Future Development(ザイオソフト)

2014年9月号

Ziostation2上で動作するComputed DWI用プロトコルの開発

高原 太郎(東海大学工学部医用生体工学科)

Point

  • ザイオソフト社のワークステーション「Ziostation2」上で動作する。
  • 任意のb値のComputed DWI(cDWI)を作成可能
  • 拡散強調画像には,ADC<0となるピクセルがおびただしく存在し,これはcDWIで高輝度ノイズとして現れる。
  • 上記は元画像の質によっても出現率が異なり,低S/Nの画像には多く発生する。
  • このプロトコルにより,cDWI上の高輝度ノイズを低減,高品位のMIP画像が得られる。

 

「プロトコル」とは

ワークステーションは一般に,3次元画像や内視鏡的画像などの基本技術をコアのシステムとして提供し,特別な解析機能,例えばCT Colonography(CTC)などは,専用アプリケーションとしてオプション扱いで提供している。ザイオソフト社ではこういった解析機能を「プロトコル」と呼んでいる。今回,ザイオソフト社と共同で,拡散強調画像の有用性を高めるComputed DWI(cDWI)用プロトコルを開発した。

「全身MRI」を可能とする2つの技術

数年前から,全身撮像可能なMRI装置(例えばSiemensのTimやPhilipsのFlexStream+dStreamなど)が各社から例外なく販売されている。従来は,撮像しようとする部位に合わせてコイルを置く必要があり,基本的に30cm程度の狭い範囲(一部位)を撮ることを前提としていた。一方,新型のシステムでは,天板側と腹側に,多数の小さなコイルからなる受信媒体を頭尾方向に予め長い範囲設置しておく。そして,位置決め画像を撮像した後に,指定した範囲の撮像に必要なコイルだけを選択するのである(automatic coil selection)。このため,例えば上腹部+骨盤など,従来は難しかった複数部位の撮像がごく簡単にできるようになった。さらに,iPhoneのパノラマ撮影などでおなじみの,隣り合う画像をシームレスにつなぎ合わせる技術が発達し,MRコンソール上で作成可能となった。この2つの革新により,広範囲の画像を得ることはいまやルーチンで可能となった。

「全身MRI」の臨床へのインパクトと問題点

この結果,DWIBS法1),2)を用いて,全身DWIを時期を置いて同じように繰り返し撮像することも容易となった。
図1に示すように,FDG-PETでは保険請求上不可能な,「1か月ごと」の経過観察も可能となる。全身DWIは一目で治療経過が容易にわかる検査法として,臨床ニーズは高まっていくと思われる。
ところが,このような広範囲撮像において,DWI・T2WI・T1WIなど,診断に必要なコントラストを組み合わせて検査時間を30分に収めようとすると,必然的にb値は(0,1000)s/mm2など2値の撮像に限られてくる。多数のb値を撮像すると,それだけ時間が延びるからである。このことは,前立腺癌のように,より高いb値が必要とされる癌の検出3)や経過観察には力不足であることを意味する。また,広範囲を俯瞰するときは,十分な注意を払い細かく診断していく局所撮像と比べ,病変部にパッと目が行くような画像が必要であり,このため背景信号をさらに抑制する必要性が出てくる。

図1 70歳代,男性,胸膜中皮腫:温熱療法後の経過観察(撮影装置:Ingenia 3.0T)

図1 70歳代,男性,胸膜中皮腫:温熱療法後の経過観察(撮影装置:Ingenia 3.0T)
右胸膜に多数の病変が発生している。温熱療法による改善と,再発(右から2枚目と最後の画像)が一目でわかる。撮像間隔は,1〜2か月であるが,通常の保険請求範囲で撮像ができる。FDG-PETでは不可能な短期間ごとの観察能力は,治療効果の把握に非常に有用と思われる。

 

Computed DWI(cDWI)の出現とADC

こういった臨床ニーズに応えうるクリーンヒットがcDWIである。図2は縦軸を信号強度の自然対数とし,横軸をb値としたときの,病変と正常組織のグラフである(注:perfusionは考慮していない単純化したもの)。このグラフにおいて,2つの実測点を結び延長して,より高いb値の画像を「コンピュータで計算する(compute)」というきわめて単純なコンセプトがcDWIであり,Blackledgeらにより2011年に報告された4)。このグラフにおいて傾きはADCを意味するので,「傾きを利用して延長するcDWI」に新味はなく,また本質的な差もないように見えるが,病変の検出という観点では,圧倒的にcDWIの方が有用である。それは,ADC画像が,「T2-shine through effectを除外するのに役立つ」という利点がある反面,「T2-dark through effectにより癌以外の周囲組織(=癌に比して圧倒的に面積が広い)も低ADC値として表現されてしまう」という欠点があるからである。誌幅の都合で詳述できないが,興味のある方は近刊の拙著を参考にされたい5)

