New Horizon of 4D Imaging(ザイオソフト)
2015年11月号
Ziostation2による血管拡張剤を用いた腹部手術支援
星加美乃里(岡山済生会総合病院画像診断科)
現在の腹部領域におけるCT Angiography (CTA)の手術支援が担う役割は大変大きい。腹部末梢血管の描出能向上を目的として、当院では血管拡張剤(ニトログリセリン)を使用している。より詳細なCTAを提供できるようになったことは、3D画像の新たな可能性であり、詳細で正確な手術支援を提供できると期待している。本稿では、当院におけるZiostation2を用いた血管拡張剤を使用したCTAを、実際の画像を提示しながら紹介する。
腹部画像診断の実際
腹部領域におけるCTの有用性は広く認識されており、病変の存在診断、質的診断、遠隔転移診断に加えて、術前検査、シミュレーションとしてのCTAも多くの施設で行われている。特に血管のバリエーションが多く、動脈、門脈、静脈、胆管など脈管系が複雑に絡み合う肝胆膵領域での術前検査の重要性は高い。近年、開腹だけでなく、腹腔鏡の手術が増加しており、当院でもその数は年々増加している。正確で詳細な術前評価は、手術計画、手術の時間短縮、医原性損傷の回避、術後の管理に至るまで、重要な役割を担っている。現在、多くの施設で多断面再構成(multi planar reformat:MPR)、ボリュームレンダリング(volume rendering : VR)、 最大値投影法(maximum intensity projection:MIP)などの3D画像を提供し、術前・術中に大きく貢献していることは言うまでもない。
高度な手術支援としての3D画像は、十分な情報量を含んだ元画像があってはじめて提供できるものである。しかし、以前に術前血管評価として行われていたDSAと比べると、CTAでは空間分解能の限界から末梢血管の描出は必ずしも十分ではない。今日では機器の開発も進み、低管電圧や逐次近似画像再構成法を用いた分解能の向上、ノイズ低減は有用であると思われるが、それらの技術は機器の制約が大きく、すべての施設で行うことは困難である。特別な機器を保持している施設だけではなく、今ある機器で描出能を向上することも重要である。
血管拡張剤を用いたCTA
一般的には、血管のCT値を高くすれば描出能は向上すると言われている。しかし、造影剤量や注入スピードには限界があり、造影剤腎症や下大静脈、肝静脈への逆流などの問題が発生する。加えて、動脈では一定以上のCT値を担保すると、それ以上CT値を高くしても視覚的な評価は向上しないという報告があり1)、当院の視覚評価でも同様のことがわかった。これらのことから、注入プロトコール、造影剤量、装置などの変更ではなく、血管を末梢まで描出できる方法が望まれる。
そこで、われわれは日頃より心臓CTで使用している血管拡張剤(以下、ニトログリセリン)を用いて、血管の描出能向上を図っている。ニトログリセリンは、心臓CT撮影時に多くの施設で使用されている一般的な薬品である。ニトログリセリンを使用するメリットとして、安全性が認められている点が大きい。本邦では1953年以降、汎用薬として使用されている。効果の発現および消退が速やかであり、体内での蓄積性はなく、血管拡張作用に基づく症状変化以外、留意すべき毒性、副作用が認められない薬品である2)。投与禁忌症例などの対応は心臓時同様注意する必要があるが、今までわれわれが経験してきた中で、問題となる副作用はみられていない。診療放射線技師にとっても心臓CT、IVR等でなじみの深い薬品であるため、腹部の検査で用いることにも抵抗の少ない薬品であると思われる。当院では、管理やコストの面より舌下錠を使用している。造影剤投与前にニトログリセリンを舌下投与することにより、格段に描出能を向上することができる(図1)。ニトログリセリンは直接血管平滑筋に作用し、血管の拡張作用を示すことが報告されている。冠動脈以外の腹部血管もこの作用により、末梢血管が拡張しCTAの描出能が向上する。
当院のCTA検査で用いる装置は、64列MDCT 2台(Aquilion64:東芝社製、Discovery CT750 HD:GE社製)である。単純CTを撮影したのち舌下錠を投与して、ボーラストラッキング法による多時相の撮影を行っている。一般的にニトログリセリン錠は、舌下投与後4分後に最高血中濃度に到達するといわれている。しかし、年齢や口渇により溶け方には個人差が生じるため、時間だけではなく溶けているかどうかの確認は必要である。
