技術解説(シーメンスヘルスケア)

2023年3月号

Cardiac Imaging 2023 CT技術のCutting edge

「NAEOTOM Alpha」Dual Source photon-counting CTによる冠動脈イメージング

日和佐 剛[シーメンスヘルスケア(株)CT事業部]

0.2mmスライス厚による高分解能イメージング,66msの時間分解能によるスペクトラル解析,電気ノイズの影響を排除した低ノイズ画像の実現,これらはすべて「NAEOTOM Alpha」(図1)による冠動脈イメージングで活用される特長である。従来の固体シンチレーション検出器を搭載するCT装置(EID-CT)ではとらえることができなかった情報が,NAEOTOM Alphaでは得られ,冠動脈CTの画像診断にも影響を与える臨床結果が報告され始めている1)〜3)。本稿では,高分解能で低ノイズ,そして,オンデマンドにスペクトル解析を利用できるDual Source photon-counting CT:NAEOTOM Alphaがもたらす臨床的有用性を紹介したい。

図1 NAEOTOM Alpha装置外観

図1 NAEOTOM Alpha装置外観

 

■0.2mmスライス厚による高分解能イメージング

NAEOTOM Alphaは,Dual Source CTとしての高い時間分解能(ハーフ再構成:66ms)と高速撮影(最速73cm/s)を兼ね備えたphoton-counting CTであり,モーションアーチファクトの克服が重要となる冠動脈イメージングでも,シャッタースピードの高さを生かした高分解能イメージングが可能である。体軸方向のスライス厚は最小で0.2mm,面内の空間分解能は0.11mmを実現しており,EID-CTと比べて約3倍の空間分解能を有する。空間分解能の向上が求められる代表例として,高度石灰化や細径ステントの内腔評価が挙げられるが,0.2mmスライス厚による高分解能イメージングは,ブルーミングアーチファクトの影響をより抑えた狭窄評価やプラーク性状の把握,ステント内再狭窄の評価が可能となっている(図2,3)。
図2に冠動脈ステントにおける高分解能イメージングの効果を示す。一般的なkernelを用いた0.6mm画像(図2 a)ではブルーミングアーチファクトの影響を受けステント内腔の描出が曖昧だが,sharp kernelを適用した0.2mm画像(図2 b)では明瞭に内腔が観察できる。特に,0.2mm画像におけるノイズの上昇が低く抑えられていることは特筆すべき特長の一つで,0.6mm画像と比べてスライス厚が1/3,かつ骨や肺野の評価にも使うsharp kernelを適用しているにもかかわらず,ノイズの上昇を抑えた高精細な画像が提供されている。
加えて,CT装置がX線を利用するモダリティである以上,基本性能の向上と被ばく低減を切り離して考えることはできないが,NAEOTOM Alphaは0.2mmスライス厚による高分解能イメージングの運用が,ヨーロッパの診断参考レベル4)を十分下回る線量レベルで実現できている(図3)。その理由として,photon-counting CTはEID-CTと異なりX線の検出過程で光に変換する過程がなく,検出器に物理的な隔壁を用意する必要がないことが挙げられる。そのため,幾何学的な線量利用効率は常に100%を達成しており,空間分解能と画像ノイズのバランスが取れた理想的な高分解能イメージングを実現している。また,photon-counting CTは,X線フォトンのエネルギー情報が得られる特性を生かして,検出器回路で発生する電気ノイズを恣意的に除去することができる。これらの特長は,ノイズ対策が必要となる高分解能イメージングにおいて重要で,NAEOTOM Alphaは同等線量で撮影したEID-CTと比べて,最大で47%の画像ノイズ低減効果があることが示されている5)

図2 0.2mmスライス厚による高分解能イメージング(冠動脈ステント) 0.6mm画像(a)ではブルーミングアーチファクトの影響を受けステント内腔の描出が曖昧だが,sharp kernelを適用した0.2mm画像(b)では明瞭に内腔が表現されている。 (画像提供:スイス・University Hospital Zurich)

図2 0.2mmスライス厚による高分解能イメージング(冠動脈ステント)
0.6mm画像(a)ではブルーミングアーチファクトの影響を受けステント内腔の描出が曖昧だが,sharp kernelを適用した0.2mm画像(b)では明瞭に内腔が表現されている。
(画像提供:スイス・University Hospital Zurich)

 