図2 cDWIの概念

図2 cDWIの概念
縦軸は信号強度(自然対数),横軸はb値。b=0と(例えば)b=1000 s/mm2の信号強度から線を延長して高いb値の計算画像を得る。これがcDWIである。cDWIは,直線の傾き(すなわちADC)を利用して,線を延長して推定値を得るので,ADCと本質的に何も変わらないように見えるが,実際の臨床における病変の検出には大きな効果を発揮する。

 

cDWIの背景信号抑制効果

さてBlackledgeらは,10例の骨転移症例をb=900s/mm2で撮像し,b=1500s/mm2とb=2000s/mm2のcDWIとsensitivity, specificityを比較した。その結果,cDWIでは唾液腺,腎臓,生殖器などの高信号が抑制される結果,sensitivity,specificity共にcDWIで改善し,b=2000s/mm2で最高だったことを報告している。通常,sensitivityとspecificityが相反する(どちらかを高めるとどちらかが下がる)ことを考えると,これは驚きである。Uenoら6)は最近,3T MRIを用いて前立腺癌について検討し,やはりb=2000s/mm2のcDWIにおいて癌部と非癌部のコントラストが最大であったと報告している。

cDWIの問題点─高輝度ノイズの出現

ところが筆者は,臨床にcDWIを供しているうちに,cDWIには重要な欠点があることに気づいた。実はこれは,「今まであまり意識してこなかったADC画像の不備があらわになった」という意味でもある。その欠点とは,「高いb値の画像を作成すると,高輝度ノイズが現れる」ということである。図3 bにその例を示す。この例では,b値を高くすると,椎体に高輝度ノイズが現れているのがわかる(↑)。骨転移を疑う疾患であった場合には,診断に誤りを生じる懸念があるわけだ。
この高輝度ノイズは各スライスに現れるため,図3 fに示すように最大値投影をした場合には,画像全体に顕著に分布する結果となり,内部が確認できなくなる。

図3 高輝度ノイズと低ADC値カットオフの効果

図3 高輝度ノイズと低ADC値カットオフの効果
80歳代,男性,前立腺癌,多発リンパ節転移症例。以下,単位は省略して説明。
a:b=800元画像において,で示す前立腺癌を認める。また,腸骨リンパ節転移(→)を認める。原発巣と転移巣以外に,▶で示す膀胱(変形している)や腹水(*)が認められる。
b:b=2000のcDWIにおいては,高輝度ピクセルが無数に出現している。ADC<0となっているためにこのような結果となる。↑で示す部分は特に問題で,骨転移と区別がつかない。
c:ADC<0をカットした画像では,この高輝度偽病変が取り除かれている。
d:ADC<0.4をカットした画像では,そのほかに椎体にも多数の欠損点が現れる。ADCが正の領域に踏み込むこの演算がすべて正しいとは言えないが,ノイズの存在により不当にADCが低く見積もられている可能性がある領域である。
e:b=800 MIP画像では,膀胱(◀)や腹水(→),あるいは腎臓が背景信号として表示されている。こういった構造物に重なった,あまり信号強度が高くない病変は,MIP画像に表示されないことになる。fのb=2000のcDWIでは,元画像で認められた高輝度点が天の川のように認められ,内部の病変を見難くしている。gのADC<0をカット,hのADC<0.4をカットしたMIP画像では高輝度ピクセルとともに背景がよく抑制され,↑で示すような淡い高信号を示す転移リンパ節も明瞭になっている。

 

ADC<0のピクセルが多数存在する(していた)という衝撃

どうしてこのような現象が起こるのであろうか。b=0の画像で非常に低い信号を示すピクセルがあったと仮定しよう。これは,「脂肪抑制された脂肪」や「筋肉」などが該当するだろう。こういったピクセルをb=1000s/mm2で撮像した際に,もしノイズによりb=0での信号強度を上回ると,計算上ADCは「負」の値となる。b=0→b=1000は右上がりになるので,高いb値の画像をcomputeすればするほど,このピクセルはさらに高信号を示すことになる(図4)。これが高輝度ノイズの原因である。ADC<0は明らかな測定誤りであるが,その誤りがおびただしい数で存在していたことに,われわれは注意を払うことなくADCを測定してきたとも言える。いや,あなたが測定したピクセルは,「低信号ピクセルではなく,癌などの信号が十分にあるピクセルであって,ADCは正だった」と言えるかもしれない。しかし,一般的なDWIのボクセルサイズは,3×3×5(mm)(=45mm3)もあるのだ。その周囲にADC<0の領域があったとしたら,partial volumeとして拾っていないと断言できるだろうか。
さらに,最近のわれわれの検討では,S/Nの低い元画像はS/Nの高い元画像に比較して,ADC<0の領域が多いこともわかった7)。こういった知見は,拡散強調画像の適正S/Nを模索するときに役立つかもしれない。