膵切除の際に必要な血管の描出を外科から要望されたことが、ニトログリセリン使用のきっかけである。膵切除は膵がんだけでなく、下部胆管がん・十二指腸腫瘍・胃腫瘍などさまざまな腫瘍で必要になる。術式も多岐にわたり、高度な手術になることが多く、術前診断の重要性はとても高い。現状の運用は、外科から術前で指示があった場合に使用している。血管としては、前上膵十二指腸動脈と前下膵十二指腸動脈、後上膵十二指腸動脈と後下膵十二指腸動脈のアーケード(図2)や背側膵動脈(図3)、横行膵動脈(図4)など、バリエーションが多く、かつ微小血管で描出が困難な血管をニトログリセリンを用いて描出し、画像を提供している。元来のCTAでは描出できなかった微小血管が、3D画像で表現できるまで描出能を向上できたことにより、外科からの期待も大きくなっている。肝胆膵領域は3相撮影することがほとんどであり、ルーチンとしては動脈と門脈のMIP画像、VR画像をそれぞれの相で作成している(図5)。しかし、門脈や静脈は動脈以上にタイミングや造影剤量が画質と関係してくる。肝機能や門脈圧亢進などにも描出能は左右される。そのような状況において、ニトログリセリンは門脈描出にも有用であると考えている。
脳血管平滑筋を含め、ほとんどあらゆる血管が平滑筋の弛緩により拡張する。この領域に限らず、CTAの新たな可能性としてニトログリセリンが有用な部位は多くあるとわれわれは期待している。
Ziostation2の運用状況
当院ではZiostation2を導入し、CT室5台、MRI室2台、IVR室1台、放射線治療室1台、読影室1台、医局2台の計12台のクライアントで画像処理や診断を行っている。入院棟の新築・移転に伴い、9台のクライアントを追加予定である。ほとんどの技師がCTをローテーションで担当するため、精度と使いやすさを兼ね備えたワークステーションが必須となる。当院ではほとんどの画像をZiostation2で作成しているため、多機能のソフトを使いこなせるようになるだけでなく、すべての技師が一定レベル以上の画像を比較的短い時間で作成できなければならない。Ziostation2では骨除去などの自動処理も適宜使用しながら、さまざまなツールを駆使し素早く処理を行うことが可能である。使い慣れているZiostation2をネットワークで使用できるメリットも大きい。IVR室においても、ワークスペースからCTAの画像を開くことができるため、新たな3D画像が必要な場合でも迅速にSlab MIP画像やVR画像を作成し、血管を同定しながら治療することも可能である。緊急の場合など、使い慣れているワークステーションで素早く臨床医の求める画像を柔軟に提供することができる利点は大きい。
また、高体重症例については、線量、造影剤量ともに頭打ちになって、画質の劣化が問題となるケースも多い。そこで、ノイズ低減が図れるPhyZiodynamicsの導入は、撮影での限界を補うことができる新たなツールとしての期待も大きい。また、非剛体位置合わせも腹部領域にはなくてはならないソフトウエアである。位置合わせが可能になると多時相や他のモダリティとの正確なフュージョン画像の作成も可能であり、より情報量の多い3D画像が提供できると期待される。
まとめ
詳細で正確な3D画像を提供するには、装置と撮影・造影技術とワークステーションのバランスが必要不可欠である。今回、元データの分解能を上げる試みとしてニトログリセリンの使用を報告した。ニトログリセリンによる腹部CTAは末梢血管の描出能を向上し、術前評価の精度向上が期待できる。作成する画像に責任を持ち、各診療科と連携し、Ziostation2を駆使して質の高い3D画像が提供できるように今後も努力していきたい。
[参考文献]
1)阿部雄太, 高野公徳・他:局所進行膵癌における画像支援シミュレーション. 胆と膵, 34・1, 87〜95, 2013.
2)ニトロペン®舌下錠0.3mg. 医薬品インタビューフォーム
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