New Horizon of 4D Imaging(ザイオソフト)
第75回日本医学放射線学会総会が、2016年4月14日(木)〜17日(日)の4日間、パシフィコ横浜で開催された。ザイオソフト/アミンは、17日に共催のランチョンセミナー28において、「New Horizon of 4D Imaging」を開催した。セミナーでは、中島康雄 氏(聖マリアンナ医科大学放射線医学講座 教授)を座長として、林田健太郎 氏(慶應義塾大学医学部)、一ノ瀬嘉明 氏(国立病院機構災害医療センター)が、TAVI術前のプランニングや評価、救急・IVRを支援するZiostation2によるCTデータ処理について報告した。
2016年7月号
JRC2016 ziosoft/AMIN Seminar Report New Horizon of 4D Imaging
TAVIにおけるPhyZiodynamicsの有用性
林田健太郎 氏(慶應義塾大学医学部循環器内科)
TAVIとCTによる術前治療評価
経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)は、大動脈弁狭窄症に対して経カテーテル的に大動脈弁置換を行う治療法で、本邦では現在2種類のデバイスが薬機法承認され、臨床で使用されている。TAVIでは、大動脈弁複合体(aortic valve complex)の解剖の理解が重要であり、術前の大動脈弁輪の形態把握や計測がポイントになる。当初は2Dエコーによる評価がメインだったが、より正確な形態の把握と計測のため、現在ではCTがゴールドスタンダードとなっている。さらに、当院では、より高度で正確な手技のためにザイオソフトの“PhyZiodynamics”の4D解析を用いた解析に取り組んでいる。
PhyZiodynamicsによる弁輪の4D解析のメリット
PhyZiodynamicsでは、独自の画像補完技術によって各位相間のデータを補完することで滑らかな動態の観察が可能になる。通常は3枚(LCC、RCC、NCC)ある大動脈弁が癒合して2枚(二尖)となる二尖弁に対するTAVIは、日本では長らく禁忌とされてきた。しかし、ヨーロッパのデータではCTによる術前スクリーニングによって、術後死亡率や弁周囲逆流などの合併症の発生が、その他の症例と成績が変わらないことが報告されている1)。この二尖弁に対してPhyZiodynamicsの4D解析を利用することで、弁の動態のスムーズな観察によって、術前に正確な病態の把握と解析が可能になる。図1は、4D解析によって、全時相で交連が開かないことが確認でき、非常にraphe(縫線)が非常に短いタイプの二尖弁であることがわかった。
図2は、82歳、女性で、大動脈弁狭窄症と診断されたが、以前に僧帽弁置換を行っており重度の肺疾患もあることから、TAVIの適応となった症例である。当院では、局所麻酔下で、穿刺と止血デバイスを用いた穿刺法で負担の少ない手技を行っており、短期間(術後3日程度)での退院を可能にしている。PhyZiodynamicsの4D解析によって、すでに留置されていた僧帽弁との位置関係や干渉具合を確認しながら、大動脈弁の治療を行うことができた。
弁輪の石灰化の4Dモーション解析
TAVIでは、術前に弁輪部の石灰化を正確に評価することが重要である。弁輪部周囲の石灰化は、弁置換後の脇漏れや弁周囲逆流、バルサルバ洞の破裂、冠動脈閉塞などの原因となる。これについても、4D解析で術前の石灰化を伴った弁の挙動や弁置換後の石灰化の状態を確認することで、より正確な把握が可能になった。図3は左冠尖先端に石灰化があり、弁留置の際に石灰化が押し出されて左冠動脈閉塞を来すリスクが予測されたが、術後の4D解析では石灰化領域が冠動脈を避けて弁が留置されていることが確認できた。
将来的にはTAVI術前に、バルサルバ洞径や石灰化の程度、弁尖の性状などに基づいて、弁留置の可否の予測が期待されるが、それを可能にする方法として、PhyZiodynamicsの4Dモーション解析によるDisplacement(変位)とVelocity(速度)の評価がある。Displacementでは、目的のボクセルが
1フェーズ目から移動した距離を変位として測定するもので、Velocityは前フェーズから移動した速度を解析する。これをカラーマッピングして動態画像とフュージョンして観察することで、組織の中で動きの悪い部分を把握することができる。図4のDisplacement解析では、カラーマッピングの経時的な変化によって、石灰化のある左冠尖部の動きが悪いことがわかる。
