技術解説(シーメンスヘルスケア)

2022年4月号

腹部画像診断における核医学の技術の到達点

PET/CT装置の腹部領域における最新画像診断

堀次 元気[シーメンスヘルスケア(株)分子イメージング事業部]

本稿では,Siemens Healthineersの最新技術を活用した腹部領域におけるPET/CT画像診断について紹介する。

■Whole-body Dynamic PET

一般的に,FDG-PET検査は薬剤を投与した後,約60分後から全身を撮像し,この時点における静止画像を得る。Siemens HealthineersのPET/CT装置では,速度可変型寝台連続移動“FlowMotion”を用いて,全身を複数回往復して画像データを収集する“Whole-body Dynamic(以下,WBD) PET”撮像を実施することが可能である。WBD PETでは,検査時間を延長することなく動態画像を得ることができ,さらに,コンソール上でサイノグラム加算したデータの画像再構成を実施し,1つの全身静止画像を作成することも可能である。Nishimuraらは,WBD PETで視覚的に集積形状の変化を評価することで,尿路および消化管における生理的集積と病的集積を区別することが可能と報告している1)。Kotaniらは,WBD PETは大腸領域での連続した集積形状の変化に基づき,生理的集積と病的集積を鑑別することが可能であり,early-delayed撮像よりも高い診断価値を提供する可能性があると報告している2)。WBD PETを行うことで,従来の静止画像では得られなかった動きの情報を活用し,より精度の高い診断を提供できる可能性がある。

■新たな呼吸同期撮像技術“OncoFreeze AI”

PET撮像は自由呼吸下で撮像を行うため,呼吸同期技術が重要である。しかし,呼吸同期技術には検査時間の延長が避けられないという欠点があり,日常臨床において十分に活用されていなかった。Siemens Healthineersが2018年に導入した呼吸同期技術“OncoFreeze”は,mass preservation optical flowアルゴリズムにより計算した動きの情報を画像再構成の中に組み込むことで100%のカウント情報を使用することができ,撮像時間の延長が不要となった。
その後,data-driven gatingによるデバイスレス呼吸波形の取得技術と,臓器の解剖学的情報を自動認識する技術“Automatic Landmarking and Parsing of Human Anatomy(以下,ALPHA) technology”がOncoFreezeに追加され,“OncoFreeze AI”として導入された。PETの生データから呼吸波形を作り,呼吸体動の補正に利用するとともに,ALPHA technologyにより解剖学的構造を検出し,自動的に呼吸同期範囲を設定,画像再構成を行う。デバイスレス呼吸波形を利用できるようになったことで,外部デバイスを装着する必要がなくなる。ポジショニング時に手間が省けることで,患者だけでなく,操作者にとっても煩わしさがなくなり,検査の負担が軽減される。OncoFreezeの収集時間の延長が不要である利点を有するとともに,デバイスレス化,呼吸同期範囲の自動設定などの機能が加わったことで,さらなるスループットの向上が見込まれる。OncoFreeze AIは,日常臨床における呼吸同期技術の活用を促進し,精度の高い画像提供を可能とする。

■WBD PETとOncoFreeze AIの活用例

図1に,WBD PETとOncoFreeze AIの活用例を提示する。WBD PET(3.4min×4pass)を行い画像を確認した後に,呼吸同期が有用と思われる領域に対してOncoFreeze AIを追加している。デバイスレスのため,検査中に呼吸同期を必要とした場合であっても,そのまま検査を追加することが可能であり,30分間の検査枠内でスムーズに実施できる。この一連のプロトコールにより,WBD PETによる集積の経時的変化を診断に生かすとともに,OncoFreeze AIによって呼吸体動のある部位の病変検出能と定量性を向上させることができた例である。新たな技術を活用することで腹部領域におけるPET診断の精度向上に役立てることができる。

図1 WBD PETとOncoFreeze AIの活用例

図1 WBD PETとOncoFreeze AIの活用例
加算画像で見られる下腹部のFDG集積が,WBD PETによって生理的集積()と病的集積(➡)に区別でき,さらに,OncoFreeze AIによって小さな肝転移が明瞭となっている。
(画像ご提供:日本赤十字社医療センター様)

 

●参考文献
1) Nishimura, M., Tamaki, N., Matsushima, S., et al. : Dynamic whole-body 18F-FDG PET for differentiating abnormal lesions from physiological uptake. Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging, 47(10): 2293-2300, 2020.
2) Kotani, T., Nishimura, M., Tamaki, N., et al. : Comparison between dynamic whole-body FDG-PET and early-delayed imaging for the assessment of motion in focal uptake in colorectal area. Ann. Nucl. Med., 35(12): 1305-1311, 2021.

 

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