図3 0.2mmスライス厚による高分解能イメージング(120kVp,DLP:290mGy・cm) ヨーロッパの診断参考レベル(EUCLID 2020 DRLs:冠動脈CT 459mGy・cm)を十分下回る線量レベルで,0.2mmスライス厚による高分解能イメージングが実現できている。 ➡:再狭窄部位 (画像提供:ハンガリー・Semmelweis University)

図3 0.2mmスライス厚による高分解能イメージング(120kVp,DLP:290mGy・cm)
ヨーロッパの診断参考レベル(EUCLID 2020 DRLs:冠動脈CT 459mGy・cm)を十分下回る線量レベルで,0.2mmスライス厚による高分解能イメージングが実現できている。
:再狭窄部位
(画像提供:ハンガリー・Semmelweis University)

 

■66msの時間分解能によるスペクトラル解析

高度石灰化は冠動脈CTにおける狭窄評価の診断能を低下させる主な原因とされており,コントロール不良の高心拍や心拍不整とともに克服すべき課題となっている。NAEOTOM Alphaは66msの時間分解能によるスペクトラル解析が可能であり,心筋虚血や梗塞の評価に加えて,冠動脈の石灰化除去を目的としたアプリケーション「Quantum PURE Lumen」も搭載している。
Quantum PURE Lumenは,物質弁別と仮想単色X線画像を組み合わせたアルゴリズムを採用しており,画像からカルシウム成分を選択的に除去できることに加え,任意のエネルギーレベル(keV)の画像表示が可能となっている(図4)。そのため,石灰化によるブルーミングアーチファクトの影響を排除した内腔評価ができ,従来,冠動脈CTの適用が制限されてきた高度石灰化病変の診断能向上に期待が持たれる6)。不要な心臓カテーテル検査を回避することにつながり,ゲートキーパーとしての重要な役割を果たすと考える。また,Quantum PURE Lumenは,冠動脈をはじめ,末梢動脈である四肢動脈や頸動脈,腎動脈,および大動脈の閉塞性疾患への応用も可能で,CT検査の適用範囲を広げるとともに,詳細な解剖構造の把握と治療戦略の立案に貢献することができる。

図4 Quantum PURE Lumenによる冠動脈の石灰化除去 石灰化によるブルーミングアーチファクトの影響を排除した血管内腔評価ができ,従来,冠動脈CTの適用が制限されてきた高度石灰化病変の診断能 向上が期待できる。 (画像提供:ドイツ・University Hospital Augsburg)

図4 Quantum PURE Lumenによる冠動脈の石灰化除去
石灰化によるブルーミングアーチファクトの影響を排除した血管内腔評価ができ,従来,冠動脈CTの適用が制限されてきた高度石灰化病変の診断能 向上が期待できる。
(画像提供:ドイツ・University Hospital Augsburg)

 

photon-counting CTは,高分解能化や低線量撮影などの基本性能が大きく向上することに加え,X線フォトンのエネルギー情報を活用したスペクトラル解析がオンデマンドで可能となる。今後の冠動脈イメージングの発展を支える重要なイノベーションとなることに加え,現状の診療上の課題を解決するソリューションとなることを期待している。

●参考文献
1)Mergen, V., et al. : Ultra-High-Resolution Coronary CT Angiography With Photon-Counting Detector CT : Feasibility and Image Characterization. Invest. Radiol., 57(12): 780-788, 2022.
2)Mergen, V., et al. : First in-human quantitative plaque characterization with ultra-high resolution coronary photon-counting CT angiography. Front. Cardiovasc. Med., 9 : 981012, 2022.
3)Soschynski, M., et al. : High Temporal Resolution Dual-Source Photon-Counting CT for Coronary Artery Disease : Initial Multicenter Clinical Experience. J. Clin. Med., 11(20): 6003, 2022.
4)European Study on Clinical Diagnostic Reference Levels for X-ray Medical Imaging.
https://op.europa.eu/en/publication-detail/-/publication/a78331f7-7199-11eb-9ac9-01aa75ed71a1
(2023年1月13日閲覧)
5)Rajendran, K., et al. : First Clinical Photon-counting Detector CT System : Technical Evaluation. Radiology, 303(1): 130-138, 2022.
6)Allmendinger, T., et al. : Photon-Counting Detector CT-Based Vascular Calcium Removal Algorithm : Assessment Using a Cardiac Motion Phantom. Invest. Radiol., 57(6): 399-405, 2022.

 

問い合わせ先
シーメンスヘルスケア株式会社
コミュニケーション部
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