図4 ADC<0 ピクセル発生のメカニズム

図4 ADC<0 ピクセル発生のメカニズム
b=1000において,ノイズが乗ることによりb=0よりも信号強度が高くなると,ADCは「負」となる(このグラフの線が右上がりとなる)。このため,cDWIでより高いb値の信号強度を計算すると,より高輝度を生じてしまう。

 

非現実的低ADC値を示すピクセルを削除

前述したような問題を解決するため,ザイオソフト社と共同で新しいプロトコルを開発した(図5,6)。このプロトコルでは,ADC<0となる,明らかに誤りのピクセルを除いた画像が得られる(図3c,g)。ところで,「minimum ADC値」を主題とした過去の論文を検討すると,腫瘍のADC値の下限は0.4×10−3mm2/s程度である。このことを利用して,非現実的低ADC値(任意)をカットするフィルタをかけることにより,さらに背景信号を抑制した画像が得られる(図3d,h)。また,腫瘍のADC値を0.6×10−3mm2/sなどと仮定すれば,そのADC値を持つピクセルの画像上の信号が変わらないようにWindowを調整できる(オートウィンドウ機能)。このような機能によって,高品位のcDWIを作成し,MIPなどの全体表示法や,ADC測定に役立てることができると思われる。
以上,cDWI用の新しいプロトコルについて説明した。この機能はZiostation2の最新バージョン(今秋)に搭載される見込みである。

図5 cDWIプロトコル機能

図5 cDWIプロトコル機能
a:b値調整スライダーでは自由なb値の設定を,スライダーもしくは数値入力で行える。
b:頻繁に使用するb値をプリセットしておくことができる。また,プリセットした多数のb値画像を一括して保存できる機能も有している。
c:低ADC値カットオフ点の設定やオートウィンドウ機能の動作設定ができる。

 

図6 Ziostation2画面(cDWIプロトコル)

図6 Ziostation2画面(cDWIプロトコル)
この画面では,左上 T2WI(形態画像),右上 b=500,左下 Fusion画像,右下 cDWI (b=1000)が表示されている。cDWIで肝転移巣をより明確に表示し,これをFusionしている。右側の組み合わせ設定でADC画像表示や,MPR画像も選べるようになっている。

 

●参考文献
1)Takahara, T., Imai, Y., Yamashita, T., et al. : Diffusion weighted whole body imaging with background body signal suppression(DWIBS) ; Technical improvement using free breathing, STIR and high resolution 3D display. Radiat. Med., 22, 275〜282, 2004.
2)Kwee, T.C., Takahara, T., Ochiai, R., Nievelstein, R.A., Luijten, P.R. : Diffusion-weighted whole-body imaging with background body signal suppression (DWIBS) ; Features and potential applications in oncology. Eur. Radiol., 18(9), 1937〜1952. Review, 2008.
3)Katahira, K., Takahara, T., Kwee, T.C., et al. : Ultra-high-b-value diffusion-weighted MR imaging for the detection of prostate cancer ; Evaluation in 201 cases with histopathological correlation. Eur. Radiol., 21(1), 188〜196, 2011.
4)Blackledge, M.D., Leach, M.O., Collins, D.J., Koh, D.M. : Computed diffusion-weighted MR imaging may improve tumor detection. Radiology, 261(2), 573〜581, 2011.
5)高原太郎: 14章DWIBS. 荒木 力 編, 腹部のMRI第3版, 東京, MDSIi, 2014.
6)Ueno, Y., Takahashi, S., Kitajima, K., et al. : Computed diffusion-weighted imaging using 3-T magnetic resonance imaging for prostate cancer diagnosis. Eur. Radiol., 23(12), 3509〜3516, 2013.
7)林田佳子・他. cDWI(computed diffusion-weighted imaging)において元画像のSNRが与える影響.第42回日本磁気共鳴医学会大会抄録, 2014.

 

●そのほかの臨床報告はこちら(インナビ・アーカイブへ)

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