バルサルバ洞が小さい場合には、石灰化の圧迫によって冠動脈閉塞や破裂などの合併症の危険があるため、4D解析によって全時相での石灰化とsinus of valsalva(SOV)のサイズの比較を行うなどで、術前のリスク予測に生かすことが今後の研究課題の一つである。
僧帽弁弁輪石灰化(MAC)の解析
さらに、PhyZiodynamicsでは僧帽弁の石灰化に対する解析も期待される。僧帽弁に全周性の石灰化がある場合では、そのまま人工弁を留置することもあるが、僧帽弁弁輪石灰化(mitral annular calcification:MAC)は僧帽弁の動きを制限することから、弁輪の動きを評価することが重要になる。PhyZiodynamicsで処理することで弁輪の動きがスムーズになり、Dynamic MPRを使うことで弁輪面をそろえて確認できることから、MACの評価に有効と考えられる(図5)。さらに、Velocity解析ではMACのある部分については、動きの速度が低下していることが評価できる(図6)。
Possible leaflet thrombosisの評価
最近の弁置換術の話題の一つとして、留置した弁に血栓(leaflet thrombosis)が付着し、弁の動きが悪くなることが報告されている。外科、TAVIに限らず起こるとされており、従来から無症候性(subclinical)なものはあると言われてはいたが、十数年使われてきた外科弁でも臨床的な報告はなかった。それが明らかになったのは、術後の4D-CTによるフォローアップで、弁尖の動きが低下する“possible thrombosis”が観察されるようになったからである。Makkarらの論文では、4D-CTで弁尖に血栓のような黒い付着物が認められ、弁の動きが悪くなること(leaflet motion reduction)が報告されている2)。ただし、このようなleaflet motion reductionがあっても、死亡リスクの上昇や塞栓症リスクの向上はないとも言われており、直ちに臨床的な問題があるわけではない。しかし、本当に長期的に治療の必要がないのか、発見した際にワーファリンなどの抗凝固療法を行わなくてよいのかはわかっておらず、possible thrombosisに対してより詳細で正確な病態の把握が必要になる。
図7は、PhyZiodynamicsによる4Dモーション解析だが、より滑らかな動態の観察と4D解析によって、図7 aのように弁尖に血栓が付着していても動きに変化がないことや、図7 bのように二尖に対して血栓が強く付着し動きが落ちていることが判断できる。TAVIを実施する患者の平均年齢は85歳を超えており、全例にワーファリン投与が必要かどうかなど、PhyZiodynamicsでは適切な治療選択のための情報の提供が期待できる。
まとめ
PhyZiodynamicsを用いた4D解析のメリットは、すべての心周期における包括的な評価が可能なことであり、術前の形態診断のゴールドスタンダードになっているが、今後は弁周囲逆流の予測や僧帽弁位人工弁との位置関係の把握などが期待される。さらに、今後の目標としては、弁の石灰化とバルサルバ洞のサイズを比較して術後の冠動脈閉塞やバルサルバ洞破裂など合併症の予測を行うことが一つの研究課題である。また、僧帽弁弁輪石灰化に対する解析の臨床的意義や治療応用への期待、またpossible thrombosisの評価などでTAVIの適切な治療選択に役立つことが期待される。
[参考文献]
1)Hayashida, K., Bouvier, E., et al. : Transcatheter aortic valve implantation for patients with severe bicuspid aortic valve stenosis. Circ. Cardiovasc. Interv., 3, 284〜291, 2013.
2)Makkar, R.R., Fontana, G., et al. : Possible Subclinical Leaflet Thrombosis in Bioprosthetic Aortic Valves. N. Engl. J. Med., 21, 2015〜2024, 2015.
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