心筋のMFRは0.95と強い虚血が認められた。CT-FFRでは,強い石灰化では解析不能という限界があるが,冠動脈フローマップでは解析が可能なことがメリットである。
狭窄の遠位部でのCFIの低下について理論的な検討を行った。実験モデルでの観察では,狭窄があると渦流が形成され流速の低下が確認された。また,血流が速いほど渦流が遠位部まで形成され,CFIの値に反映されていると考えられた。

図3 冠動脈フローマップとアンモニアPETのMFRによる機能的虚血の評価 60歳代,男性,LADとRCAに強い石灰化を伴った狭窄が認められる。

図3 冠動脈フローマップとアンモニアPETのMFRによる機能的虚血の評価
60歳代,男性,LADとRCAに強い石灰化を伴った狭窄が認められる。

 

4.Myocardial blood flow (MBF)map
CT-FFRではステント留置症例の解析は適応外になるが,冠動脈フローマップでは留置症例に関しても解析が可能である(図4)。また,冠動脈フローマップの撮影では,通常と同じ造影剤量を使用するため,心筋のCT値も時間とともに若干上昇する。心筋の時間曲線(time density curves)のAUCを計測して心筋血流を評価する検討も行っている。これをPhyZiodynamicsで解析しMBF mapとしてカラーマップで表示したところ,LADの対角枝に高度狭窄のある症例では,支配領域の心筋の血流が落ちていることが確認できた。
冠動脈フローマップの虚血の診断能の検討では,九州大学の狭窄遠位部のCFIのカットオフ値を0.39として,SPECTと比較した場合のAUCは0.91,東京女子医科大学でのboost scanでの遠位部CFI 0.47とした場合のAUCも同様の結果となった。今後320列CTとZiostation2の組み合わせによる多施設での検討や冠動脈フローマップに加え,MBF mapなどから機能的な虚血を検出する新たな評価法の検討も進めていきたいと考えている。

図4 ステント留置症例の冠動脈フローマップ

図4 ステント留置症例の冠動脈フローマップ

 

CT心筋ストレイン(CT strain)

1.PhyZiodynamicsによる解析
CT心筋ストレインは,320列CTでretrospective ECG gating法で収集したデータから,PhyZiodynamicsの4Dモーション解析で算出したストレインを,3Dのカラーマップで表示する新しい画像解析法である。PhyZiodynamicsでは,動態の予測補間技術によって画質改善やノイズ低減を可能にすると同時に,仮想的に時間分解能を上げることが可能になる。心筋CTストレインでは,ボクセル単位のトラッキングによる心筋の歪み(torsion)を含めた変化量を解析し,“maximum principal strain2)”を算出することができる。
PhyZiodynamicsでは,バルサルバ洞動脈瘤やファロー四徴症の肺動脈弁狭窄などで動態による視覚的な評価が可能である。ダイナミック計測については,経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)術前術後の大動脈弁狭窄(AS)で検討を行った。PhyZiodynamicsで心筋の輪郭を自動抽出し,左室の円周および長軸方向の長さを経時的に計測した。ASと大動脈弁閉鎖不全(AR)で左室の円周の変化の時間曲線を求め,収縮能と拡張能(ストレインレート)を比較した。通常のCTデータでは時間分解能が足りず評価が難しかったが,PhyZiodynamicsで時間分解能を向上することで,ASでは拍出量とストレインレートに相関があることがわかった3)

2.CTストレイン解析の臨床応用
CTストレイン解析の臨床応用では,心移植後や心奇形など重症心疾患で,補助人工心臓やペースメーカーなどが留置された患者に対するフォローアップに有効だと考えられる。右室と左室が入れ替わる修正大血管転位では,体循環に対応する右室の機能が低下し,右心不全を来すことが問題となる。右室の機能評価は,MRIのストレイン解析で可能であり,われわれはPhyZiodynamicsによる時間分解能の向上で同期性障害の診断なども可能になることを報告している4)。しかし,こういった症例では心臓再同期療法(CRT)でペースメーカーが留置されることが多く,MRI対応のデバイスが増えているとはいえ,画像の取得が困難なケースが多い。
心臓CTでは,こういった症例でもデータ収集が可能であり,CTストレイン解析が行えることがメリットとなる。図5は,両心室ペーシングが入った修正大血管転位の症例のCTストレインマップの画像である。図5の断層画像では,右室の前壁部分の動きが悪いことがmaximum principal strainで確認できる。体循環を司る右室のストレインが低下していることが数値として確認できた。

図5 修正大血管転位のCT心筋ストレイン

図5 修正大血管転位のCT心筋ストレイン

 

まとめ

Ziostation2のPhyZiodynamicsを用いた,冠動脈フローマップと心筋CTストレイン解析について述べた。冠動脈フローマップは,ステントや石灰化を有する症例でも解析が可能であり,CT-FFRに対抗可能な解析方法と考えられる。また,心筋CTストレインは,MRIでの解析が難しい植え込み型デバイスを留置した重症心疾患の症例の治療やフォローアップで有用だと考えられる。

●参考文献
1)Fukushima, K., et al., J. Nucl. Med., 52・5, 726〜732, 2011.
2)Tanabe, Y., et al., Eur. Radiol., 27・4, 1667〜1675, 2017.
3)Nagao, M., et al., Heart Vessels, 32・5, 558〜565, 2017.
4)Yamasaki, Y., et al., Int. J. Cardiovasc. imaging, 33・2, 229〜239, 2017.

 

長尾 充展

長尾 充展(Nagao Michinobu)
1990年 愛媛大学医学部卒業。98年 同大学院医学研究科博士課程卒業。同医学部附属病院,松山成人病センター,愛媛県立今治病院などを経て,2010年 九州大学医学研究院分子イメージング診断学講座准教授。2016年〜東京女子医科大学画像診断学・核医学講座准教授。

 

 

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